第132話 いろんなやり方があっていいよね!

「――考えたんだけど。やっぱりシャロとミアとグリッドさんには、特に用事がない日に限り、僕と一緒に夕食をとってほしい」


 食事が運ばれてきたタイミングで、僕はシャロとミア、グリッドさんにそう伝えることにした。

 グリッドさんは、僕の意見に驚いた顔を見せる。


「……い、一緒に、でございますか?」

「僕の役割は、貴族として振る舞うことじゃない。ここでおいしいお米を研究して、レシピを開発して、お米文化を発展させることなんだ。一人でごはんを食べてたら、気づけるものも気づけなくなっちゃうよ」


 顔を見ながら一緒に食事をして、ときには意見を交換していかなければ、どんどん視野が狭まってしまう。この世界の一般的な感覚からずれていくことも怖かった。


「今後はみんなの仕事を奪ったりしない。ここの主としての自覚を持てるように頑張る。でも食事に関しては、むしろ一緒に食べることも仕事の一環だと思ってほしい」

「……承知いたしました。旦那様がそのようにおっしゃるのでしたら。では我々の分も準備いたします」

「ありがとう! 分かってくれて助かるよ!」

「よかったですね、フェリク様♪」


 こうしてなんやかんやありつつも、どうにかみんなで食事をとる了承を得た。

 今日の晩ごはんは、ベーコンやチーズがたっぷり乗ったサラダ、先ほど作った「味噌入りチーズリゾット」、それからいちごやぶどうなどのフルーツ。

 いつの間にこんなに用意したんだろう? すごい。


「食事中は、できるだけ自由にしてもらえるとありがたい」

「承知しました! いつもの感じですね! ではいただきます!」

「いただきます」

「……か、かしこまりました。では私も失礼して――」


 グリッドさんは、王城で長年執事を務めていたらしいベテランだ。

 それゆえに、常識を覆されて戸惑っているように見える。

 一方、こんな立派なダイニングルームでも、シャロはまったく臆することなくいつも通りのテンションを貫いている。


「んんーっ! おいしいっ! 味は、クラットで提供している餅ミルクグラタンのお米版、という感じですね。リゾットのお米の食感、私大好きなんですよね~!」

「ふふ、おいしいです。アリア様が大喜びしそうな味ですね」


 まあチーズだからね!

 シャロが先陣を切ったことで、ミアもすっかりいつもの調子に戻っている。

 それにしてもおいしい。やっぱり味噌を入れて正解だったな!

 味噌とチーズって、和と洋なのになんでこんなに合うんだろう。


「グリッドさんはどう?」

「――正直、とても驚いております。話には聞いておりましたが、まさかお米がこんなにもおいしい料理になるとは――! これは心を掴まれるわけです」


 どうやらグリッドさんも気に入ってくれたようだ。よかった。

 サラダも、やや酸味のあるドレッシングがかかっていて、濃厚なチーズリゾットとのバランスがとてもいい。

 偶然か? いや、これは――!


「今日のサラダ、いかがですか? ドレッシングは私が作ったんですよ!」

「やっぱり! すごく合うよ! オリーブオイルと酢、あとは黒コショウと塩かな」

「さすがフェリク様! 当たりです! にんにくも入れるか迷ったんですが、今回はチーズリゾットを立たせるためにシンプルにしました」

「本当ですね。とても合います。むぐ」


 僕たちが楽しそうにあれこれ話しながら食事をしているのを見て、グリッドさんがふふっと笑う。


「……先ほどは失礼いたしました。どうやら私は、王城勤めで頭が固くなっていたようです。旦那様は、とてもいい関係を築いておられるように思います。これも旦那様のお人柄あってこそですね」

「そんな! グリッドさんとシャロに言われて、改めてちゃんと考えたんだ。まわりが優秀なだけで僕はこういう生活には不慣れだし、今後も至らない点が多々あると思うけど。でも少しずつ慣れていこうと思う。だからその、よろしくお願いします!」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 こうして、新たな仲間を迎えた僕の新しい生活が始まったのだった。

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