第140話 カレーは異世界でも魅惑の味!

「カレーって何? そんなにおいしいの? というかいつも思うけど、フェリクの中にはいったいいくつレシピがあるの?」

「あはは……。カレーは少し辛いけど、でも絶対食べてほしい料理の1つなんだ。でもこれまでは材料が手に入らなくてさ」


 シナモン、クローブ、カルダモン、クミンなどなど。

 作り方はさまざまだが、カレー粉やルーを使わずに作ろうと思えば、それなりのスパイスが必要となる。

 僕の知る範囲では、この世界にはカレーという料理は存在しないみたいだけど、カレーに使うスパイス自体は王都に揃っていた。けっこう高かったけど!

 買っておいて本当によかった!!!


「……はあ。まあフェリクが楽しそうなのは私も嬉しいけど。でもなんか隠し事されてるんじゃないかって、不安になっちゃう」


 ――ぐ。隠し事か。

 ないと言ったら嘘になるけど、でも前世の件は、少なくとも今明かすべきことじゃないと思うんだよね。ごめん。


「僕はただのお米が大好きなお米バカだよ。それは本当」

「それは知ってる。……まあいいわ。私にも何か手伝えることある?」

「うーん、じゃあスパイスを用意している間に、それ以外の材料を出してもらえる? 冷却庫の左下あたりに、下準備を済ませたものがまとめてあるはず。シャロとミアもお願い」

「承知しました!」

「かしこまりました」


 アリアに、スパイス以外のカレーの材料を書いた紙を渡すと、その後ろからシャロとミアがメモを覗き込んだ。

 スパイスは、シナモン、クローブ、カルダモン、ローリエ、クミン、コリアンダー、ターメリック、チリペッパー。

 具材は、一口サイズに切った鶏もも肉とみじん切りの玉ねぎ、それからトマトをメインにする予定だ。

 刻んだにんにくと生姜、バター、塩も忘れずに。


「フェリク、これで合ってる?」

「――うん、ばっちりだよ。ありがとう。今回作るのは、バターチキンカレーにしようと思ってる」

「バターチキンカレー……バターとチキンが入ってるカレーって料理なのね!」

「そうそう。まずは熱した鍋にオリーブオイルを入れて、シナモンスティックとクローブ、カルダモン、クミンシードを加熱して――」

 

 パチパチと音がして香りが立ってきたら、玉ねぎ、にんにく、生姜を加え、玉ねぎが飴色になるまでじっくりと炒めていく。

 玉ねぎは、事前に刻んで凍らせておいたものを使用している。

 生のまま炒めたら時間がかかりすぎるからね……。


 ――よし、こんなもんか。

 玉ねぎが飴色になったら、ざく切りにしたトマト、コリアンダー、ターメリック、チリペッパー、塩を加えて、水分を飛ばしながら再び炒める。

 しっかり炒めることで甘みが増し、カレーに奥深さとコクが生まれるのだ。

 ある程度水分が飛んだら、そこに切った鶏もも肉を加えてひと混ぜし、水を注ぎ入れてローリエを一枚。

 あとはいい感じになるまで煮込み、バターを加えて溶かせば完成だ。


「スパイスってこんなに色がつくのね。それにかいだことない匂い……。でも、不思議なくらいおなかがすくわ……」

「本当、こんな料理どうやって思いついたんです? フェリク様、実は隠しスキルがあったりしませんか?」

「いやあ、あはは。スキルは【品種改良・米】と【精米】、【炊飯器】の3つだけだよ。シャロ、ミア、食器の準備をお願い。あと、グリッドとフローレス商会の社員さんたちを呼んできて」

「私も手伝うわ!」


 スキル【炊飯器】でごはんを炊き、お皿に盛りつけていく。

 お米がカレーを吸い過ぎないように、カレーはそれぞれの席でかけることにした。

 カレー用のソースポットもいつかほしいな。


「旦那様、お呼びでしょうか? ……これはスパイスの香りでしょうか? 素晴らしい匂いがいたしますね」

「えへへ、バターチキンカレーっていうんだ。楽しみにしてて! えっと、このカレーを、それぞれの席でかけたくて――」


 僕はグリッドに、カレーの提供の仕方や目安となる分量について細かく説明した。

 貴族宅ではテーブル上で料理を完成させることも多く、グリッドにとっては特に違和感もなかったようでスムーズに理解してもらえた。

 フローレス商会の社員さんたちは、「へえ」「なるほどな」と興味深そうに聞いている。


「――よし、できた! みんな味見してみる?」

「変わったシチューみたいな料理ですね。スパイスとバターのいい香りがします」

「私も味見したい!」


 キッチンにいる全員、嗅いだことのないスパイス特有の匂いに興味津々だ。

 ふふ、食べたらきっともう後戻りできないな!

 僕はワクワクした気持ちでにやけそうになるのを必死でこらえながら、その場にいるみんなに味見用のバターチキンカレー(ごはん付き)を渡した。


「では、いただきます」

「いただきまーす!」


 みんなそれぞれ、スプーンですくってカレーを口に含む。そして。


「こ、これは――! これを9歳の子どもが作ったなんて信じられません……」

「おいしいっ! 私もこれ大好きだわ! 辛いけど嫌な辛さじゃないし、いくらでも食べちゃいそう!」

「フェリク様、なんですかこれっ!? おいしすぎて無限に食べたいです!」

「本当に、うまく表現できませんが驚きました……」

「私、このバターチキンカレーとごはんで一生お仕えできます!」


 一同、一瞬固まったのち、カレーとごはんのコラボレーションに目を輝かせ、シャロの言葉に同意するかのようにうんうんと頷いた。

 やっぱり僕のまわりの人たちは、お米好きの才能がありすぎる!


「気に入ってくれてよかった。スパイスはまだたくさんあるから、また今度作るよ。今日はとりあえず、お客さん優先で。グリッド、あとは任せていい?」

「かしこまりました。これはまた旦那様の素晴らしさが世に知れ渡りますね」


 グリッドは嬉しそうにそう言って、ほかの者たちに行動を指示し始めた。

 バターチキンカレーをグリッドに託して、僕はほかの料理に着手する。

 こちらも下準備は終わっているから、あとはひたすら調理を進めていくだけ――なんだけど。


「――人数が多いからけっこうな重労働だし、誰かに手伝ってもらおうかな」


 お客さんの中にはシェフも多いし――なんて思っていたら。


「フェリク君、入ってもいいかい? 人手が足りないんじゃないかと思って、料理ができる人を連れてきたよ。――って、この匂いはいったい」

「えっ!?」


 なんと、アリア父が料理人と思われる数人をキッチンに連れてきてくれた。

 さすがすぎる!!!

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