第4話 「玄米粥」はおいしいんだぞ!

「母さん、今日は僕が食事の用意してもいい?」

「――え? どうしたのよ急に」

「僕、決めたんだ。お米をおいしいものにして見せるって」


 僕のその言葉に、母は驚いたような表情をして。

 そして困ったように笑って、優しく頭を撫でてくる。


「――そうね。でも、あまり無理しちゃだめよ。お米にだって、貧しい庶民の空腹を満たすという大事な役割があるんだから」

「でも、おいしい方が嬉しいだろ?」

「そりゃあもちろんそうだけど……」


 恐らく母は、僕のスキルが【品種改良・米】だったことで、それをどうにかしようと無理をしていると思ったのだろう。

 まあこの世界の米料理って、あのまずいカユーしかないしな。無理もないか。


 この世界では、米の存在があまりに軽視されている。これは由々しき事態だ。


「お願いっ!」

「……分かったわ。火の扱いには気をつけるのよ?」

「ありがとう!」


 ――よし。んじゃやるか!


 僕は米を貯蔵している袋に手をかざし、スキル【品種改良・米】を発動させる。

 発動方法は、スキルを使おうと思った瞬間、自然と頭に入ってきた。


 味の比較がしたいし、今日は今まで通りの玄米粥にしよう。


 僕は前世で食べた米の中から、お粥に合いそうなものを強くイメージする。

 スキルの発動に合わせて、米袋が強い光を放ち始めた。

 どういう原理か分からないが、目の前で米の構成が書き換わっていくのが分かる。


 ――ふう。こんなもんか?

 どんなタイミングでも好き勝手に品種改良できるなんて、さすがは神に与えられたスキルだよな。最高すぎる!


 僕は米袋に手を入れ、米をすくって眺めてみる。

 いつも濁っていた米粒の透明度が一気に上がり、艶とみずみずしさも増している。

 これはいけるぞ!!!


 洗った玄米を鍋に入れ、水を入れて1時間ほど浸水させる。

 本当は数時間やればもっといいが、夕飯の時間が遅くなってしまうため、今日は1時間で我慢することにした。

 あとは水、それから塩ひとつまみを追加し、最初は強火~中火、沸騰したら弱火に切り替えて、芯がなくなるまでじっくりコトコト煮込めば完成だ。


 ――ああ、楽しみだな。

 この世界に来て初めてのうまい玄米粥が食べられるかもしれない。


「お母さん、横でお肉焼いてもいいかしら」

「もちろん」

「火傷しないように注意するのよ。カユー、混ぜなくて大丈夫?」

「いいんだこれで」


 心配なのか、母は定期的にこちらの様子を見つつ鶏肉を焼いている。

 まあ僕、まだ8歳の子どもだしな。無理もない、か。


 そしてついに――


「で、できたあああああああ!」


 少しクセのある香りはするが、いつもの強烈な匂いとは全然違う。

 スプーンですくって口に含み、咀嚼すると、玄米ならではの米の風味がふわっと広がっていく。


 ――う、うまい。

 味覚が変わったわけじゃなかったんだ……。


 久々に食べるちゃんとした玄米粥に、そしてそのうまさに、思わず涙がにじんだ。


「……フェリク?」

「あ、ああ、ごめん大丈夫」

「そ、そう? あとはお母さんがやるから、フェリクは座ってなさい」

「はーい!」


 違いに気づいてくれるかな……。

 おいしいって思ってくれますように!!!

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