第6章 屋台「ムスビ」の出店計画
第26話 屋台の立ち位置と大事なこと
その後も僕たちは、屋台通りをじっくりと見て回った。
その間に、林檎やいちごを飴でコーティングしたもの、塩漬けの豚肉を焼いたものと卵、野菜が挟まったサンドイッチ、茹でたじゃがいもを購入して食べた。
この世界にはマヨネーズが存在しない。
そのためサンドイッチは少し味気なさもあったが。
それでも肉のがっつりとしたうまみと塩気が、歩き回って疲れた体に染み渡る。
ファルムでは高級品として滅多に登場しなかったパンも、ここグラムスではあちこちで売られている。
もちろん、お値段はそれなりだけど。
でもこの価格帯は、グラムスで働く人々には手が出ない額ではないらしく、お手軽さが好評なようで思った以上に売れていった。
ちなみにカユーを売っている店もあったが閑散としており、時折貧しそうな人々が買っていくぐらいで。それ以外の人は見向きもしない。
米農家の息子として、父の苦労を見ているようで何となく悲しくなった。
「お腹いっぱいになったわね~」
「そうだな。さすがに疲れたし、どこかで休憩したいよな」
「でしたら、表の大通りへ行きましょう。カフェがたくさんありますよ」
「……そういえば、表はそんな感じだったな。よし、行ってみよう」
表の通りへ出ると、屋台通りとはまた違う活気に満ちていた。
こちらは屋台通りと違って人を選ぶ店が多いようで、店に入っていくのは皆それなりの身分の人のように思える。
――お金、余裕だと思ってたけど足りるかな。
シャロが店の入り口に立っている店員に何かを伝えると、店員は驚いた様子で深々とお辞儀をし、僕たちを丁重に中へと招いてくれた。
連れて行かれた先は、広くて豪華な、明らかに特別な部屋で。
話を共有された店員たちが周囲で慌ただしく動き始める。
――ああ、多分これ、アリスティア家の名前を出したんだろうな。
米農家の息子だってバレたら殺されそう……。
シャロは最初、入口にいた店員に何かを見せて話していた。
恐らく、アリスティア家の者であると示す証明書のようなものがあるのだろう。
ドリンクを3人分注文し、僕は紅茶、アリアはとシャロはグレープフルーツジュースを飲みながらほっと一息つく。
横に立っていられると落ち着かないので、シャロにも座ってもらった。
「フェリク様、屋台巡りはいかがでしたか? 何か参考になりましたでしょうか」
「すごく参考になったよ。屋台ってもっとイベントっぽいイメージがあったけど、ここでは日常の中に溶け込んでるんだね」
「ええ、屋台通りは、労働者が仕事の合間に空腹を満たす大事な場所なんです」
ちゃんと見ずにイメージで考えてたら、見当はずれなメニューを開発するところだった。危ない……。
「私たちみたいな田舎者にとっては、屋台だってイベント同然だけどね」
「僕は屋台の食べ物なんて、見たことすらなかったよ」
「フェリクの家、いつも大変そうだったもんね~」
「あはは、アリアの家には本当に助けられたよ。ありがとう」
VIPルームのような場所にはあまりに似つかわしくない会話だが、アリアのこの無邪気さに、ふっと心がほぐれた気がした。
子どもの純粋さってすごいな。僕も同じ子どもとして見習いたい……。
――おかげさまで、メニューの方向性も定まった気がするし。
明日からまた研究に勤しむぞ!
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