第53話 頑張るアリアの思いと不安
誕生日の翌日、早速僕とアリアの授業が始まった。
「本日より、フェリク様とアリア様の授業を担当させていただきます、ラヴァルと申します。2人とも、よろしくお願いしますね」
授業は、工房2階にある一室で行なうことになっている。
先生は20代半ば~後半くらいの、茶色のような僕ンジのような淡いピンクのような、パステル系の柔らかい色合いの髪を持つ女性だった。
髪はサイドを編み込み、うしろの低い位置に団子にしている。
どちらかというとふわっとした印象だ。
――厳しい人だったらどうしようかと思ったけど、温和そうな人でよかった……。
ちなみにラヴァル家は、子爵というれっきとした爵位を持つ貴族だ。
雇い主が辺境伯の領主様である以上、こちらに何かをしてくることはないだろうが、それでも失礼のないようにとアリア父に釘を刺されている。
「それでは本日の授業を始めます。今日は――」
授業は簡単な読み書きや計算、音楽、礼儀作法や立ち振る舞い、ガストラル帝国の歴史やアリスティア領のこと、基礎的な知識など、案外幅広かった。
中身が大人な僕とは違い、アリアは授業を受けるだけでもやっとな状態だ。
授業を終える頃には、机に突っ伏してぐったりしていた。
「アリア、大丈夫? やっぱりメイドと掛け持ちなんて難しいんじゃないかな……」
「そんなことないっ。フェリクだって仕事掛け持ちしてるじゃないっ」
アリアは悔しそうに頬を膨らませ、ぷいっと顔をそむける。
――あー、なるほど?
こいつもしかして、僕だけ仕事してるのが悔しいのか?
まったく、遊んで暮らせる幸せを理解できないとは。
これだから子供は困る。まあそんなところも可愛いんだけど。
でもこれまでは、僕がアリアに助けてもらう立場だったしな……。
もしかしたら、抜かれたと思っているのかもしれない。
「アリア、うちは家が燃えて行き場がないし、今でこそお金も貯まってきたけど元々はお金がなくて、それで仕方なく、だな……」
「フェリクは関係ないわ。私は、私が働きたくてメイドになったの!」
……うーん。相変わらず頑固だなあ。まあ知ってたけど。
普段は明るくて優しい子なんだけど、こうなったら何言っても聞かないんだよなあこいつ。はあ。
「……まあ、無理はするなよ」
「だ、大丈夫だもん! 私だってやればできるんだからっ」
アリアはガタッと勢いよく席を立つと、そのまま部屋を出て行ってしまった。
やっぱ女の子は難しいな。いや、アリアが難しいだけか?
いったい何が気に食わなかったんだ……。
その後アリアと入れ違いになる形で、シャロとミアが入ってくる。
「フェリク様? ど、どうかされました?」
「あー、いや、何でもないよ。……ああそうだ。2人はさ、仕事でアリアと一緒になることあるの?」
もし2人がアリアといてくれるなら、それはとても心強い。
そう思ったのだが。
「私とミアは、現状フェリク様の専属メイドです。ですから見習いのアリア様と仕事が一緒になることは、あまりないかもしれませんね……」
「そうですね。行儀見習いで入っている貴族ならともかく、アリア様は平民です。普通は使いっぱしりとして雑用に奔走することになります」
「な、なるほど……」
まあそりゃそうか。
でも、大丈夫かなアリア。
女の子の中では体力ある方だと思うけど、あいつも何だかんだでお嬢様だからな。
「で、でも、いずれ工房の、もしくはフェリク様付きのメイドに昇級するかもしれませんよ!?」
「う、うん……。けど、それはそれでどうなんだろう? 幼馴染のメイドなんて嫌じゃないかな。しかも本来、アリアの方がずっとお金持ちなのにさ」
「アリア様は自らメイドになったわけですし、それに……ねえ、ミア」
「――え。なぜ私に振るんですか。でもそうですね、アリア様は喜ぶと思います」
そ、そうかなあ……?
それならまあ、僕も一緒にいられて嬉しいけど。
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