第17話 領主様の訪問、そしてお誘い

 すべてを失った僕たちは、一時的にフローレス家に保護される形となった。


「ホットココアを入れたの。よかったら」

「ありがとう……」

「でも3人とも無事でよかった。余ってる部屋があるから、よろしければしばらく皆さんで使ってください」

「ありがとうございます。すみません、フローレスさんにはいつもご迷惑をおかけしてばかりで……」

「何言ってるんですか、困った時はお互い様ですよ」


 フローレス一家は僕たちを受け入れ、とても良くしてくれた。

 でも……田んぼの米も家もすべて燃えてしまった今、これからのことを考えると絶望的としか言えなかった。

 いくらスキルがあったところで、米そのものがなければ何もできない。


「ひとまず、ゆっくり眠られては? 突然のことで混乱もしたでしょうし、疲れたでしょう。私たちももう一眠りします」


 こうして僕たちは、フローレス家の一室を借りて軽く眠――ったはずが、起きたら昼になっていた。

 一度に凄まじいストレスが押し寄せたことで、思った以上に体力が奪われていたのかもしれない。

 父と母は、既に起きて何か話していたようだった。


「おはよう。これからどうするの?」

「どうしような。家も米も農具も全滅だろうし、金だって……。せっかくフェリクが頑張ってたのに」

「そうよね。本当に、これからどうしたらいいの……」


 そんなことを話していると、部屋のドアがノックされた。


「はい、どうぞ」

「やあ、こんにちは。エイダンから聞いたよ。ひどい目に遭ったね」

「り、領主様!? も、申し訳ありません、こんな寝起きのまま……」

「いやいいんだ。私の方こそ突然すまない。フェリク君と会う約束をしていてね、訪れたら――驚いたよ。本当に、ひどいことをするものだ」


 領主様は、そこまで言って真面目な顔になり、しばらく無言で何か考え始めた。そして。


「クライスさん、これから行く当ては?」

「い、いえ、その……あれがうちの全財産だったもので……」

「そうか。それなら、君たちさえよければうちへ来ないかい?」

「――――へ? え、ええと、領主様のお宅へ? それはどういう」

「実はね、元々そういう方向性の話をしようと思ってここへ来たんだ。下で話をしよう。ああ、ゆっくりでいいからね。私はエイダンと話でもしながら待つとするよ」


 そう言って優しく微笑み、領主様は部屋から去っていった。


「領主様はいったい何を……?」

「分からないけど、どちみち領主様の命令には逆らえないし、とりあえず準備をして話を聞きましょう。フェリクも準備して」

「う、うん」


 ◆◆◆


「お待たせして申し訳ありません。あ、あの、それでお話というのは……」

「まあそう焦るな」

「おはようございますクライスさん。朝食を用意したので召し上がってください。フェリク君も座って」

「う、うん。ありがとうおじさん」


 フローレス一家も領主様も、うちみたいな米農家が1つなくなったところで何も困らないはずなのに。

 本当に、人格者ってこういうのを言うんだな。


 それから。

 見てろよ僕の(うちの)大事な米に火を放った悪魔め!!!

 絶対生活を取り戻して、みんなが欲しくてたまらないうまい米を作って見返してやる。

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