第64話 アリアとの食べ歩きデート、そして――

 9歳になり、3ヶ月ほどすぎた頃。

 ものすごく久々に、僕もアリアも休みが取れた。

 同じ日に全日の休みが取れたのは、アリアが働き始めて初めてだ。


「ねえフェリク、今日は授業もないし、久々にグラムスの屋台でも見に行かない?」

「ん、いいよ。領主様も今日は好きにしていいって言って下さってるし。僕も最近は工房に籠っての作業が多かったから、あんまり街まで行けてないんだ」

「じゃあ決まりっ♪ 私、準備してくるっ!」


 アリアは、工房2階にある僕の部屋から元気よく走り去っていった。

 いつも仕事と勉強で大変なはずなのに、あの体力はどこからやってくるのか。

 若いってすごい。まあ僕も若いんだけど。


「シャロとミアも、同行頼めるかな。僕とアリアだけでの外出は、さすがに怒られそうだし」

「もちろんです」

「かしこまりました」


 僕たち4人は準備を済ませ、馬車でグラムスへと向かった。


 ◆◆◆


「――すごいですね、お米大人気ですよ、フェリク様」

「あはは、いつもみんなが協力してくれるおかげだよ」


 ――本当、来るたびにお米の存在感が増してるな。

 普通に考えれば反対勢力もいるはずだし、競合となるほかの商会だってあるのに。


「やっぱりおじさんはやり手だなあ」

「……フェリク、それ本気? パパもすごいけど、一番すごいのはフェリクよ」

「そ、そうかな? でも僕だけではここまでの市民権は得られなかっただろうし、きっとどこかで潰されて終わってたよ」


 最近はレストランでも人気商品として注目を浴びていて、一部の貴族を除けば米への抵抗はかなり薄れつつある。


 屋台通りへ行くと、フローレス商会が作った白米料理専門屋台「ムスビ」は大盛況で、店構えも初期よりだいぶ立派になっていた。


「ちょっと寄っていいかな」

「もちろん。ここ、ママとよく来るのよ」

「そうなんだ? まさかアリアがお得意様だったとはね。今日は何でも奢るよ。シャロとミアも遠慮なく言ってね」


「ムスビ」へ着くと、店員たちが温かく迎えてくれた。


「先生! ……お、今日はアリアちゃんとデートですか?」

「で、デー……そんっ、ちがっ……」


 アリアは真っ赤になってあたふたし、その後黙り込んでしまった。


 アリアならもっとあっさり返すと思ったけど、こんな照れるとは。

 それだけ女の子として成長してきたってことか?

 なんかこっちまで恥ずかしくなってきた……。


「き、今日は僕もアリアも休みだったので、久々に街を散策しようかと」

「いいねえ。せっかくだし、何か食べていきますか?」

「ああ、はい。ええと……じゃあこのライスコロッケで」

「何それ、新商品? 私もそれにする~!」


 シャロとミアも興味を示したため、ライスコロッケを4人分購入することにした。

 トマト風味に味付けされたごはんでチーズを包み込み、衣をつけて揚げたものだ。

 熱々サクサクの衣の下には、爽やかな酸味をまとったごはん、それからトロリととろけるチーズが潜んでいる。


「ねぇ見てフェリク! チーズ!!!」

「お、おう。アリアはほんとにチーズ好きだよね」

「だっておいしいじゃない! 幸せの味がする~っ」


 えへへ、と笑いながら至福そうに頬張るアリアに、こちらまで頬が緩んでしまう。

 振り返ると、後ろではシャロとミアもおいしそうに食べていた。気に入ってくれたようで何より。


「ねえ、次は何食べる? 私、あの店のシュワシュワ甘酒も大好き!」


 シュワシュワ甘酒とは、ラムネような飲み物と甘酒を合わせたもの。

 甘さに爽やかさが加わることでサラッと飲める、スッキリ系甘酒だ。


 ――せっかくだし、買っていくか?


 そんなことを考えていたそのとき。


「フェリク!」

「えっ。ふ、フィーユ様!? ――と奥様まで。こ、こんにちは」


 アリスティア夫人とフィーユに気づき、シャロとミアはもちろん、アリアも慌てて頭を下げる。


「まあ、フェリク君じゃない。奇遇ね。今日はお店の見回りに?」

「ああいえ、今日はお休みをいただいたので、アリアと散策してたんです」

「あら、ごめんなさいねお邪魔して」


 夫人は「ふふ」と微笑ましげに笑っている。

 そしてその隣では、フィーユが少し眉をひそめた――ように思えたが、すぐにいつもどおりの笑顔になって僕に話しかけてきた。


「へ、へぇ? 仲良いのね」

「ええまあ。幼なじみですので」

「フィーユ、せっかくの休日なのだから、わたくしたちは。フェリク君、また新作期待しているわね」

「えっ、お、お母さまっ!? わたくしはまだフェリクと――っ」


 夫人は何か言いたげなフィーユを連れて、少し先に停めてあった馬車へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る