第131話 屋敷の主になるということ
「――ここからは我々が。旦那様はお席でお待ちください」
「ええ、そんな気を遣わなくていいのに……」
「旦那様、屋敷の主として、我々にお任せになるのも大事なことです」
「――う。ごめんなさい……。じゃあ僕は席で待ってるね」
僕がダイニングルームへ行くと、いつの間にか待機していたシャロが椅子を引いて座るよう促してくれた。
「工房では、キッチンでみんなで食べてたのに。なんか慣れないなあ……」
「旦那様ならきっとすぐに慣れます! 主は、使用人のお仕事を奪ってはいけないんですよ! まあ私は、旦那様のそういう優しいところも大好きですけどね~!」
シャロはそう、いつも通り明るく笑ってくれた。でも。
「……これまでどおり名前で呼んでほしいな」
ずっと名前で呼んでくれてたのに突然「旦那様」なんて呼ばれると、なんだか寂しく感じてしまう。
いや、中身はいい大人なのに何言ってんだって話なんですけど!
でも、ただ米活をエンジョイして暮らす予定だった僕が、こんな大きな屋敷を与えられてその主になったのだ。不安にならない方が無理だと思う。
「そうですね……うーん、分かりました。では、普段はこれまでどおりフェリク様とお呼びしますね☆」
「ありがとうシャロ! ミアにもそう伝えておいてくれると助かる!」
「かしこまりました。グリッドさんも説得してみます。一応、彼が使用人の取りまとめ役になると思うので。――それから、とっておきの技をお教えしておきます」
「……とっておきの技?」
「命令すればいいんです。このお屋敷のルールを決めるのはフェリク様であって、私たちメイドでも執事でもありません」
め、命令……。でもそれはなんか強要してるみたいで嫌だな……。
「使用人は、立場をわきまえなければいけません。そう教育されています。でも、命令や計らいで壁を崩してくださることで、物事がプラスに動くこともあります。もちろんマイナスになることもありますけど」
「な、なるほど。シャロは大人だね」
「ふふっ。そりゃあフェリク様よりは大人ですもん。それに私も、一応は子爵家の娘ですから☆ ただし、崩しすぎやお仕事を奪うような命令は、私としてはあまり賛成できません」
――たしかに領主様も、そうした立場や距離感、関係性にはかなり気を配っていたように思う。立場やそれぞれの範囲を明確に区別することも、時には大事なことなのかもしれないな。
「――分かった。ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして。ではフェリク様、お食事をお持ちいたしますね」
シャロはそう言って一礼し、キッチンへと戻っていった。
本当に、シャロの柔軟さや対応力には助けられてばかりだな。
僕も見習わないと!
……アリアもきっと、慣れない環境でスキル【転移】の修行を頑張っている。
あのアリアが、ごねて屋敷へついてくることもなく、自ら「しばらくはクライスカンパニーの仕事も休みたい」と言ってきたのだ。本気、なのだ。
負けてられないよな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます