第29話 屋台の出店もいよいよ! 

 試食会のあと、領主様は会食があるからと出かけていき、今はアリア父とともに食後のお茶を飲んでいる。

 メイドたちには仕事に戻ってもらい、今は部屋に2人きりだ。


「いやあ、アリスティア様には参ったよ。深夜に突然やってきて、笑顔で『奴隷落ちしたくなければ朝までにグラムスへ移りなさい』だからね」


 ちなみに、ファルムの村人全員が奴隷落ちしたわけではなく、しっかりと線引きはなされているらしかった。よ、よかった……。


「で、でも、領主様はどうやって犯人を暴いたの? 深夜のことで目撃者なんていなかっただろうし、いてもあの様子じゃ……」

「ああ、アリスティア様のスキルだよ。あのお方のスキルは3つあって、そのうち1つが【記憶逆行・場所】という、その場の時間を遡って確認することができるものなんだ」


 み、3つ!?

 そんなことがあるのか。

 しかもなんかすごいし!

 なるほど、たしかにそのスキルがあれば、犯人も言い逃れのしようがないな。


「でも君には言いづらいけど、ほとんどの村人がグルだったよ。村長の息子でありながら計画に気づかなかった私にも落ち度はある。本当にすまない」

「そんな、おじさんのせいじゃないよ。……その、おじさんたちは、今もグラムスで何事もなく暮らしてるんだよね?」

「ああ、うちは平気だよ。私は散々叱られたけどね。家はアリスティア様が用意してくださったし、アリアもフェリク君と会いやすくなったと喜んでるよ」

「よ、よかった……」


 こんなにお世話になってるフローレス家にまで制裁が下されていたら、たとえ領主様相手でも黙っていられる自信がない。


「それより、フェリク君のスキルを扱う才能には驚いたよ。まだスキルを授かって間もないのに、こんなに短期間であれだけのレシピを考案するなんて」

「あ、あはは、たまたまだよ……」


 前世でもお米大好き人間だったのでレシピなら無限に出ます、なんて言えない……。


「しかし不思議なものだね。カユーはまずいのに、白米も米ぬかで作った漬物もあんなにおいしいとは……」

「カユーも、作り方次第でおいしくなるよ。米ぬかには、白米にはない栄養がたっぷり詰まってるし。だから、いずれは精米してない『玄米』のおいしさも伝えていけたらいいなって」


 今はまだ、茶色い米=カユー=貧乏人の食事という印象が強すぎて受け入れてもらえないだろうけど。

 でも、玄米には玄米の良さがあるんだぞ!


 こうした幅広い食べ方を広めるためにも。

 まずは第一歩として屋台での販売を成功させなければ。


 ◆◆◆


 こうして着々と準備を進め、いよいよ出店の日を迎えた。レシピ開発を初めてから、約半年が経過していた。


 白米メニューを出す店は、新たに用意した白米料理専門屋台「ムスビ」、フローレス商会が元々所有している既存店2店、お得意様2店の計5店舗だ。


 扱うのは、ムスビではおにぎり、おこげサンド、甘酒と全メニュー、ほかの4店舗ではおにぎりのみとなっている。

 ポイントは、店によって味が異なる点。

 おにぎりを食べて気に入ってくれた客を、他店にも流す計画だ。


 そして僕は、この日に向けて取り組んできた「あるもの」を、ようやく完成させた。

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