第125話 帰還、そして旅立ちの準備
国王様への謁見も無事終わり、僕と領主様はアリスティア領へ戻った。
どうやら僕は、領主様が所有する土地の一部を貸し与えられることになったらしい。
「あの辺りには既存の屋敷がないからね、これから新たに建設することになる。フェリク君はその間に、土地の活用方法を考えなさい。これがあの周辺一帯の地図だ」
「あ、ありがとうございます。……でも、本当にいいんですか?」
「もちろんだとも。正直広大すぎて管理が大変だったし、あの辺りは今のところ荒れ地だからね。開拓してくれるのならむしろありがたいよ。それに、君は私の大事な息子でもある。もちろんマリィの了承も得ているよ」
領主様としては、僕とアリスティア家の関係をより強固にしておきたい、という思惑もあるのだろう。
僕も、周囲にどんな人間がいるか分からない土地へ引っ越すよりずっと安心できる。
人の恨みや嫉妬は恐ろしいからな……。
ファルムの家を失ったあのときみたいな失敗は、もうしたくない。
「平民に土地を分け与えることはできないから、形式上は貸すという形だけど。でも実質あげたようなものだ。フェリク君の好きにしていいからね」
「は、はい。頑張ります……」
土地……土地かあ。
クライス農場も工場も、これまではアリア父や領主様が企画して完成させたものを提供された形だった。
こんなにまっさらな状態で与えられるのは初めてだ。
大きな施設や農場は既にあるから、研究用の小さなものを作るとして。
ほかはどうしよう……。
それに、メイドさんや従業員も雇わないとね。
……シャロやミアと離れるのは、少し寂しい気もするな。
「――そうだ。君につけているメイドのミアだけどね、よければ君のところで雇うかい? シャロはたしか子爵家の令嬢だから、君が雇うのは難しいかもしれないが」
――えっ!?
「で、でもそんな。2人はとても仲がいいですし、引き離すのは……」
「なら一度、2人と話し合ってみるといい。私としては、君になら2人を託してもいいと思っているよ」
◇◇◇
「――え? フェリク様の領地へ連れて行ってくださるのですか? でも私は……」
「もちろん無理強いはしないよ。でも、ミアが来てくれたら嬉しいなって」
工房へ戻ってミアに話をすると、ミアは困った様子でしばらく黙りこみ、それからおずおずと口を開いた。
「……その、フェリク様は私の経歴を」
「知ってるよ。ごめんね、おじさん――フローレスさんから聞いちゃった」
「よろしいのですか?」
「もちろん。ミアが来てくれたら心強いな」
「は、はい! ありがとうございます! これからも誠心誠意お仕えいたします」
ミアは涙を流して喜んでくれた。
ずっとシャロと一緒にいるわけではないだろうし、僕が知らないだけで、実は裏ではいろいろあったのかもしれない。
「そんな、ミアだけずるいです! フェリク様、私は!? 私のことは連れてってくれないんですか!?」
横で話を聞いていたシャロが、不満げにそう声を上げる。
「でもシャロは、子爵家のご令嬢でしょ? 一応領主様の許可はもらったけど、僕なんかが雇える相手じゃ……。家が許さないんじゃないかな」
「ひどいっ……私を捨てるんですねっ!?」
シャロはそう、両手で顔を覆って泣き始める。
……うん、どう考えても嘘泣きだな!
「僕だって本当はシャロもいてくれたら嬉しいよ。でも……」
「なら何も問題ないじゃないですか! 大丈夫、子爵家の娘っていっても、跡継ぎとは無縁の末っ子ですから☆」
そういう問題!?
本当に大丈夫なんだろうな?
「まあ、シャロとシャロの家が問題ないなら、僕は来てくれると嬉しいけど」
「親は説得してみせます!」
「そ、それなら……。じゃあ、シャロもうちで働いてくれる?」
「やった! うちの親チョロいから大丈夫ですよ! これからもよろしくお願いしますねっ♪」
「う、うん。それじゃあシャロ、ミア、これからもよろしくね」
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