46 美月は高校で有名になる (イ付)
(美月の視点で)
私は美月だ、ツバサプリンセスじゃないでしょ。
ネットでツバサプリンセスの演技の動画以外、ツバサタウンのCMに私の顔も見えて、そういうわけで同級生がもっと早く気づくと思ったが、本当にだれかに話しかけられたのは五月だった。徐々に知られて、大体学校のみんなはステージで私が転んだ動画を見たことあるらしいが、彰くんみたいに揶揄するより応援の声が多くあった。すごいねとか、次回のライブに見に行きたいとも言われた。
でもそのなかで、一回私はツバサポーズをするのを頼まれた。「え?」
水泳部の男子たちそれは、一人がまた言った。「お願い、なんかあのつーんとするポーズだ」
そのとき私たちは視聴覚室の近くにいた。恥ずかしかったが、練習したときも含めたらもう数百回したことがあって、ちょっとしたら問題がないと思った。周りにだれもいないし、深呼吸すると私は胸に手をおいて、そして快適そうに両腕を羽根のように少し後ろに伸ばした。これは公演のときのツバサポーズということだ。
……また前の二人の男子を見ると、彼らの表情が変になった。「だ、大丈夫?」
男子の平野は答えた。「あ、キューンとしちゃった」
彼の友だちの金光もうなずくと言った。「俺も、最近浅井さんの動画を見てさ、手がたまらない」
え?
「曲もいいし、振り付けもかわいい、手をリズム合わせて叩くのはたまらないんだ」
そうか。そして平野が言った。「俺も見ると早くいきたいね」
……え?
彼は笑顔で続けた。「池袋ってそんなに遠くないのに、この週末用事を済まして早く行くつもりだ。あ、浅井さん、さっきのポーズはすごかった。動画を撮ってもいい?視聴者の何人も俺らみたいにキューンとなるかもよ」
ほっ、そういう意味か……「無理無理!」
芸能活動をしているのに、ちゃんと友だちに伝えなくて後悔した。そのなか、板垣姉妹の希と渚に謝ると、彼女たちはこの学校で芸能人も結構いて、とくに転校生の私には意外なことじゃないと言われた。
健康の心配でこの学校にも私は帰宅部長を努めていたが、空いている日にたまに板垣姉妹の所属する『ホームページ新聞部』にあそびに行った。グラウンドに側のビルの一階にあるこの部室は、メンバーの六人が学校のホームページに載る記事の作成を担当する。それはサイトを訪れる保護者が見るためだったが、一、二年前から学校内の自販機の新しいドリンクのレビューの記事から、学生の調査や面接とほかの面白い記事もあるので、学生たちもよくこのサイトを見に来た。
取材を担当する板垣姉妹はその放課後芸術部を取材する予定があった。学校の怪談の話題についてそれは、だが動くモナ・リザやデッサン用の像より、夕方の遅くまでいた夜に忘れ物を取りに来た人たちが、美術室にかけているモンドリアンのコンポジションの絵を見ていたらしい。
その絵は交差する線の間の四角いスペースに白以外青、黄色、赤などの色でくっきりと埋められた作品だった。一週間前くらいの昼に、渚は希と私の教室に来て一緒にお弁当を食べていたときに、辻本の友だちも少しあと参加して、モンドリアンの絵の話になると、絵の線と色が動いた噂があると希は言った。「いい話題だけどさ、そんな夜に見るものはなんでも動くでしょ」
渚は答えた。彼女と希のお弁当は同じく野菜がたっぷりのナポリタンだった。「いいでしょ、最近あの悲鳴以外もいい怪談がないから。でもさ、何年前かな?先輩から聞いたけど、当時かけたのはフェルメールの人物絵だったね、夜に怖かったからモンドリアンにして、これ以上怖くないのはないと思うけど」
「酒飲んで、覚醒剤でもやってたか」希が言った。
「でしょ?思ったね。美月ちゃんはどう思う?」
彼女たち、そして友だちの辻本も私に振り向いた。私が答えた。「いいと思う。でもその絵って、どんな動きなの?ただ線が歪む?」
希は笑った。「どうだろうな。ミラーボールみたいかと私は思ってるけど。色が変わるって」
そして渚が言った。「でも原色なら、パソコンのエラーのときみたいじゃない?」
「古いモデル?」辻本が聞いた。
「そうね、多分お化けはレトロが好きで」希はパスタを巻きながら言った。
そして渚は私に向いた。「ねえ、美月ちゃんは部活してないのね。うちに入部しない?忙しいならいなくてもいいよ」
私は自分のハムチャーハンから見上げた。「嫌だ、みんなは真剣に働いてるのに。軽く活動するなんてよくない」
渚は答えた。「そこまでじゃないよ。でもありがとうね、美月が部にあそびにきて私たちも楽しいよ」
希はうなずいた。「そうね、女優さん。私たちも応援してるよ!」
一週間後、私が板垣姉妹と美術室に行った日に、怖そうなモンドリアンの絵だけを撮るつもりだったが、結局部員の数人は笑顔でピースサインをするのも撮った。そして記事には怖いのと怖くない写真をどっちもアップした。
矢野監督の助けで、彰くんもこっそり行ったブランチのあと週末に私は撮影現場にいて、でもよく通ったのは鬼頭
テレビ局の会議室で、制作スタッフや俳優の私たちが三十人くらいいて、マネージャーの工藤さんも一緒に来てくれた。
私の右に、一緒にすわっていたのは伊東
左にいる男性はイケメンで、俳優かと思いながら、すわるとスタッフさんらしい。その間共演する墨田さんの居場所を探して見まわすと、彼は少し後ろの席にいて、多分知り合いのスタッフと一緒にすわっていた。スタッフと言ったが、二十代みたいなかわいい女の子で、どういうことか。
でも、この部屋にすわれるのは私がもう女優なので、ツバサプリンセスのイメージを離れる機会じゃないかと思った。だが矢野監督が会議室の前でしばらく話して、キャストとスタッフの紹介をしている間に急にライトを暗くしてもらって、私のことになるとプロジェクターのスクリーンにツバサプリンセスの演技の動画を再生していた。
たった一、二分だったが、『みんなの空』のメロディを聞きながら永遠みたいに感じた。私は新人女優だけど、役に合った演技力、またはやる気もあると矢野監督は言うと、みんなからの拍手が聞きながら私は立つと笑顔で周りにお辞儀した。
バレた……
この動画に、ペンライトを持ってダンスしていた軍団も見た気がした。女優ではなく、私はオタクのプリンセスじゃないか。ドラマの撮影がはじめると、現場でもし彼らが『ガンバレ美月ちゃん!』の応援看板を捧げて、そしてどこかの路上で鉢合わせしていつ私はアイドルの道に戻るかとまた聞かれたらどうしようか……
そう悩んでいたら、矢野監督とほかのスタッフが詳しく制作の計画を説明したが、地方に行くべきという以外私はあまりほかの内容はわからなかった。
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板垣姉妹、希と渚のイラスト
https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330651616933968
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