第44話 これがざまぁ展開というやつか
「――なるほど。それはいい案だ。早速遣いの者を手配しよう。ほかにもそうした米農家や村を知っていたら、ぜひ教えてほしい」
「分かりました。一応、父を同行させるのがいいかもしれません。突然アリスティア家の使者が来たら、みんなびっくりするかもしれないので」
「そうだね。そうさせてもらおう」
父からの、困っている農家さんがいるという話を伝えると。
領主様は喜んで快諾してくれた。
そして自らも足を運び、話をして、次々と環境を整えていく。
領主様は忙しい中定期的に工房を訪れ、僕に近況を報告してくれた。
ただ報告しているというより、僕のところにやってきては自らの思考を整理しているようにも思える。
――見た目が子どもだから話しやすいのかな。
そこらへんの子どもよりは、領主様のこと理解もできるだろうし。
そのおかげで、少しずつではあるが米不足も解消されつつあるらしい。
領主様やフローレス商会によって救われた困窮していた農家の人々は、泣いて喜び、村をあげて一生懸命米作りに取り組んでいるそうだ。
「おかげさまで農場の方も順調だよ。フェリク君が作ったお米の種籾は頑丈らしくてね、どんな天気にも負けることなく立派に育っているらしい。虫による被害もないというから驚いたよ」
「恐縮です」
フローレス商会と提携している契約農家には、僕がスキル【品種改良・米】を施した種籾を安価で卸し、それを使用してもらっている。
これによって米の品質と収穫量が安定し、農家の生活もフローレス商会も潤って、ひいては半期ごとに領主様へ献上される税収も大幅にアップした。
精米の副産物として出るもみ殻や米ぬかも、もちろん無駄にはしない。
堆肥の作り方やぬか漬けのレシピを広め、稲全体をフル活用してもらうことで、無駄なコストや廃棄物の削減もはかった。
前世で言うなら「SDGs」というやつだ。多分。
そして僕は何をしているかというと。
スキル【品種改良・米】や【精米】での種籾および白米作りとレシピ開発に加えて、ここ最近はレストランの料理長や屋台のオーナー、貴族宅のシェフたちに米の知識とレシピを伝える講習会を開く機会が大きく増えた。
時には領主様やアリア父、彼らの部下とともに、貴族宅へ赴くこともある。
「今日の依頼主は、レストランで米料理を食べて感動したらしくてね。シェフに料理を学ばせるのはもちろん、君にも直接お礼が言いたいと言っていたよ」
依頼主である貴族の屋敷へ向かう馬車の中、領主様が嬉しそうに報告してくれる。
「そんな、僕はお米が愛されればそれで……。貴族様のお屋敷に招かれて、そのうえお礼を言われるなんて恐れ多いです……」
「まあそう言ってやるな。貴族だって人間なんだ。素晴らしいと感じることがあれば、喜びや礼を伝えたいことだってある」
窓から外を見ると、道の整備や宿の建設が進められていた。
遠方から来る農家の人々や行商人が困らないよう、今急ピッチで開発を行なっているらしい。そして。
――うん? あ、あれは……。
そこには、談笑しながら和気あいあいと仕事を進める一般労働者のほか、腕や足に焼印を押され、足枷をつけられ重労働を強いられている奴隷の姿があった。
時折、奴隷の管理者と思われる者の怒声とともに、奴隷の悲痛な叫び声が響く。
この世界では、犯罪奴隷が人として扱われることはない。
「フェリク君のおかげで、アリスティア領は一気に発展しているよ。君は多くの領民の生活、それから命を救ったんだ。本当にありがとう」
「い、いえそんな。領主様やフローレスさんのお力があってこそです。でも、ありがとうございます」
途中、ボロボロの姿で使役されている奴隷に見知った顔があった気がしたが。
同行している領主様には見えていない様子だったため、見なかったことにした。
――にしても、こんな絵に描いたようなざまぁ展開が身近で起こるとはな。
でも、僕だって今は何不自由なく暮らせているが、領主様やフローレス商会の力を借りなければただの貧しい農民の子どもだ。
ふと、明日は我が身、という言葉が脳裏をよぎる。
この人を敵に回さないように気をつけよう……。
おじさんが作り笑いとポーカーフェイスに長けてる理由が分かった気がする!
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