第88話 天然メイド・ユマ、そしてお米に名前が!?
食事のあとは、明日に備えてそれぞれ自由に過ごすことになり、農場が気になった僕は散歩がてら農場を見て回ることにした。
「……え、ええと。僕は1人でも大丈夫だよ?」
「いえ、ぜひご紹介させてくださいっ!」
僕が農場の方へと向かっていると、1人のメイドが駆け寄ってきた。
茶色くウェーブがかった髪を、耳下あたりから左右に結んでいる。
派手さはないが、控えめで可愛らしい雰囲気の女性だ。
「そう? それなら頼むよ。……ええと、名前を聞いてもいい?」
「へっ? あ、ええと……ユマと申します」
「ユマさん、よろしくね」
「ゆ、ユマとお呼びください。その、呼び捨てで……」
さん付けで呼ぶと、あわあわと挙動不審になり、慌ててそう付け加えた。
こういうとき、いつも思うけど。
べつに僕に地位があるわけじゃないのに、なんか申し訳ないな……。
――でも、この子が執事やメイド長に叱られるかもしれないしな。
今はとりあえず、大人しく従うことにしよう。
「んじゃ、ユマ。ユマはここのメイドさんなんだよね?」
「はい。週に4日はメイドとして掃除や洗濯を、2日は農作業をしております」
ユマによると、彼女は農家の娘らしく。
このクライス農場でお米の勉強がしたいと思いやってきたらしい。
しかし現時点で知識があるわけではないため、今は基本はメイドとして働き、週に2日勉強として農作業を手伝っているのだと話してくれた。
「――それで私、ずっとフェリク様にお会いしたかったんです。元々は、うちよりも貧しい米農家さんだったとお伺いしました。なのに今じゃこんな大きなお屋敷に農場があって、私たちの住む場所まで用意してくださって……」
ユマはキラキラと目を輝かせ、クライス家への、そして僕への思いを恥ずかしげもなく語ってくる。
聞いているこっちが赤面してしまいそうだ。
「え、ええと、ありがとう。そろそろ農場の説明をしてもらおうかな」
「――はっ! も、申し訳ありません私ったら」
どうやらこのユマというメイドは、若干天然らしい。
真っ赤になり、慌てて田んぼの方へと駆けていった。
「こちらでは現在、3種類のお米が生産されています。手前右が『絹肌』で左が『恵みの宝石』、奥にあるのが『もち米』です。『絹肌』はもっちり系のうるち米、『恵みの宝石』はしっかり系のうるち米だそうです」
なんと、知らないうちにお米に名前がついていた!
――これはたぶん、考えたの母さんだな!
何か一言あってもよくないか?と思う反面、僕は名前つけるの苦手だし、正直助かったという思いも大きい。
雰囲気が伝わるいい名前だし、僕も使わせてもらおう。
「お米以外にも、野菜や豆類、それから奥様やフェリク様が食用化を実現させた野草の類も生産しております。三つ葉やせり、クレソン、青じそ、ゴボウ、ねぎ、ミョウガ……本当に素晴らしいです」
「あはは、元々は、貧しさゆえに食べてたものだけどね」
でも実際、前世で食べていたとはいえ、母さんのスキル【鑑定・草】がなければ有毒な植物と見分けがつかないからな……。
つくづく、うちはスキルに恵まれている。
「野草って、香りがいいものが多いですよね。私、大好きなんですっ。それにとっても強くて育てやすいんですよ。なので、使っていいと言われている裏庭で育てて食べ放題です。青じそと醤油とごはんがあれば、それだけで幸せ……」
ユマは幸せそうに手を組み、うっとりとその味に思いを馳せている。
「うちが発見、開発したものをそうやって活用してくれるのは、僕としてもすごく嬉しいよ。ありがとう」
「――はっ! すみませんついごはんの世界へ旅立ってました。クライス家は、今やこのアリスティア領になくてはならない存在です。私が暮らしていた村も、クライス家のおかげで救われたんですよ。感謝してもしきれません」
スキル【品種改良・米】を授かってから積み上げてきたいろんなことが、こうして1つ1つ根付いてきている。
――ここに来て、こうして話を聞けて、本当によかった。
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