第26章 新たな土地での生活
第124話 フェリクの選択と覚悟
「……陛下、彼は確かに賢く優秀ですが、9歳の、しかも平民出身の子どもです。土地を与えたところで管理などできませんし、貴族の務めも果たせません。それよりも今は、環境を整えてお米に注力してもらうべきでは?」
「ふむ……。しかしその希少な力を国のために使ってもらう以上、爵位と土地くらい与えなければ働きに見合わんだろう」
「それはもちろんそうですが……」
国王様と領主様は、僕のよく分からないところで白熱し始めた。
領主様のことだから、きっと自身の利益も考えてはいるのだろうが。
しかし同時に、僕のことを心から心配してくれているのが伝わってくる。
そして国王様もまた、僕を1人の人間として大事に扱おうと考えてくれている。
――でも、僕はいったいどうしたいんだろう?
貴族になれば、たしかに地位や権力が手に入るし、できることも増えるのだろう。
父さんや母さんはもちろん、アリアやおじさんにだってもっと恩返しできる。
でも僕は、中身はただの米好き会社員だ。
今は「子どもなのに」とちやほやしてもらえるが、これから先、貴族としてやっていく意志や覚悟があるのか?
僕は本当に、それで僕がやりたいことに注力できるのだろうか?
「――リク。フェリク!」
「――へっ? あっ、はいっ!?」
「どうしたんだ、そんな難しそうな顔をして」
「リアムが難しい話ばかりするから、困ってしまったのではないかね?」
しまった、うっかり考えこみすぎて、2人の話をまったく聞いてなかった……。
「――い、いえその、違うんです。ごめんなさい。僕もどうすべきか考えていて」
「君のスキルには、師匠となる人がいないからね。苦労も多いことだろう」
「そうですね。フェリク君と同じスキルを持つ人間を、私は見たことがありません」
僕が持っているスキル【品種改良・米】や【精米】、【炊飯】は、僕だけが持つ特殊スキルだ。
そのため、【精米】や【炊飯】はともかく、【品種改良・米】の及ぶ範囲や全貌が未だ誰にも解明できていない。
それに僕は、べつに領地を治めたい願望なんてないんだよな……。
「……あの、土地と爵位を賜る件、大変ありがたいお話なのですが、謹んでご辞退申し上げます。申し訳ありません!」
「なんと……! フェリクは自分の土地が欲しくはないのか?」
「人には向き不向きというものがございます。僕はお米に関することには長けているかもしれませんが、それ以外はただの子どもで素人です」
い、言ってしまった……。
どうか機嫌を損ねませんように!!!
「フェリク、なにも全てを自分一人でしようなどと考えなくてもいいんだよ。君が仕事を誰かに任せることで、働き口が生まれてお金が回る。私なんて、リアムの知恵を借りてばっかりだ。彼は恐ろしいほどに計算が上手だからね」
「はっはっは。またまた御冗談を。――なら、こういうのはどうです? 私が土地の一部をフェリク君に貸し与えます。彼には、そこで自由にお米の研究に勤しんでもらいましょう。ちょうど、旧ファルムから近い場所に空きがあります」
「えっ、いや、あの……僕はべつに、今の生活に不満なんて――」
旧ファルムに近い空き場所というのは、あそこからグラムスへ向かう途中にある、昔は農村だったあのエリアだろうか?
たしかに僕の行動範囲を考えると、便利な場所ではあるけど……。
「――まったく、リアムはよほどフェリクを手放したくないようだね。分かった、それなら今後については君に任せよう。かかる費用は私が出す。ただしフェリクには、年に数回開催される貴族会議に同行してもらう。いいね?」
「承知いたしました。必ず連れていきます」
うおおおおおおおおおおおい!
勝手に話を進めるな!
まったくこれだから貴族と王族は!!!
「――ではフェリク、そういうことでいいかな?」
いいかな? じゃない!
ぐう……まあでも、ずっと領主様のお世話になり続けるってのもな。
今なら多分それなりに稼いでるし、やっていけるはず。
それなら、僕も僕の力で生きるべきなのかもしれない。
本来、領主様は僕なんかが頼っていい存在じゃないんだし。
「――し、承知いたしました。今後もお米の研究に邁進したいと存じます」
「うむ。頼りにしているぞ」
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