第29章 お披露目会

第138話 屋敷のお披露目会と、転移師

 おせんべいを完成させ、着々と準備を進めて、いよいよお披露目会当日となった。


「今日はお招きありがとう、フェリク君」

「こちらこそ、お越しくださりありがとうございます」


 シャロやミア、グリッドととも来客の対応をしていると、領主様がやってきた。

 うちの両親とアリア、アリアの両親もいる。


「フェリク、久しぶり! 領主様のお屋敷を離れることになったとは聞いてたけど、こんな豪華なお屋敷に住んでたなんてびっくりだわ!」

「フェリク君、改めておめでとう!」

「おめでとうフェリク君。本当にすごいわ。今や領主様のところのご令息だものね」

「あはは、ありがとう。養子縁組は本当に形式的なものだけどね」


 アリアは周囲をキョロキョロと見回し、驚いた様子で目を輝かせた。

 今は少し慣れたけど、一番びっくりしたのは多分僕だよ!

 アリア父はすでに何度か来ているが、アリア母も「これは……」とかなんとか言いながら屋敷内を見回している。

 一方、父さんと母さんは、驚きながらも僕にどう声をかければよいのか決めあぐねているようだった。


「父さん、母さん、来てくれてありがとう。普通にして大丈夫だよ」

「あ、ああ、うん。……でも」

「私のことは気にしないでくれ。前にも言ったが、べつにフェリク君を取り上げるつもりはないからね。便宜上アリスティア家の養子にしただけのことだ」


 領主様は、困惑している僕の両親に気づいてそう声をかけ、「私はほかの人たちに挨拶してくるよ」と言ってその場を離れた。


「そ、そうよね、私たちの息子なんだもの。普通に接しましょう。フェリク、改めておめでとう!」

「――そうだな。おめでとうフェリク。父さんはおまえが息子で誇らしいよ。今やおまえにしてやれることなんて何もなくて、情けなくもあるけどな」


 父さんは頭をかきながら、少し困ったように笑う。


「そんなことないよ! 僕は二人の息子で米農家の子だから、ここまで来れたんだよ?」

「フェリク……」

「本当にこの子は……」


 僕がそう返すと、両親は顔を見合わせ、涙ぐみながら僕に抱きついてきた。

 その力強い抱擁から、二人が心の底から僕を愛し、祝福してくれているのが伝わってくる。


「――でもなフェリク、身の程を弁えることを忘れるなよ。相手は上位貴族と王族なんだ。本来は交わることのない、雲の上の存在なんだぞ」

「……うん、分かってるよ。よくしてくださるからこそ、敬意と感謝の気持ちを忘れないようにしなきゃね」


 父さんの言葉に、僕は改めて今の環境を与えてくれたみんなに感謝した。

 僕みたいな米農家の息子、どうせ国王陛下や領主様に逆らうなんてできないのだから、こんな好待遇で迎えなくとも利用できたはずだ。

 べつに僕、戦闘系のチートスキルを持ってるわけじゃないし、身体能力や体の強さは普通の子どもと変わらないしね。

 でも、そうはしなかった。ちゃんと評価して、相応以上の待遇で迎えてくれた。

 だから僕も、その恩に報いたい。


「……フェリクも大人になったなあ」

「本当に。誇らしいわ。でも、困ったらいつでもお母さんとお父さんを頼ってね」

「父さん……母さん……」


 僕を抱きしめたまま涙を流す両親に、何とも気恥ずかしい気持ちになるが。

 しかし同時に、フェリクとしてなら親孝行ができるんだ、と心にじんわりと温かいものが広がっていく。


 ――前世では、ろくに親孝行できないまま死んじゃったしな。


 まさか30歳で突然死ぬなんて思いもしなかったから、1人暮らしをしていた米原秋人の日常は米を中心に回っていた。

 親より先に死んでしまうなんて、両親はどんなに悲しんだだろう?


「父さんと母さんの部屋も用意しておくから、いつでも帰ってきてよ。ここは2人の家でもあるんだからさ」

「ああ、分かった。そうさせてもらうよ。ありがとうフェリク」


 部屋は余ってるし、僕はお米の研究ができれば十分だしね。


「ここならクライス農場からも近いし、いつだって行き来できるね。よかったよかった。――そうだフェリク君、せっかくだから転移師を雇ったらどうかな?」

「て、転移師を!? 僕が、ですか?」


 僕たちの元へ戻ってきた領主様は、ふと思いついたようにそう提案してきた。

 ここは、クライス農場から半日ほどで来られる位置にある。

 つまり、領主様の屋敷からは少し距離があり、速度強化系のスキルを使った馬車でも片道1日以上かかってしまう。

 だから転移師がいれば便利かもしれないが――。


「ああ。君くらいの収入があれば問題なく雇えるよ。転移師にもランクがあって、一級転移師は厳しいかもしれないが、三級や四級であれば希望者もそれなりにいるだろう。うちとの往復くらいなら、それでも十分役に立つよ」


 ま、まあたしかに、僕が把握してる範囲でも相当な額だし可能ではある。

 ちなみに転移師は、国が認める国家資格だ。

 ランクが5級~1級まであり、5級はいわば見習いで、スキル【転移】所有者なら登録すればなれるらしい。ちなみにアリアも5級転移師だ。

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