51 撮影スタッフの飲み会 (イ付)



「私……」

  「うん?」

  「私はじゅ、十七歳です」と答えた。

  墨田さんはビールをまた飲むと答えた。「そっか?大丈夫よ、まだ三年なだけだ。ね、矢野?さっきの話って」

  「あ、なんだろう。さっき瓜生うりゅうさんは私服と言ったでしょ。実は純粋に好きだと言ったら体育着もそうだけど、ジャージってだれも気に入らないそうだ……そうそう、そんな感じですね。もし制服の特別な点ってスカートの下がチラッっと見られることなら僕も同意です」

  矢野監督の顔はあまり赤くならなかったが、結構飲んだらしい。そして墨田さんは言った。「さすが、矢野!『パンツ見たいなんて小学生だ』と言った野郎ってさ、自分が学生のとき女子のスカートに吹く神風をどのくらい願ったのか忘れたか。今自分はおっさんになって学生と会わなくても、テレビのニュースでたまたまインタビューに四、五秒くらい制服の学生を見かけると、中学生までもかな、認めなくてもみんな嬉しくなりそうだ。でもただ見るだけか、手も入れたいじゃない?」

  「お前そんな趣味?」

  「いや、事実だろう。日本人は一般に真面目なふりをしてるけど実は変態ばかりなんだ。まあ、俺には初々しい学生より色気のある女じゃないかな」

  

  墨田さんの言葉、色気のある女が好き?彰くんは彼に対してそう言ったことあったような……


  「……なら、奥さんとか」

  「それは別の話だ!」

  矢野さんは笑った。「でも本当だね、墨田……お前が言ったのはなんかわかるんだ。これは僕の日本デビュー作で、成功させたいから危ないショットも工夫して撮って、それは浅井さんにもう予め話したけど……危ないって?スカートのショットだよ」

  「あー」

  「足くらいはNGじゃないでしょ、だから放送規則の限界までやってる……そうそう、でも下着の話で思い出した。二、三年前僕は邦画を見たね。タイトルを覚えてないけど、高校生の夏休みの恋愛話で、やたらパンツを見せて……パンチラのシーン、干したパンツのシーン、着替えや脱いだパンツ、本当になんでもあった。そしてもうパンツは見せる機会がないと思ったけど、かわいい主役の女の子が急に壁にもたれて逆立ちして、履いていたのはミニスカートだから、スカートが捲れてパンツが丸見えになったんだ。そのシーンを見てるときちょうどエミリーが部屋に入ってきて僕になにを観てるかと聞いて……日本の映画とだけ答えたけど」

  「でしょ?言ったじゃん、観たのは青年じゃなくて汚いおっさんばかりなんだ……いや、お前の作品はそんなに安くないでしょ」

  「それはわからないね、客を引くために僕もしてるから。でも『楽しい』以外視聴者はあまりなにも言わないから、楽しいってどの部分かわかりづらいね。だから試写会もするし……えっと、この前私たちのドラマの試写会って二十人くらいいですね。実は五人くらいでも足りるってわかりますか?」

  アシスタントプロデューサーの南さんは聞いた。「それは少なすぎないですか」

  「そうですね。アメリカにいたとき試したアロンソ・デル・カスティージョ監督の発想ですね。彼は僕のいた映画学校にレクチャーをしに来て、もう十何年前くらいね、あとは……はい、彼はホラー映画の監督です」

  名前を聞いたことがあって、あとで検索して彼は世界的に有名な監督だとわかった。私もイオンモールで彼の『サテュロズ・パズル』の映画を観たことを思い出したし、多分そのときテーブルのみんなが感嘆したのはそういうわけだった。そして矢野さんが続けた。

  「たまにレクチャーをしてくれる有名人がいるので、そんなに珍しくないです。彼は言ったんですね、短編映画から本格的な映画まで、ただ同僚、友だち、家族みたいな小さなサンプルの意見を聞くと、意外とあとの試写会で観た百人、千人と同じ意見が多いって。それはね……あ、ごめん」

 

