第48話 レシピ本企画とスキルの重要性

「――んん」


 目を覚ますと、目の前にはいつもの天井があった。

 工房の自室だ。


 ――さっきのスキルの話、夢じゃない、よな?


 一瞬不安になったが、スキル特有の、「必要な情報がインストールされた感覚」がたしかにあった。どうやら現実らしい。


「フェリク様、失礼します。領主様がお呼びです」

「――ん、ありがとう。すぐ行くよ」


 シャロに呼ばれて領主様の執務室へ向かうと、そこには領主様とエイダンがいた。

 2人で何か難しそうな話をしていたが、僕に気づくと会話をやめ、座るようにと促してくる。


「実はね、お米レシピの本を出版しようと思うんだ。これまではフェリク君やうちの社員が中心となって、講習会をするか個々にレシピを紹介して回ってただろう? でも、さすがに人手が足りなくなってきてね」

「フェリク君ももうすぐ9歳になるし、将来のことを考えると勉強もしなければならない。だから君の時間を確保するためにも、本にまとめようと思うんだ」


 レシピ本! むしろなぜ今まで気づかなかったんだろう?

 レシピ本なら、これまで伝えきれていなかった幅広いメニューを一気に広めることができる。

 おにぎりも、まだまだ紹介できてないレシピが山ほどある。

 チャーハンやピラフ、混ぜご飯の類もいいよな。


 ――そういえば、梅と青じそのチャーハン大好きでよく作ったな。

 あとジャンクだけど、おやつのカルパスを使ったおにぎりも好きだった。

 ベーコン入りの炒り卵を混ぜ込んだおにぎりも絶品だ。

 ほかにも、無限と言っていいくらいには伝えたいレシピがある。


「レシピ本、ぜひ作りたいです!」

「お、それはよかった。フェリク君にしてほしいことは、お米を使ったレシピの開発と、撮影用にその料理を作ること。あとは作る際のポイントなんかも教えてもらえると助かるかな。それ以外はこちらでどうにかするから心配しないでいいよ」

「ありがとう。……おじさんの会社、出版業もやってたの?」

「いやいやまさか。知り合いに出版社の社長さんがいてね。その人に料理本の編集部を紹介してもらったんだ。今度、フェリク君も一緒に顔合わせに行こうか」


 というか、この世界ってそんな普通に本が手に入るんだったのか!

 うちには本がほとんどなかったし、中世ヨーロッパっぽい雰囲気だし、てっきり紙は貴重で印刷技術も云々、みたいな感じだと思ってた……。

 いや、中世ヨーロッパのリアルな印刷事情なんて知らんけど。

 僕の【品種改良・米】みたいに、出版業に適したスキルを持ってる人もいるってことなのかな。気になる。


「それなら、顔合わせまでに資料になりそうなのを作っておいた方がいいよね? 写真は――え、というか写真!?」

「ど、どうしたんだ急に」

「写真が撮れるの?」

「? おじさんには無理だけど、スキル【転写】持ちの人に頼めば撮れなくはないだろう。フェリク君は見たことないのかい?」

「――え。な、ない、かな。たぶん」


 薄々思ってたけど。

 この世界って文明レベルが低いからこそ、自分はもちろん、周囲の人間のスキルもかなり重要になってくるよな。


 ――そうか、だから顔が広いおじさんは、庶民なのにこんな強いのか。


 改めて、アリア父の頭の良さを実感する。

 僕はまだまだ、この世界のことを全然理解できていない。

 前世でも人脈は大事だと言われてたけど、ここでのそれは、前世の比じゃない。


 今はおじさんや領主様が何でもやってくれるけど。

 でもそれは、僕がまだ8歳の子どもだからだ。

 僕も将来に向けて、ちゃんとこの世界のことを勉強しないとな。


 まあでもとりあえず、スキル【炊飯器】も手に入れたことだし。

 レシピ本用のレシピ開発を急ピッチで進めるぞおおおおおお!!!

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