第32話 うちの白米が引っ張りだこ
クチコミで広がったのか、翌日、また翌日と、白米料理を求める客はうなぎ登りに増えていった。
「すごいよフェリク君。まだ一週間しか経ってないのに、『屋台通りでしか食べられない話題のメニュー』として問い合わせが殺到しているらしい」
「おじさんや領主様が力を貸してくれたからだよ。僕1人では、きっと米農家の戯言って言われて終わってた」
いくら米がおいしいとはいえ、たった一週間でここまでの人気商品に仕立て上げるなんて、さすがとしか言いようがない。
フローレス商会との取引を希望する店は、今や対応が追いつかないほどに増えている。
また、フローレス商会の競合他社は、どうにかしてうちの白米の秘密を暴こうと躍起になっていて。
この白米のクオリティがスキルによるものだと知ると、僕に取り入ろうと高額の報酬をチラつかせる輩まで現れ始めた。
その中には、ファルムにいた頃「米なんて作るヤツの気が知れない」と散々見下してきていたヤツもいた。ざまあ。
「ほかの商会に流れないでくれよ?」
「もちろんだよ。おじさんにも領主様にもこれだけお世話になってるんだし。この力は、今後もフローレス商会とお米の発展のために使う気でいるよ」
貧乏人の食事だと馬鹿にされていた米を口にし、そのおいしさを素直に認めて感動してくれたのは、アリア父の人柄あってのもの。
他の人だったら、きっと口にすらしてくれなかっただろう。
「以前おにぎり試食会を行なった際に興味を持ってくれた飲食店も、店でおにぎりを出してはいるんだけどね。こっちはなかなか難しいみたいだね……。客のプライドが高くて、米を口にすること自体に抵抗があるらしい」
「な、なるほど……」
米を見下すようなヤツに米を食わせたくない、という気持ちもあるが。
しかし興味を持ってメニューに加えてくれたオーナーたちの思いには報いたい。
「レストランの米メニューは、屋台とは分けた方がいいんじゃないかな? 見た目を華やかなケーキみたいにするとか」
「ケーキ?」
「おじさんたちがおにぎりをフォークで食べてるのを見て、それならもっと飾ってもいけるなと思ったんだよね。あとはアリスティア家直営の農場で育てた米、とか言っておけば少しは体裁も良くなるかな」
「なるほど、それはいい。君は本当に頭がいいな! よし、屋台の方は安定してきたし、明日からはレストランのレシピ開発をお願いするよ」
僕がするのかよ!
たしかに米料理なら無限に湧き出てくるけど、僕は料理のプロではない。
僕みたいな素人がレシピにまで口出しして、シェフたちは嫌な顔をしないだろうか……。
でもまあ、このままではレストランから米料理が消えてしまいかねない。
そうならないためにも、何か良さげなメニューを考えないとな!
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