【書籍化】異世界ごはん無双 ～スキルと前世の知識を使って、お米改革はじめます！～【WEB版】

第35話 餅の魔力は全世界共通！

「あ、あのっ、これはっ、いったい何をしているんでしょうかっ！？」

「餅つき、だよっ！」

「粒が、粒がなくなっていきます……」

　僕は今、シャロ、それからミアにも参戦してもらって、大きなボウルに入れたもち米を麺棒でひたすらつくという作業をしている。

　シャロには水をつけた手で返す作業を、ミアにはボウルの固定をお願いした。

　米粒が潰れて粘りが増していく様子に、2人は戸惑いを見せている。

「――こんなもんか。2人とももういいよ、ありがとう」

　仕上がった餅をちぎり、そこに醤油を垂らして2人に渡す。

　もちろん自分の分も！

「熱いから気をつけて食べてね」

「これがお餅なんですね。ぷにっとしてて可愛いです」

「食べるのがもったいなくなっちゃいますね」

　お箸がないため、フォークで適当に切って少し冷まし、突き刺して頬張る。

「ふあ、熱っ……でもおいひいっ」

「……これはたまりませんね。いくらでも食べてしまえそうです。むぐ」

「うん、餅だ。餅だ……」

　うますぎて涙がこぼれそうになる。

　こんな異世界（今の僕はこの世界の住人だけど）で、餅をついて醤油をかけて食べられるなんて。

　神様、本当にありがとうございます……。

「――なんだかいい匂いがするね。いったい何を食べているのかな？」

　気がつくと、入り口付近に領主様とアリア父が立っていた。

　これは餅を売り込む絶好のチャンス！！！

　本当はもう少し味つけを考えてから提案しようと思ってたけど。

　そんなもの、つきたての餅の威力には勝てないだろう。

「ちょうど新しいメニューが完成したところです。できたての今が一番おいしいので食べてみてください。おじさんも！」

「ほう、これも米でできているのかい？」

「はい。スキル【品種改良・米】で作った『もち米』を潰して作った料理です」

　領主様とアリア父にも、同じように小皿に取り分けて醤油をたらした餅を渡す。

　2人とも、香りを嗅いだりフォークで感触を確かめたりして、そして。

「――こ、これは。ねっとりとした滑らかさの中にある程よい舌触りが素晴らしい。米のようでいて、米とはまた違う甘みがある。品種が違うからだろうか」

「醤油との相性も抜群にいいですね。潰した米に醤油をかけただけとは思えないもっちり感とバランスの良さだ」

「フェリク君、もう少しもらえるかい？」

「もちろんです。いくらでもどうぞ。おじさんも食べる？」

「ああ、いただくよ」

　2人は次々とおかわりを要求し、ついた餅はあっという間に消えてしまった。

　成人男性の胃袋はやっぱりすごい。

「お餅はこのままでもおいしいけど、焼くと表面はカリッとザクザクに、中はコシのあるモチモチ食感になるんです。その焼き餅を、屋台のメニューに加えたいなって」

「このままではダメなのかい？」

「今のこの柔らかさはつきたて限定なんです。つきたてみたいに蘇らせる手段もあるけど、屋台で手間をかけるのは難しいし、安定したクオリティを保つためにも焼くのがオススメです」

　電子レンジでもあれば確実だけど、そういうのはないしな。

　焦がしさえしなければ誰だっておいしくできる焼き餅の方が現実的だろう。

「エイダン、どう思う？」

「……そうですね、屋台で出すとなると、極力少ない手間で一定のクオリティを担保できる調理法が重要になってきます。フェリク君の話を聞く限り、たしかに焼き餅の方が現実的ではないでしょうか」

「そうか、では焼き餅の商品化を進めてくれ」

「かしこまりました」

　こうして、屋台メニューの基本は「焼き餅」とすることになった。

　――味つけは、醤油だけだと醤油が足りなくなる危険があるな。

　きな粉も作ってきな粉餅も出そう。ベーコンで巻くのもいいな。

　あとはガーリックバター、トマトソース……あんこもいいけど、この世界に小豆があるかが問題だな……。

「あと、レストランのメニューにも使いたいと思っていて――」