  矢野監督は携帯でだれかにメッセージを返すと、言った。


  「南さん、明日空いてますか?店員役のエキストラさんが病気になったんです。もし彼女の代わりに入れれば」

  「え?」

  「ただちょっとレジで働く役、袋いりますかの台詞くらいです……えっと、今現場は順調だし、一時間以上かからないと思います」

  「は、はい。服装とかはどうしますか?」

  「南さんは彼女より背が高いけど、同じのでもいけると思う。こんなに緊急で新しいエキストラをえらぶのはちょっと大変だし、南さんならいいかなとふと思いました」

  南さんは頭を下げると、私立探偵役の手塚さんが言った。「これもいい機会じゃないですか。浅井さんより輝く、本格的な女優になるって」

  「嫌だ!手塚さん、なに言ってんですか!」

  みんなが笑うと、矢野さんはつづけた。「さっきの話ですが、例えば日本にとてもいろんな趣向があって、食事のことなら基本的にただパン派と米派だったけど、今は細かくなっていくつの派があるのかわからないし。だから映画を作ったら、人の趣味がバラバラなので注意しないとねって、最初僕は信じたけど、それはあまり本当じゃないです……政治家だと見たら、みんなスーツ姿で髪型もちゃんとして真面目に見えて同じで、さっき趣向が多いと言ったのに、この場合はあまり現れないじゃないですか」

  「なんでですか」マクロスのTシャツの古賀さんは聞いた。

  「それは印象ですね」


  矢野さんはビールをちょっと飲むと彼の方に向いて続けた。


  「それはただ過半数へのアピールだと言えるが、政治家は暴走族の服装の人より丁寧に見えるって趣向によるものじゃない、事実です。人はどんな趣向でも、多分感覚は同じくらいです……えっと、この例えは離れすぎるかもしれないね、僕は味噌が苦手ですけど、味噌の料理、メニュー看板に味噌汁の写真があったら、見るとまだみんなと同じくらいおいしさが伝わります。そんなもんですね、好きかどうかのことはその印象のあとの考えです。映画の話に戻ったら、観た四、五人は確かに趣味がバラバラですが、印象はほかの百、千人とそんなに異ならないです。だから専門家の意見じゃないと価値がないと言ったらちょっと違いますね」

  墨田さんは鶏の甘酢あんかけの皿から矢野監督に向いて言った。「売れたらいいじゃない?人の意見はなんでも大丈夫だ。このドラマって、深夜だからどうせみんなただネットを使いながらテレビの音だけ聞くかも」

  矢野さんは答えた。「いや、まだコメントを読みたいね。もし『楽しい』だけじゃなくて、『わくわく』とか書かれていたらドラマがいい方向性だってわかるね。墨田もそうね。自分は『墨田さーん!墨田さーん!』と聞きたいだけじゃないって。演技の技術を視聴者に気づいてほしいでしょ」

  「俺は構わないよ、みんなはプロの評論家じゃないし。声をあげてくれるってことは深くなにか感じたはずだ。それだけで仕事には十分だ」

  矢野さんは笑った。「お前はね」

  「悪い?」

  「いつも面白いことを言うよね……今回監督より、これは僕のストーリーだって言ったでしょ。誘拐でサスペンスってわけじゃないし、浅井さんのゆず役は今の社会の日々に引っ張られて、窮屈な生活が崩れて遠くに行って、次になんとかなるかもわからなくて、これは自分じゃないかという感じを見せたい……人は基本的に自由。もし自分は本当にただの学生、社会人なんて言ったら、すべてを失って知らないところ、知らない世界にいる自分は?まだ前の自分と同じじゃないか。社会というところって一人いなくなってもだれも興味ないけど、自分には自分しかいないんだ。社会に従うか、自分の心に従うか、それ主人公が考えていることね……だからはじまるときは冬なんだ。寒くて、硬くて、でもだんだん春になると彼女を緩めて、咲いている花のように自分がだれなのかって感じてくる。自分の心に純粋に生きて、白いままの花じゃないかと自覚する話ね」

  「そこまでは俺にも、説明しないとだれもわからんぞ」

  矢野さんは微笑んだ。「いえ、理解するのは必要ないよ。僕もね、これは背景として、もしこの背景からいいストーリーになって売れたらなによりもいいんだ」


  お弁当を食べきってそのテーブルにいた私は、しばらく会話を聞くと、学年末試験のため持ってきた教科書を勉強しなければならないと言って席を立った。





―――――――――――――――――

次回、撮影の続き!


この話に書かれたパンツの映画は存在します。


ホテルで、髪の毛を乾かしている美月のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330652042715224

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