第32章 いざ城下町へ! 後編

第154話 あなた王城お抱えの転移師さんですよね!?

「フェリク様、フローレス様、ご試着できましたでしょうか?」

「――え、あー、まあ一応は」


 店員さんの呼びかけに、横からアリア父のだいぶ困惑した声が聞こえてきた。

 というかこれ、冷静に考えたらけっこう恥ずかしいな。

 見た目が子どもとはいえ、僕だって中身は――。

 いやでもこれは、スキルを確認するのに必要な犠牲だったんだああああああ!


「フェリク様はいかがでしょう?」

「えっ! あっ、着られました! 出ます!」


 僕は意を決して、試着室のカーテンを開けた。

 目の前に立っていた店員さんと転移師ミシェさんの目が見開かれ、輝いていく。

 女性は本当こういうの好きだな!

 そしてちょうどそのタイミングで、横の試着室のカーテンも開けられた。

 店員さんに「うしろ向いてください!」と促さたアリア父は、渋々一回転した。


「――ぶはっ。ふ、あははは。おじさん可愛い!」

「くっ――笑うな! 誰のせいでこんな目に遭ったと――!」


 アリア父はいつになく動揺し、顔を真っ赤にして屈辱と戦っている。

 べつに僕にそういう趣味はないけど、これは少し女性陣の気持ちが分かってしまったかもしれない!


 ミシェさんと店員さんは、手を取り合ってテンションを上げ、「可愛い!」とか「私の思ったとおりでした!」とか騒いでいる。

 というかミシェさん、あなた王城お抱えの転移師さんですよね!?

 一応客人として招かれてる僕たちにこんな勝手なこと――って思うけど、きっとこの人も貴族令嬢とか力ある家の出とかなんだろうな!


「可愛いです! 最高です! ありがとうございます!!!」

「い、いや、ちょっともう本当に勘弁してください……」

「おじさん、意外と似合ってるよ? 買って帰ったらいいのに!」

「断る! 私がこんなふざけた格好をしていたら、商会の名に傷がつくだろう!」

「ふふ、二人ともとってもお似合いですよ~! さすがはミシェさんの見立てです。猫の親子みたい!」


 女性2人がキャッキャ言いながら僕たちの服についてあれこれ話していると、新たにほかのお客さんがやってきた。

 アリア父は慌てて試着室へ戻ってカーテンを閉め、「買わないなら出るぞ」と動揺を隠しきれていない声で告げる。

 なんかおじさんの弱点を見てしまった気分だな。ふふ。

 僕も恥ずかしい気持ちはあるけど、体は子どもだし客観的に見れば普通だもんね!


 ――っと。せっかくだし、今のうちにもう少し食材を探してみようかな?

 昆布はダメだったけど、もしかしたら――。

 僕はそう思ってわかめや海苔、明太子、わさびなどを探してみたが、どれも王都から遠く離れた場所にしかないらしかった。


 ――でも、全部存在はしてるんだ。

 それに市場に出回ってないってことは、多分食用とみなされてない!

 ふふ、そっかそっか。

 これから僕が探し出して、ごはんのお供として昇華させてあげるからね!


「フェリク君、脱いだらこっちを着てみなさい」

「うわあ!? あ、う、うん。分かった着てみるよ!」


 着替え終えたアリア父が、カーテンを開けて僕に別な服を差し出した。


 あ、危なかった……。

 まあおじさんには見られてもいいと思うけど、でもタイミングってものがあるし。

 あとで改めてちゃんと話そう。


 その後はアリア父が選んだ服をいくつか試着して、使えそうな服を買って、店をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る