96 桜田ST (アイドルグループ) の入門コース・一期生と知り合う (イラスト付)


  「松島さん」

  「うん?」

  「藤間さんは松島さんのことが好きじゃないの?」

  藤間さんとメッセージのやり取りをしていると言うと蔦はそう囁いた。

  私は聞いた。「……なんでそんな悪いことを言うの?彼女は君のことを聞いてるんだよ」

  「いいえ。説明が難しいね、家にいたとき彼女が松島さんはまた来るかと聞いて、二回もですよ!」

  蔦の表情は真剣だ。

  私は蔦が桜田STのメンバーたちと合流するのを見送るため、今は一緒に電車に乗っていた。ちょっと遅くなって、上りなので車内は混んでいなかったが私は蔦の方を向くと言った。「当然でしょ。彼女は蔦のことを話したいから、どこかに迷惑をかけていないかとか」

  「全然はしてないよ……本当に藤間さんは変だよ。松島さんは人を見るセンスが良いでしょ、よりわかってるんじゃないですか」

  「……なにがわかるの?好きか嫌いかとか?」

  「そうそう。ほかのメンバーも松島さんはあまり会ったことがないのに、すごい性格をわかっていたし」


  以前から蔦は『桜田ST』のオーディションに合格したあとメンバーたちと問題なく付き合えるか何回も心配して言っていたので、私はメンバーたちの写真や動画を見て性格を説明した。曖昧で当たらないと思ったが、蔦は信じたようで私のことを尊敬しているらしい。

  藤間さん?

  私はどう反応すればいいのか……

  人が好意的かどうかは一番簡単にわかることだ。一般的に微笑みなどの仕草を見ると聞いたが、私はちらっと見たら気づくくらいだ。

  生まれてから私の目はその些細なことに敏感かもしれない、例えば惹かれる人の視線なら人のボディーランゲージのようには説明できなくても、遅かったり、目を逸らしたりして、いろんな微妙なところがある。それは何ミリ秒なのだが、動画を見るときみたいにラグがあったら感じる。相手がなにも言わなくても仕草を隠すことができない。

  実は会ったことがない人でも、好きになるタイプかどうかはただ写真を見たら感じるんだ。でもそれがわかるのはなんのためか。

  藤間さんはただフレンドリーなだけだ……


  続けて電車の中で蔦は囁いた。「今度松島さんがシェアハウスに来たら、ボクは出かけることにするよ」

  「え?」

  「いいじゃないですか?二人きり、もっと仲睦まじくなるかもしれない」

  「なに言ってんの!」



ほかのアイドルグループはどんな風習かわからないが、『桜田ST』メンバーの蔦を見たら真面目なグループじゃないかと思った。

  今彼女は携帯でグループのレッスン資料を復習していて、前に見せてもらったが蔦の年齢には難しいと思った。アイドルというよりこれらのレッスンは仕事という感じで、例えばファンへの『3K』の態度や接客の『4S』などがあった。

  マナーについての訓練が多く、メディアに、とくにグループの毎週のテレビ番組に出演するためのマナーを教えるだけでなく、長時間本を読みながら背筋をピンと伸ばしたままポーズを保って、足が開かないようにする練習もあって、桜田STでは伝統的なレッスンだそうだ。

  「いいじゃない?蔦が女性らしくなれるってさ」

  この前マックで一緒にいたときに私は言った。そうすると蔦は答えた。「それはなんでか。ボクは家事とかしたくないよ」

  「だれもしたくないんだそれ。ただかわいい、落ち着く女性ってさ、人気でしょ?グループのときそんなイメージの方がいいんだ――レッスンでなにを教わった?ほら、ちゃんと食べて」

  「普通に食べてますよ……松島さんはさ、おとなしい女の子が好きなの?」

  「関係ないよ!」


かわいさだけをアピールするほかの日本のアイドルグループと違って、桜田STはもっと落ち着いたイメージで、『お嬢様』のグループだとよく呼ばれた。

  こうなったのは単にマーケティングではなかったが。アイドルグループはスキャンダルが頻発しているグループが多く、しかもグループの一員である意識が低くて、十年以上桜田STは湾岸STみたいな姉妹アイドルグループの運営経験がある事務所がより厳しいグループを作りたくて、蔦がいる今のグループになったそうだ。

  中学校か桜田ST、どっちも蔦を女子として教育できたら彼女の両親は困らなくなりそうだけど……

  今の電車のなかで蔦は私に携帯を見せ、桜田STのレッスンを覚え中の彼女は低い声で私に質問してテストをした。いろんな内容のなか、『3K』ということを蔦は言った。

  「『応援してくれる持ちにう』。解説、その『方』はファンだけじゃなくて、だれもが応援してくれる可能性があるから、『みんな』のことです。ルールがない場合に自分の行動で彼らの『気持ち』に対して『構う配慮する』ことを優先しなければいけません」

