第116話 両親の説得
アリスティア家の養子にならないか、と問われたあとも、精米機の話や旅先であったこと、それから王都の学校での話などに花を咲かせ、その日は夕飯も一緒に食べることになった。
夕食の場には、領主様と僕のほかに奥様もいて。
奥様とは普段ほとんど接点がない分、最初は緊張してしまった。
しかし領主様が養子縁組の話をすると、「素晴らしいアイデアだわ」と目を輝かせて喜んでくれた。
最近領主様は僕の話を頻繁にしているらしく、奥様も「もういっそ家族に迎えればいいのに」と思っていたらしい。
この世界では、領内に暮らす領民の扱いは各領主に委ねられている。
つまり、身も蓋もない言い方をすれば、生かすも殺すも領主次第ということだ。
そのため奥様は、アリスティア家の夫人である自分が僕に干渉するのは良くないと、ずっと遠慮して避けていたらしい。
――クライス家を助けてくれただけでなく、敷地内に工房を建てたり、農場や工場を作ったり、僕たちが生きていけるよういつも力を貸してくれるのに。
領主様も奥様も僕の自由を尊重してくれて、本当に寛大な夫妻だよな……。
これが本物の余裕ってやつなのか。
◇◇◇
翌日、僕は話をするために、領主様とともに実家へ向かうことになった。
実家というのは、旧ファルムがあった場所にあるクライス農場の屋敷のことだ。
「領主様、ようこそおいでくださいました」
「ああ。今日はその……大事な話があって来たんだ」
「――だ、大事な話とは? フェリクが何かやらかした、とか……」
領主様の突然の訪問に、父は何事かと身構える。
「いや、フェリク君はよくやってくれているよ。先日も王都の学校へ出向いて、王女殿下に料理を振る舞ってきたところだ」
「――え、お、王女殿下に!?」
「まあ……! と、とりあえずどうぞ中へ。すぐにお茶とお菓子を用意します」
両親は僕と領主様を屋敷内へと招き入れ、応接室へと案内し、お茶やお菓子を用意して自分たちも席についた。
「――それで、話というのは」
「ああ、ええと……どこから話そうか。実は先日王都へ行った際、フェリク君は国王陛下とお会いしたそうでね……」
領主様は、僕が話したことに加え、今後起こりうる可能性についても分かりやすく説明してくれた。
ずっと平民として生きてきた両親は、驚きのあまり固まって唖然としている。
「まさかフェリクの米が国王様に認められる日が来るなんて……」
「フェリク、本当なの……?」
「うん。僕が作ったお米って、おいしくて使い勝手もよくて、災害や気候の変化、害虫にも負けないでしょ。だから国の食糧事情を安定させるのにぜひとも力を貸してほしいんだって」
――まあ、うん。
正直僕も、こんなラノベみたいな成り上がり展開ウソだろって思ってるよ。
でもあの国王様の言葉に偽りがあるようには思えないんだよな。
わざわざ出向いてきて、ああして話してくれたわけだし。
「……そういうことだ。それで、フェリク君の身の安全を守るためにも、できればうちの養子に迎えたいと思っている」
「よ、養子!?」
「もちろん強制はしないし、君たちの意見を尊重するつもりだ。だが、今のまま王族に近づくのはあまりに――。フェリク君も、きっと不自由なことが多すぎると思うんだ。貴族の中には、平民を受けつけない人たちもいるからね」
「…………」
領主様は、困惑する両親に根気強く説明し、説得し続けてくれた。
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