第136話 米粉とおせんべいが作りたい!
レシピ本の完成と精米機に関する報告を受けた日の夜。
僕は、以前米粉がほしいと思っていたことを思い出した。
最近はお米料理も充実してきたし、何より忙しすぎてうっかりしてた……。
「シャロ、ミア、明日は米粉とおせんべいを作ろうと思うんだけど、けっこう大変な作業があるんだ。手伝ってくれる? お披露目会の手土産にしたいから、それまでに完成させたいんだ」
「米粉とおせんべい……? もちろん、フェリク様のお力になれるのであればお手伝いしますよ! 今度はどういった料理なんです?」
「米粉というからには、お米の粉でしょうか?」
米粉があれば作れるものの幅が一気に広がるし、おせんべいは持ち運びもしやすくてお土産や保存食としても使いやすい。
「そうそう。お米を粉末にしたものが米粉。で、それに水を加えてこねて、茹でてから伸ばして乾燥させて、焼いて醤油を塗ってさらに焼いたものがおせんべいだよ」
「粉にしてこねて茹でて――ずいぶんと手の込んだ料理ですね?」
「なんだか聞いた感じ固そうですが……」
「でもお米と醤油なら、味は保証されているようなものですね♪ 楽しみです!」
シャロがそう言うと、ミアもうんうんと頷いてくれた。
――ああ、おせんべいか。早く食べたい!
カリッとした食感とお米のやさしい奥深い味わい、香ばしい醤油のコラボレーションは、想像しただけでよだれが出そうになる。
この世界だと、やっぱり石臼かなあ?
石臼で米粉を作るの、一度やってみたかったんだよね!
前世でも石臼に手を出そうとしたことがあったが、ネットショップで吟味するところまでで人生が終わってしまった。
だってまさか、三十歳で死ぬなんて思わないし!
――そうだ、今日のうちに、お米を洗って浸水させて乾かしておかなきゃ!
「フェリク様、小麦粉用の石臼、ご用意いたしました!」
「ありがとう。それじゃあ早速始めようか!」
翌日、石臼の用意ができるのを待って、早速米粉作りに着手することにした。
石臼を運んだりお米を運び出したりしている様子が気になったのか、工房のみんなも続々と集まってくる。
「急に石臼なんか出してどうしたんだ? 小麦粉なら倉庫にまだあるはずだが」
「必要なら持ってくるよ?」
「ううん、今日はこれで、お米を粉にしたいんだ」
今後商品化もするだろうし、作り方を覚えてもらういいチャンスかもしれないな。
みんなにも見ていてもらおう。
「今日は、『おせんべい』っていうお米でできたお菓子を作ろうかと。力がいるので、もし手が空いてたら手伝ってもらえますか?」
「お、新商品か! それはもちろん!」
「あたしも力仕事は得意だよ! 何をしたらいい?」
お米を使った新たなお菓子と聞いて、従業員たちも張り切りを見せてくれた。
うちの従業員さんたち、こういうときノリがいいから本当に助かる!
特に米粉作りは力も根気もいるだろうし、人手が多いに越したことはない。
「お米は、昨日の夜に洗って浸水させて、乾燥させたものです。まずはこれを粉にしたいんですけど――その前に、どなたか石臼の使い方を知ってる人はいませんか? 実は僕、使ったことがなくて……」
「なるほど、それで石臼があるんだね。――たしかアランは、昔パン屋で働いてたんじゃなかったっけ?」
「おうよ。石臼は使い慣れてるぞ!」
キースがそう言って従業員のうちの一人を見ると、アランと呼ばれたその男は、自慢げに腕まくりを始めた。
「えっと……このお米を、細かい粉末になるまで石臼で挽きたいんです」
「よし、任せろ!」
「あっ、待って! その、僕もやりたいのでやり方を――」
せっかく石臼で米粉を作れるチャンスなのだ。自分でも回してみたい。
「――ふっ、ははっ。もちろん。社長も好奇心旺盛な年頃だもんな。まず石臼の造りだが――」
アランは僕の意気込みにフッと吹き出しながらも、石臼の仕組みや使い方を丁寧に教えてくれた。
そして石臼の上に米を置き、少しずつ穴の中へ投下しながら反時計回りに回していくと、隙間から少しずつ荒く砕かれた米が出てくる。
「おおお! これはもち米じゃなくてうるち米だけど、まるで道明寺粉みたいだ」
「どう……? よく分かんねえが楽しそうで何よりだ。あっはっは」
最初は粉とは言えない状態で、少し砕けた米、くらいの出来にしかならない。
でもこれを五回、十回と繰り返すことで、次第に細かい粉末状の米粉へと姿を変えていく――はず。大変な作業だよな、本当に。
「――――ふう」
「そろそろ代わるよ。子どもの力じゃ大変だろう」
「あ、ありがとう。助かるよ」
最後までやりたい気持ちもあったが、腕が痛くなってきたため、続きはアランに任せることにした。
ほかにもやることはあるし、今腕を傷めるわけにはいかない。
「アラン、あたしもやってみたい! あとで少し変わってくれ」
「おう。この様子だと、まだまだ先は長いからな」
こうして途中で休憩を挟みつつ、みんなで交代しながら石臼を回すこと数時間。
ようやく、ある程度まとまった量の米粉が完成した。
前世で売られていた上新粉ほどの細かさはないが、それでも石臼で作ったにしては上出来だろう。
「で、できたああああああああ! みんな協力してくれてありがとう。大人がいると、やっぱり心強いね! 助かるよ!」
「お米が小麦粉みたいになりましたね!」
「真っ白でさらさらです」
元々お米だったとは思えないきめ細かな粉に、みんな目を輝かせる。
でも、香りはしっかりとお米だ。
――アリアもいたら、絶対大喜びしそうなのに、少し残念だな。
でも、帰ってきたときに新たなお米料理をたくさん披露できるように、僕も頑張らなきゃ!
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