  そう誓約したかのように蔦は珍しく真面目だった。桜田STに関わった彼女はもっとらしくなると気付いた。

  私はうなずいた。「当たった、次……」

  『4S』のページは接客の原則だった。

  イベントだけでなく、プライベートでファンに話しかけられたらメンバーはどう反応すればいいかという教えだ。『マイル』で『客』して、聞かれたことには『直』に応え、最後のSは『ール』で、次のコンサートやイベントに誘って売ることだった。四月に行われるコンサートには数人の三期生たちが少しだけ参加するのだが、最後のSは人と話したらこのコンサートを宣伝しないとならず、もちろんCDを買うことを促すのは当然だ。

  桜田STのレッスンは基本的に教えていることはファンの好意が当たり前ではなく感謝すべきことで、できる限り返さないととても失礼だということらしいと思う。結局ポジショニングで金銭的な狙いでも、『お嬢様グループ』まで教育しているほかの日本のアイドルグループがあるかは確かじゃなかった。

  

  私が蔦に携帯を返すと蔦は言った。「今日鵜飼さんも会いますね。もし鵜飼さんに彼氏がいたらどうすればいいですか」

  それは桜田STの一期生の鵜飼すみれさんだった。私は答えた。「なんでもないよ。彼氏のいるメンバーは多いね、ただ鵜飼さんは有名だし、撮られたら危ないんじゃないかなと思うけど」

  「彼氏がいる人ってなんでわかるのですか……目が輝いているの?」

  「いいえ、悩みだ」

  「悩み?」

  私はうなずいた。「もし蔦の友だちに彼氏がいたらさ、いろいろ忙しくなるでしょ。前ほどほかの人に注目しなくて、たまに気づかれるんだ」

  「あー、でもボクは全然気づかないよ。松島さんはすごいですね!人のことならほとんど松島さんは間違えないけど……あれ、結局藤間さんは彼氏がいても、松島さんが好きですね?」

  「もういいよ……」

  蔦といるとよく会話はこんな風だった。


  七時に私たちは秋葉原駅に着くと、予定通りキャプテンの稲村瞳さんがそとで待っていた。今晩みんなは地下アイドルのコンサートを見るつもりだ。

  忙しく出入りしている乗客のなか、稲村さんの周りに集まっている女の子たちはおそらく三期生たちだった。蔦を見送ると私はもう帰るつもりだったが、気づくと遠くで蔦は先輩と話して私に振り向いて指差した。すると稲村さんも私に向かってお辞儀した。

  やっぱり……

  一期生、桜田STのキャプテンの稲村瞳さんは二十一歳くらいで大人っぽく、入団した十五、十六歳から多分同じ性格で年上のメンバーがいてもキャプテンの肩書を与えられた。

  一般的な日本人より少し色黒な稲村さんは顔立ちはも濃い方だ。厳しいときがあると蔦から聞いたが、今近づいてまた彼女にお辞儀すると、彼女の笑みは意外と優しさがあって、きれいだとふと思った。

  「えっと、蔦さんの保護者さんですね、覚えていますよ。稲村瞳です、よろしくお願いします」

  そう言ったとき稲村さんはマスクをちょっと外した。マスクを付けているのはほかのメンバーもいるので人に気づかれないためだと思うが。

  稲村さんは美月より少し背が低くて、淑やかだと感じた。私も挨拶をした。「松島彰です、よろしくお願いします」

  近くに三期生で見覚えのある四人以外、だれかの両親らしき大人も数人いた。まだ私が稲村さんと話していると、ほかの一期生メンバーが彼女の肩を抱いて、私を見ると言った。「えー?まさかあの若い保護者さん?」

  マスクを付けているが、間違いなく鵜飼すみれさんだ。

  エースの鈴木茜さんと共に、桜田STの売れっ子の四、五人の内の一人だ。「はい、松島彰です……知ってますか、私のこと」

  彼女はなぜか笑った。「え、三期生に若い保護者さんがいるってみんな話してたので……あ、私は鵜飼すみれです、よろしく。今日はいっぱい楽しんでくださいね」

  「はい」


  


――――――――――――――――――――

後書き


珍しい風習のある『桜田ST』は厳しい女子校のようで、うっかり関わった彰はどうなるのか…?!


次の話は第7章の最終話で、そのあと『キャラクター紹介』と『要約』をアップする予定です-.-


イラストは秋葉原駅の外で、桜田STの稲村瞳と鵜飼すみれと会うシーンです。

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330656768018312

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