第42話 お米の収益で工房が建った!

 僕はアリア父に案内され、アリスティア家の敷地内を移動する。

 いったい何をくれるというのか……。


「これだよ、君が自由に使える、お米の研究・加工用の工房だ」

「…………は?」


 連れて行かれた先には、一般的な戸建ての4~5倍はありそうな大きな建物がそびえていた。ちなみに階数は3階建て――に見える。

 完成したばかりなのか外壁も美しく輝いていて、汚れ1つない。


「え、い、いや、えっと…………冗談だよね?」

「もちろん本気だよ」


 いやいやいやいや。

 僕まだ8歳なんですけど!?

 8歳の子どもにプレゼントするもんじゃないだろ常識的に考えて!


「どうだい? 喜んでもらえたかな?」


 いつの間にか来ていた領主様にそう声を掛けられ、ハッと我に返る。

 アリア父は、領主様に僕を引き渡すとどこかへ行ってしまった。


「…………え、っと。は、はい。ありがとう、ございます。――じゃなくて! あのでも、これはさすがに」


 領主様は、呆然と立ち尽くす僕を満気げに見て、工房内を案内してくれた。

 外からは3階建てに見えたが、実際は地上3階、地下1階と4階分のフロア、それに加えて屋根裏部屋もあるらしかった。


「地下は倉庫と発酵食品を作るための部屋、1階にはキッチンと簡易倉庫、食事ができるスペース、それから今後のことを考えて商談スペースも設けてある。奥には使用人用のエリアもあるから、屋根裏部屋と併せて使わせてやるといい」


 2階へ上がると、そこには大きな部屋が用意されていた。立派な書斎もある。

 お風呂も完備されていて、普通に暮らせそうな設備がすべて揃っている。


「2階はフェリク君のプライベートエリアだよ。休憩時間や考え事をしたい時に使うのもいいし、泊まりこむのも自由だ。好きに使いなさい」

「は、はあ……」


 3階には、来客時に泊まってもらうための客室が4部屋、あとは作業スペースと簡易的なキッチン、飲食スペースがあった。


 ……うん。これはもう、工房というより小さな屋敷をもらったも同然では!?


「工房の管理にも人手がいるだろうから、使用人も3~5人ほど増やす予定だ。それから君との仕事の都合上、エイダンも頻繁に通うことになるだろうから、客室を1つ彼用に空けておいてやってくれ」

「こ、こんな、いいんでしょうか……。僕みたいなただの子どもがいただいていいものでは……」

「この工房は、お米ビジネスの収益で建てたものだからね。手配をしたのは私だけれど、実質フェリク君の力で建てたようなものだよ」


 な、なん……だと……!?

 お米の収益でこんなすごい工房が!?


 どうやらお米ビジネスは、僕が思っていたよりだいぶ大きなものになっているらしかった。

 領主様の話によると、僕の両親と話し合った結果、莫大な利益を8歳の子どもに渡すのはあまりに危険すぎるという結論に至ったらしく。

 運用や管理は、当分は経験値の高い領主様とアリア父が主軸となって行なうことになったそうだ。


「そういうことだから、欲しいものがあったらいつでも言ってくれていいからね」

「あ、ありがとうございます……」

「それから……お米の需要が思った以上に急拡大して、在庫が不足気味でね。君の両親が育てている分、それからエイダンが仕入れてきたお米では足りなくなりそうなんだ。遠方からだとコストがかかるし、そもそも米は現地付近で消費されて終わることがほとんどで、流通体制が確立していない。私も農場の拡大やら何やら進めてはいるが、君も何か案があったら教えてくれないかな」

「あ、案、と言われましても……」


 いくら前世で30歳だったとはいえ、この世界での僕はまだ8歳で。

 つい最近まで、ファルムから出たことすらほとんどなかった。

 前世でも、おいしいごはんのために働いていたただの平社員だったし。

 僕の人生の大半は、米活(消費側)で構成されていたと言っても過言ではない。

 助言をするには、あまりに世界を知らなすぎる。


「ち、ちょっと考えてみます……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る