第70話 この気持ちは父性本能か、それとも

 ライスプティングを食べながら、僕とアリアは、これまでのことを話し合った。

 アリアは、僕と離れてどれだけ寂しかったか、自分だけ置いていかれたみたいで怖かったかを涙ながらに話してくれた。


 ――まさかそこまで寂しがってたなんて。

 もっと積極的に気にかけてやるべきだったな。


 僕は、自分の考えの足りなさを猛省した。

 アリアの家は、うちと違って元々生活にはまったく困っていない。

 むしろ平民としてはかなり裕福な部類に入る。

 だから、グラムスで楽しく暮らしているだろうと思い込んでいたのだ。


「……フェリクは、お嬢様のことが好きなの?」


 ――――うん!?


「え? は? なん――どうしたの突然」

「メイジーさん――あ、メイド仲間なんだけど、その人が、お嬢様とフェリクの仲を邪魔するなんて、メイドとしてありえないって。フェリクは今やアリスティア家になくてはならない存在で、あなたが入る隙なんてもうないって」

「ええ……いやいやいや。なんでそうなるんだよ」


 メイジーが誰だか知らないけど、もしかしてあの談笑してたヤツらの誰かか?

 いったいアリアに何の恨みがあるんだ。

 まあどうせ、フィーユ様の点数稼ぎがしたかったってとこなんだろうけど!


「アリア、フィーユ様はアリスティア家の令嬢だよ? 僕みたいな農家の息子とどうこうなるわけないだろ……」

「……フェリクは、どう思ってるの?」


 ええ……。


「……フィーユ様は、いつも楽しそうに話しかけてくれるし、ごはんもおいしく食べてくれる。だから悪い子ではないと思ってるし、嫌いじゃない。でも、僕にとってはアリアの方が何百倍も大事だし大切だよ。そんなの当たり前のことだろ……」

「え、な、ひゃ……!? ……も、もう! フェリクのばかっ!」


 なんでだ!

 めちゃくちゃ誠意のこもった大事な言葉だっただろ今!


 真っ赤になってあたふたしながら罵倒してくるアリアに困惑しつつ、しかし可愛いとも思ってしまう自分がいた。

 そして同時に、あのメイドたちが話していたことが頭をよぎる。


 ――いやいやいやいや。

 アリアはまだ9歳だぞ。恋愛なんて、そんなこと考えてないに決まってる。

 ただ幼なじみと一緒にいたくて、なのにいられなくて寂しかっただけだ。

 あいつらが変なこと言うから、こっちまで意識しちゃうだろ!


「……そ、そういえば、アリアにお願いがあるんだけど」

「――へ? お、お願い?」

「メイドをやめて、工房で僕の手伝いをしてくれないかな」

「…………え!?」

「アリアはフローレス家の娘だし、きっと長い付き合いになるし。今のうちからクライスカンパニーのことを見て、知っててほしいんだ」


 今回のことを領主様に話せば、きっとある程度はどうにかしてくれる。

 でも、それでアリアの居心地がよくなるとも思えない。

 きっとまた、告げ口しただの何だの言い出すヤツが出てくるに決まっている。

 そんなところにアリアを置いておくなんてできない。


 ――それに、アリアには笑っててほしいし。


 これが米原秋人としての父性本能なのか、フェリクとしての感情なのかはよく分からないけど。

 でもアリアが僕のことを好きでいてくれるように、僕もアリアのことが大好きなのだ。


「……ふ、フェリクがそういうなら、そうしようかな」

「よし、じゃあ決まり! これから改めてよろしくね、アリア」

「えへへ。うんっ、よろしくね、フェリク」


 ――さて、領主様とおじさんにもちゃんと話をしないとな。

 あとはフィーユ様にも。

 明日からいろいろ忙しくなるぞ!

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