書籍発売記念SS アリアと一緒におにぎり作り!【レシピあり】
時は少し遡り、アリスティア家の工房にて――。
「フェリク! 今はお仕事中?」
「――アリア。ううん、今は違うよ。おなかすいたし、何か食べようと思って」
工房のキッチンでおにぎりを作っていると、アリアがやってきた。
最近は授業がある日以外でも、アリア父についてくることが多い。
ちなみにシャロとミアは、お使いでグラムスへ行っていて不在だ。
「……フェリクの手って、魔法みたいだよね」
「えっ?」
「ねえ、どうしてそんな綺麗に三角が作れるの? 私が作ると全然三角になってくれないの」
アリアはそう言ってため息をつく。
最近は、アリアの家でも主食がごはんなことが多い。
もしかしたら、アリア自身が手伝っておにぎりを作ることもあるのかもしれない。
「うーん、こうやってごはんを手のひらに乗せて――って、実際やった方が分かりやすいか。アリアも一緒にやる?」
「いいの!? やる!」
「了解。せっかくだし、アリアの好きな味にしていいよ。何を入れたい?」
「うーん、チーズかな」
安定のチーズ!
まあおいしいけど!
チーズ、チーズかあ……それなら――。
「よし、じゃあチーズと燻製豚肉、ねぎ、醤油でどうかな?」
「ええ、ねぎ入れるの? あれ辛いし苦いから嫌い……」
アリアはねぎに反応し、顔をしかめる。
ねぎも苦手なのか。
でも、ごはんに混ぜ込めば熱で辛みも飛ぶし、豚肉とチーズでだいぶ食べやすくなるんだけどな。
――せっかくだし、チャレンジさせてみるか。
「ええー、残念だなあ。このおにぎりは、ねぎが入ることで格段においしくなるんだけどなー。これを試さないなんてもったいないなー?」
「ええ……ほ、本当に? 辛くて苦いおにぎりにならない?」
「ならないならない。嫌いだったら入ってないのを作り直すからさ、とりあえずちょこっとだけでも食べてみようよ」
「…………まあ、フェリクがそこまで言うなら」
僕の熱意に負け、アリアはねぎを入れることに承諾してくれた。やったね☆
「じゃあ準備するから、手を洗って座って待ってて」
「うんっ!」
僕はアリアを座らせて、チーズと燻製豚肉、ねぎを冷却庫から取り出す。
チーズと燻製豚肉は小さな角切り、ねぎは小口切り――かな。
あとは切った燻製豚肉をフライパンでしっかり加熱すれば、準備は完了。
ちなみに燻製豚肉というのは、転生前の世界でいういわゆるベーコンのことだ。
鍋のごはんに刻んだ具材と塩コショウ、醤油を少々入れて混ぜ合わせれば、おいしそうな混ぜごはんが完成する。
これをにぎればいいわけなんだけど――。
「まずはこうやって手を濡らして……」
「……濡らして?」
「ここにこのごはんを乗っけて、一気ににぎる! ごはんは熱いから、乗っけたらすぐにこうやって浮かせながら回転させてね。……はいできた!」
「すごい! 私にもできるかなあ。 ……まあ、とにかくやってみるわ!」
アリアは恐る恐る手のひらにごはんを乗せるが、熱くて耐えられなかったらしく、鍋の中に落としてしまった。
「あ、熱すぎない!? フェリクなんで平気なの……」
「うーん、ごはんが手に触れてる時間が長いと、熱さが伝わってきちゃうんだ。だからこう、さっと――――」
アリアは何度もチャレンジしようとしたが、綺麗ににぎるどころか形にすることもままならない。
うーん……少し冷ましてもいいけど、冷めるとべたっとして手にくっつきやすくなるし、熱いうちににぎったほうが絶対おいしいんだよな……。
「三角じゃなくてもいいなら、ほかにいくらでもやり方があるんだけど……」
「三角がいいっ! あれが一番可愛いわ!」
「でもほら、手、赤くなってるし……」
「こ、これくらい平気よ!」
休み休みしつこく挑戦し続けた結果、アリアはいびつながらもどうにか三角が作れるようになってきた。しかし。
「……フェリクみたいな綺麗な三角にならない」
自分の不甲斐なさに心が折れたのか、アリアは落ち込んでしまった。
9歳の子どもにしては上出来だと思うけど、そんな物言いで納得する子じゃないことは知っている。僕も9歳だし。
でもこれ以上は――――そうだ!
「アリア、ちょっと待ってて」
「? うん? どうしたの?」
僕は卵と少量の水溶き片栗粉を混ぜて溶き卵を作り、塩コショウで味つけして、薄焼き卵を作った。
「…………卵?」
「この卵で、こうやってアリアのおにぎりを包めば――」
「わあ、服を着てるみたいで可愛い!」
「だろ? アリアもやってみなよ」
アリアに薄焼き卵を渡してみると、自分でにぎったおにぎりを卵で挟み、綺麗に形を整えた。
「ねえフェリク、この余ってるお肉とチーズ、もらっていい?」
「うん? いいよ」
「こうやってお皿に載せて、上にトッピングすれば――どう?」
「お、いいね。ケーキみたいだ」
「でしょ? 絶対こっちの方がいいと思ったの! フェリクもマネしていいわよ!」
自慢げに話すアリアに、微笑ましいなあなんて思ってしまう。
アリアにはケーキって言ったけど、本当は和菓子から着想を得たのは内緒だ。
いつか和菓子も作りたい……。
こうやってアリアとおにぎりを作る会、今後もやってみてもいいかもな。
僕はアリア同様に余った具材をトッピングし、おにぎりを完成させた。
「じゃ、食べようか。僕おなかすいちゃった」
「私も! 集中したからペコペコだわ」
周囲を片づけて席につき、二人で「いただきます」をして、薄焼き卵とおにぎりにフォークを入れる。
「――! おいしいーっ! ねぎが入ってるのに辛くないし、チーズとお肉もたっぷりだわ! こうして包んであると、秘密を覗いてるみたいで楽しいね!」
「そうだね。――うん、うまい。この組み合わせにして正解だったよ!」
炒めた燻製豚肉、熱で少し溶けているチーズが合わさったごはんに、醤油の香ばしさが最高にマッチしている。
ねぎが入っているおかげでこってりしすぎず、程よい抜け感もプラスされていて、いくらでも食べてしまえそうだ。
僕もアリアも、心ゆくまでおにぎりを堪能した。
「――ふう、おなかいっぱいだわ」
「うん、僕も……」
「今日のおにぎり、帰ったらママに自慢しようっと♪」
「きっと喜ぶよ。一応、あとでレシピを書いて渡すね」
この薄焼き卵で包むおにぎりも、もう少し改良したらどこかで出せるかもしれないな。見栄えもいいし。でかしたぞ、アリア!
僕はそんなことを考えながら、満腹になって眠そうにしているアリアを眺めたのだった。
*******
☆【レシピ】ベーコンとチーズ、ねぎの卵包みおにぎり
(カクヨムの近況ノートページへ飛びます)
https://kakuyomu.jp/users/bochi_neko/news/16818093080883754254
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