第52話 新人メイドがアリアだった←!?

「フェリク君、お誕生日おめでとう」

「おめでとうフェリク」

「おめでとう~」

「領主様、ありがとうございます。父さんと母さんもありがとう」


 スキルを手に入れてから1年が経ち、今日で9歳になった。

 レシピ本の原稿作成と写真撮りは、まだ半分ほど残ってるけど!


 工房で料理をしていると、屋敷のシェフたちが度々見学に来る。

 そして質問責めにされてしまうため、思うように進まないのだ。

 かといって、せっかく米に興味を持っている同士を無碍に追い返すのも、何となく申し訳ない気がしてしまう。


 ――にしても、本当にいろいろあった1年だったな。


 この1年でスキル【品種改良・米】と【精米】、それから【炊飯器】を使い倒し、何度も倒れては周囲の人々を顔面蒼白にさせたが。

 しかしその甲斐あって、今やほとんどスキル使い放題な状態だ。

 多分、8歳でこれほどスキルを使いまくった例はほかにないと思う。


 領主様のお屋敷で、去年とは比べものにならない豪華な食事をとりながら、僕はこの1年のことを思い返していた。

 ちなみにアリア父は商談があるらしく、今は不在だ。

 僕の誕生日ということはアリアの誕生日でもあるわけで、きっとそのまま自宅へ戻ってお祝いするのだろう。


「フェリク君も9歳になったのだから、明日からは勉強もしなくてはね」

「そ、そうでした……」

「貴族ならば、本来は6歳には学校へ入るんだ。むしろ遅いくらいだよ」

「は、はい……頑張ります……」


 まあ僕貴族じゃないけどな!


 ファルムのような田舎の農村では、学校へ行く子どもなんていないに等しい。

 みんな村の中で必要最低限のことを学んで、そのまま親の仕事を継ぐ。

 もしくは結婚してどこかへ嫁いでいく。

 男女問わず、それがあの村の普通だった。


「そういえば、アリアも一緒に授業を受けるんですよね?」

「ああ、そのことだけどね。……アリア、入りなさい」

「は、はい。旦那様」


 ――――うん? え、旦那様?


「え、あ、アリア!? というかその格好……」

「え、えっと……本日よりメイドとして働くことになりました。その、よろしくお願いしますっ!」


 アリアは手短に挨拶を済ませて頭を下げる。

 少し大きい新品のメイド服が、彼女のぎこちなさを一層際立たせる。

 緊張しているのか、アリアは頭を下げたまま震えていた。

 父と母も知らなかったようで、面食らった様子で顔を見合わせている。


「……こ、これはどういう?」

「いやあ、どうしてもうちで働きたいと頼み込まれてね。最初は断ったんだが、あまりに真剣に頼んでくるものだから根負けして雇うことにしたよ」


 アリア父の財力があれば、9歳なんて歳でメイドにならなくても、普通に寮付きの学校に通えるはずだ。

 それにそもそも、アリアは僕と一緒に授業を受けることになっていた。


 ――ということは、お金に困ってるわけじゃない、よな?


「えっと、授業は……」

「もちろん君と一緒に受けてもらうよ。アリアが私とエイダンにこの話をしたとき、彼も最低限そこは譲れないと言っていたからね」

「授業は受けるし、宿題もちゃんとする。それ以外の時間に、ここで働かせてもらうことにしたの」


 よく分からないが、アリアの意思は固いようだった。


「……まあ、そういうことだ。アリアには、明日からうちでメイド見習いとして働いてもらう。大変なこともあると思うが頑張りなさい」

「は、はいっ。ありがとうございます」


――うーん。

アリアはしっかりしてる子ではあるけど。

でも仕事をする場に放り出すには、やっぱりちょっと早すぎる気もする。

し、心配だ……。

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