第97話 いつの間にかお米の神様になってた!
「――フェリク君じゃないか。いやあ驚いたよ。大きくなったね」
「まあ本当! ――って、覚えてないわよね。ごめんなさいね突然」
「え、ええと……?」
長話を終えた大人たちと合流し、見学がてら集落を歩いていると。
突然知らない男女に声をかけられた。
この様子だと、夫婦だろうか。
「フェリク君は覚えてないだろうけど、何度かこの集落に来たことがあるんだよ」
「――ああ、そういや昔は連れてってたな。おまえが面倒くさがるから、途中から父さんだけで行くようになったんだよ」
てっきり有名になった途端現れる知り合い、みたいなやつだと思ったが、どうやら本当に昔会っていたらしい。みんなごめん。
「そ、そうだったんだ。なんかごめんなさい……」
「あっはっは。気にすんな。子どもがこんな寂れた集落に来ても、なんも楽しいことなんかないからな」
「そうそう。それにね、この集落はフェリク君に救われたのよ。みーんなあなたに感謝してるわ。今や領主様のお気に入りになっちゃったから、遠慮してなかなか話しかけられずにいるけどね」
気がつくと、多くの住民がそわそわしながらこちらを見ていた。
「もうっ。領主様のお気に入りだからとかなんとか、フェリクはそんな小さな男じゃないわ。ねえフェリク」
「う、うん。――って言っても、僕は記憶がなくて初めまして状態なんだけど」
アリアが声を上げたことで、遠巻きに見ていた住民たちがこちらへやってきた。
どうやらこの集落には、既にうちのお米が行き届いているらしく。
フローレス商会との契約も済ませていて、少しずつではあるが活気を取り戻しつつあるらしい。
「フローレスさんにフェリク君のお米をもらうまではね、ここはもう廃村待ちだったの。でも行くあてもお金もなくて、みんな途方に暮れてたのよ」
「本当に助かった。ありがとな、フェリク君」
「そ、そんな! 僕はべつに何も……。そういうのは、全部おじさんと領主様がやってくれてて……」
実際、僕は好き勝手にお米の研究やレシピ開発に没頭し、時折貴族のシェフや飲食店の料理長にお米の扱い方やレシピを伝授するくらいで。
お金の管理やそれ以外の仕事は、ほとんど領主様とアリア父に任せっきりだ。
ここに自分のお米が行き届いていることも、正直今知った。
「――君はそれでいいんだよ、フェリク君。ビジネスというのはね、それぞれの得意分野を活かして分担してこそ発展するものなんだ」
「! おじさん!」
いつの間にか近くへ来ていたアリア父が、ぽんっと僕の肩に手を乗せる。
「フローレスさん! 本当に、フローレスさんとフェリク君には感謝してもしきれませんよ。当分の食料まで手配してくださったんですから……」
「いやあ、貴重な米農家さんたちが飢えて廃業してしまったら、うちにとっても損失ですからね。お互いに、持ちつ持たれつですよ」
弱者を救済しつつ、実は手綱を握った――という取り方もできなくはないが、そして実際アリア父ならやりかねないが、それは今は考えないことにした。
「そうだフェリク君、せっかくだから、みんなにお米料理を振る舞ってはどうかな」
「おお! お米の神様の料理が食べられるとは!」
いつの間にかお米の神様になってた。
「うん、ぜひ作らせてよ。――そうだ、せっかくならみんなで作るのはどうかな。作りたいものがあるんだけど、たくさん作るには人手がほしいんだ」
「僕たちに手伝えることがあるんなら、何でも言ってくれ」
「本当? それじゃあ――五平餅を作ろう!」
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