第38話 待ってろ七草粥!!!
「三つ葉には私も驚いたよ。突然雑草を入れたグラタンを持ってこられたときにはどうしようかと思ったけどね」
「も、申し訳ありません。私が家族に食べさせていたばっかりに、領主様にそのような……。この子に悪気はないんです」
「いや、謝らなくていい。むしろこれは素晴らしいことだよ。今まで見向きもされなかった雑草に目を向けて、ああもおいしい料理を完成させたのだからね」
実は領主様に試食をしてもらったあと、安定して三つ葉を入手できるよう、農場での栽培が始まった。
元々雑草としてあちこちに生えていた三つ葉の生命力はたくましく、手もかからないそうで、とても元気に育っているそうだ。
「ちなみになんだが、三つ葉以外にもああいうおいしい雑草があるのかい?」
「ありますっ!」
「ち、ちょっとフェリク! うちの食事情をあまり公にしないでちょうだい。恥ずかしいじゃないっ。それに領主様にお出しするなんて失礼よ」
母は赤面し、あたふたしながら僕の発言を止めようとしている。
しかし、それを領主様が遮った。
「クライス夫人、工夫を凝らしておいしい食事を作ることができるというのは、誇るべきことだよ」
「で、でも……その、本当に、名前すらない雑草なんです……」
「だからこそ、私は知りたいんだ」
領主様は真剣に、それでいて怯えさせないよう配慮しつつ優しい声色で、母を説得しようと説明する。
母にとって、あれはただ毒がなくそれなりに食べられる味、というだけの雑草でしかない。それはこの世界で生まれ育った以上、仕方がないことだ。でも。
「そうだよ母さん。あれは雑草なんかじゃない。まだ知られていないだけの、立派な食材なんだ。……領主様、3日ほどお休みをいただいてもいいですか?」
「構わないが、突然どうしたんだい? 雑草と関係があるということかな?」
「はい。インパクトのある料理ももちろん魅力的で、食事を楽しいものにしてくれます。でも時には、体を休められるやさしい料理も必要だと思うんです」
この世界の、特に裕福な家庭の食事は、体への配慮が圧倒的に足りていない。
転生前に暮らしていた日本に比べると文明も未発達な部分が多く、胃腸への負担などまるでおかまいなしなのだ。
――今思えば、カユーは比較的体にやさしい料理ではあったけど。
でもカユーは米の扱い方も知らずに適当に米を煮ているだけでおいしくないし、吸水もろくにさせず作るから、消化に良いかといわれると微妙だ。
やっぱり早いうちに、ちゃんとしたお粥の存在も広めなければ!!!
「体を休めるやさしい料理、か。たしかに、たまに普段の食事から離れて淡泊なものが食べたくなる。……分かった、それならメイドたちも連れて、家族で行ってくるといい」
「ありがとうございます!」
こ、これで七草粥が作れる!
待ってろセリナズナゴギョウハコベラホトケノザスズナスズシロおおおお!!!
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