第7話 米を笑う者は米に泣くんだぞ!

 朝食のあと、父から水田のことや農機具のあれこれについて説明され、うちが所有している水田の1/5を僕が自由に使えることになった。

 たとえまずい米だろうと、うちの大事な収入源だ。

 それを1/5とはいえ8歳の息子に好き勝手やらせようってんだから、我が父ながら思い切ったことをしたなと思う。


 ――というか僕、米は買うの専門だったから農業経験はないんだけど。

 だ、大丈夫かな。


「分からないことがあったら何でも聞いてくれ。父さんも用事があるとき以外は、基本的には田んぼにいるからな」

「分かった。頑張るよ」


 ――まずは、キッチンに置かれている使いかけの米袋で試そう。

 昨日【品種改良・米】でおいしい玄米にはしてあるし。


 精米とは、玄米についている米ぬかを除去する作業だ。

 つまりそれをイメージしてスキルを発動させれば――


「スキル【精米】!」


 昨日同様、米袋ごと光を放ち、そしてしばらくすると光が消えた。

 精米が終了したのだろうか?


「――お、おおお! ちゃんと白米になってる!!!」


 米ぬかと混じっていて少し分かりづらいが、手で米をこすり合わせると、綺麗に精米された白米が姿を現す。

 昨日使ったスキルのおかげで米質も申し分ない。

 あとは精米した米をふるいに入れ、米ぬかと米を分ければ完成だ。


 こ、これでつやつや白米が!

 おいしいごはんが食べられるぞおおおおお!


 もちろん、米ぬかも有効活用したいのでバケツに集めておいた。

 堆肥にもなるし、ぬか漬けを作るのもいい。


「――まあ! そのお米どうしたの? 真っ白じゃない!」

「ふっふっふ。これが精米の力だよ、母さん」

「精米? 精米なら元々うちでもしてるけど、こんなに白くはならないわ」

「さらにもう一段階、玄米――茶色いお米の表面についた”ぬか”を取り去るんだ。そうすることでクセのない、おいしくて食べやすい真っ白なお米になるんだよ。で、これがお米を真っ白くしたときに出た米ぬか」


 僕がバケツを指さすと、母はぽかんとした様子で米と米ぬかを見つめる。

 この世界には、玄米を白米にするという概念自体が存在しない。

 驚くのも無理はないだろう。


「え、えっと、ちょっとお母さんにはよく分からないけど、これを分けるとおいしくなるってこと?」

「うん。ちなみに米ぬかも、堆肥にするといいらしいよ。あとは野菜や肉、魚、何でも、これに漬けこむとすごくうまくなる」

「……フェリク、あなたいったい」


 ――あ。危ない危ない。

 米のことになると、楽しくてついうっかりテンションが上がってしまう。

 怪しまれないように気をつけないと。


「あー、ええと、スキルを使ったら自然に頭に浮かんできたんだ」

「そ、そうなのね。でもフェリクのスキルは【品種改良・米】だったわよね?」

「実はもう1つ、【精米】がセットだったみたいで」

「スキルを2つもいただいたの!? しかもそんな知恵まで……。お母さん、教会ではフェリクの将来が心配だったけど、むしろあなたは神様に選ばれた子なのかもしれないわね」


 そう、嬉しそうにぎゅっとハグしてくる。

 にしても母さん、僕の前世と同年代だってのに……ぐぬぬ。

 考えない。僕は何も考えないぞ!!!

 そんなことより、今は米だ。白米だ。


「い、今からこのお米でおいしいごはんを炊くから。だからあっち行ってて」

「ごはんをたく……?」

「いいからっ! できてからのお楽しみっ」

「ええ……。もう、分かったわよ……」


 母をキッチンから追い出し、早速準備に取り掛かる。


 まずは米を洗って鍋に入れ、水を米の上から中指の第1関節のところまで入れて浸水させる。

 本当はここで氷を使えればよりいいのだが、あいにくこの世界では氷は貴重品で、うちみたいな貧しい米農家ではそう易々と使うことができない。

 そのため、できるだけ冷たさを保つために、庭の裏にある川で冷やしながら待つことにした。


「おい、フェリクが鍋冷やしてるぞ」

「何してんだあいつ? ついに頭おかしくなったのか?」


 近所の子どもたちの声が聞こえてきたが、正直死ぬほどどうでもいいので反応しないことにした。

 ちなみに川の水が入らないよう蓋をしているため、中の白米は見えていない。


 ――愚かだな。米を笑う者は米に泣くんだぞ!

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