第39話 七草粥が領主様に認められた!【レシピあり】
両親との再会を果たした日の午後から、家族、それからシャロとミアを含むメイドたちを連れて、かつて住んでいたファルムの近くにある山へと向かった。
この山は、たびたび母と野草を採りに来た場所で、僕にとっては馴染み深い場所だ。
山の麓までは馬車で移動したが、それでも屋敷から1日以上はかかる距離がある。
そのため、途中で近くの村に一泊して山へ向かうこととなった。
……あんなにいろんなことがあったのに、山は変わらないな。
山へ着くと、僕たちは食べられる野草を採って回った。
僕と母が中心となり、父、それからメイドさんたちにも手伝ってもらって、母のスキル【鑑定・植物】で確認しながら持ってきた大きな籠へと集めていく。
数時間もすると、持ってきた2つの籠に山盛りの野草が取れた。
――セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ……。
よし、どうにか春の七草すべて揃ったな。
スズナとスズシロはかぶと大根だし、街でも手に入るけど。
でもやっぱり、せっかくなら山で揃えたい。
こういうの、前世で憧れだったし!
「よし、こんなもんか? 運ぶのは父さんに任せろ!」
父はスキル【身体強化・怪力】を発動させると、いとも簡単に篭2つ、それから僕を持ちあげ抱えて、軽い足取りで山を下りていった。
◆◆◆
「――ほう、これがその『七草』という野草かい? 小さな大根とかぶも混ざっているように見えるが……」
「それも含めて『七草』です」
領主様やメイドたちの好奇の目に晒されながら、母とともにキッチンで七草を綺麗に洗い、茹でて、細かく刻んでいく。
「これをお米を煮たものに加えます」
「な、なるほど……。白米版のカユーということかな?」
領主様の声色に、若干の不安が滲み始める。
貴族として育ち、辺境伯として何不自由なく暮らしてきた彼は、恐らくカユーを食べたことがないのだろう。
しかしそれでも、名前くらいは聞いたことがあるはずだ。
貧しい人々が食べている、まずい主食として。
――ここで領主様がおいしいって思ってくれたら。
そしたらこの世界のカユー、つまりお粥の常識が変わる。
何としても、おいしいと思ってもらいたい……。
研いだ白米、それから米の約8倍の水を入れた鍋を火にかけ、煮立ったら優しく混ぜて弱火にし、蓋をして30分程度じっくり煮込む。
この煮込む時間に米を混ぜないのが、おいしく作るポイントだ。
混ぜてしまうと、粘りが出たり米粒が潰れたりして、ドロドロになってしまう。
「――よし、こんなもんかな」
お粥が完成したら、そこに刻んだ七草と塩を少々加えて、さっと混ぜる。
あとは器に盛りつけて――
「できました。これが七草粥です。お粥はできたてが一番おいしいので、熱いうちに召し上がってください。塩は少しだけ入れてありますが、あとはお好みで」
「……ほう。ではいただくとしよう」
領主様はキッチンに備え付けてある椅子に座り、七草粥をスプーンで掬って口へと運ぶ。メイドたちも、立ったまま器を手にし、それぞれ同じようにした。
「……驚いた。もっとドロッとしているのかと思ったが、思ったより粘り気もなくサラサラしていて食べやすいね。おいしいよ。この野草の独特な香りがまたいい」
「消化もよくて、あまり体調がすぐれない時でも、体に負担をかけずに栄養を摂れるんです」
「スッと体に入ってきて染み込むようだよ。カユーがこんなにおいしいものだったとは知らなかった」
領主様もメイドさんたちも、それから父も母も、時折塩を追加しながらおいしそうに七草粥を味わい、あっという間に完食してしまった。
もちろん僕も。
じんわり染みる七草粥に、体も心も溶かされてしまいそうだ。うまい……。
「一般的に食べられているカユーは、玄米で作っているのでもう少しクセが強いです。あと米の研ぎが甘かったり、吸水させなかったり、煮込んでるときにかき混ぜたりするせいで、お米の良さを殺してしまってたんです」
この世界の米は品種改良がまるでなされておらず、米自体の品質がそもそも良くなかったというのもあるけど。
おいしい玄米をちゃんとした手順で煮込んだ「玄米粥」は、白米で作るお粥とはまた違うおいしさがある。
いずれは、玄米粥も味わってほしいな……。
でも。とりあえず。
七草粥が領主様に認められた!!!
これは大きな進歩では!?
*****
【レシピ】七草粥(写真あり)+ちょい足しアレンジ
https://kakuyomu.jp/users/bochi_neko/news/16817330651606813704
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