72 ホテルの中華レストランで、ちはるさんと (イ付)


みんな私の方を向いた。ネッティーさんは微笑んで聞いた。「どこを見るの?唇もよく言われるけどね」

  「えっと、パンツとか、胸もそうですけど……」

  彰くんと長くいて当然だと思っていた。これは私の勝負の台詞でみんな笑うと期待したが、なぜか急に珍しく静けさがここに訪れた……


  違和感が漂いながら、半田さんのすわる椅子のひじ掛けにすわっているちはるさんは立って、何度もなにか言おうとしたみたいで、結局彼女は言った。

  「あー、そうね!本当に男子はやばいよ。変なところしか見ないし、メイクのことも多分全然気づかないじゃない?」

  ちはるさんの先頭で、半田さんは参加した。「そうそう、ちはるちゃんはあってるね。男子はやばい……だから今までネッティーはいい彼氏ができないかな」

  「なんで私?」ネッティーさんは眉をひそめた。

  『目』のことだけではなく、私は数回いろんな変なことを言った。一つは、ネッティーさんが私の出身地のことを聞くと、実は半田さんも石川県出身で島根県出身の私なら問題ないけど、子ども頃に東京にいたことあると私は強調した。

  聞かれたのは私が訛っていたからかと思うと、恥ずかしくてそう答えた……


  ここを通った知り合いと話したり、たまに私たちは別れてパーティーのどこかに行ったが、あまりすわるところがないからまたみんなはこのテーブルに戻った。

  私は徐々に会話に入れるのが嬉しくて、いろんな面白い話のなかで覚えているのはネッティーさんはちはるさんが狙撃手のようだと言ったことだ。それはちはるさんがよくしていたゲームの話と恋人のこともそうで、どんな男も狙ったら失敗したことがないというジョークだった。

  なんか恥ずかしそうなちはるさんは話題を変えた。「……ねえ、せい。インスタをやってるでしょ。美月ちゃんとの写真をアップできる?」

  そのあとになるが、半田さんのインスタはもう二百万人近くフォロワーがいるとわかった。半田さんは言った。「いいけど、なぜ?」

  「彼女は新人でしょ。君とアップしたらちょっと助けになると思う」

  「え、彼女をプロデュースしてるの?自分のインスタは?」

  「関係が近すぎて、変に見られるかな」

  半田さんが笑った。「注意するのはケイラだけでしょ。浅井さんは、どの事務所ですか?」

  ケイラって、有名なモデルさん?「ラグーンです」

  「あー、問題なさそうですね。うん、私の事務所もそんなに強制してないよ。アップするのはちょっと自由だし……でもラグーンって、社長は白石さん?」

  「はい、知っていますか?」

  半田さんはうなずくと少し考えった。「去年、『蛇の夢』の映画の制作発表会ね、彼も参加したんだけど。彼と会う女子たち、私の事務所のスタッフも彼の虜になったみたいで、私のマネージャーさんもそうですし。ラグーンに転職したいと言ってましたよ」

  「そんなにイケメンの?」竹内さんは聞いた。ネッティーさんも興味がありそうだった。

  「そうそう!彼はまだ若いね、ルックスはとても整ってるし、あとは社長だからすごいね。写真?ネットにあまりないかな。浅井さんは持っている?」

  半田さんに私は答えた。「……ないですけど」


  こ、これはなに?!


  ほかの人が離れて立つと、半田さんと私は二人きりでこのテーブルにすわって、ちはるさんは半田さんの携帯で写真を撮ってくれた。アップしていたとき半田さんは『偶然の出会い。浅井美月さんがかわいすぎる』のキャプションを打って投稿すると、フォロワーが多いからかすぐに『いいね』とコメントが殺到した。

  ほとんどが二人ともかわいい、私のことをドラマで知って、友だちで驚いたみたいなものだった。私たちはコメントを読んで盛り上がってしゃべりながら、携帯を見ると半田さんが言った。

  「これ、どういう意味?『美月ちゃんは足を見せてほしい』って?」



  私はちはるさんと二人で下のロビーに来た。

  静かに夕食を食べたいと言ってちはるさんは私をここに誘った。天井の輝いているシャンデリアを見ながら、ちはるさんはこのホテルのなかにある中華レストランをえらんで私たちは二階に行った。

  もう九時近かった。こんなに豪華に飾られた中華レストランに入ったことあるかと思うと、ないかな。遅いからか客はそんなにいなかった。

  窓辺のテーブルにすわってメニューを見ると、値段が高いけど、払えるくらいだったので安心した。どれがいいかと悩んでいると、なぜかちはるさんは私にどのくらい食べられるか聞いて、ウェイトレスに言った。

  「えっと、いろんなものを小さな皿でオーダーしていいですか。簡単にそう支度できる料理だけでいいし、新しく作る必要があれば普通サイズの値段のままでいいので、できますか」

  そういう風にオーダーができるのか?

  ウェイトレスさんはそのオーダーを店長に確認すると、ちはるさんはほとんどメニューを見ずに六つの皿をオーダーした。そして彼女は言った。「いろいろ試してほしいね。ここさ、前にミシュランの星付きシェフがいて、もういないと聞いたけど、味はまだいいの」

  「ミシュラン?!」

  ちはるさんは私に微笑んだ。「珍しくないよ。東京はこんなレストランだらけだし、でもとくに味は素晴らしいとは限らないね……美月ちゃんは中国に行ったことある?」

  「ないですけど」

  「この前仕事で行ったんだ。レストランでおいしいのは当然だけど、屋台も本当においしかった。上海ね、だから滞在中に空いたらスタッフと一緒にぶらぶらしていっぱいの食べ物を買ってシェアしたんだ……」

  「上海って、あのクレジットカードのCM?」

  ちはるさんは驚いたようだった。「よくわかるね!本当に私のファンだ……冗談、えへん。要はさ、今ここで食べたら、おいしい中華料理だと思いそうでしょ、でも本場ではこんな味は一般的だったりするよね」

  「そうなの?」

  「そう、意外と麺とかおかずとか、口に入れたらうわー!って思うのが多いよ。もしフランス人が味に対して意識が高いと言うなら、アジア圏なら中国だと思う。あのとき通訳さんと話して、彼は中国人でね、豚バラ料理で名前忘れたけど、それすごくおいしいねと私が言うと、彼は家でたまに作るよと言ったの……えー!って。だってみんな普段、家でそんなのを作って食べてたら、外食への期待も高いね、とても高いはず。だからさっきの話で、もしここはミシュラン級だね、おいしいと思ったら、中国の普通かもしれないよ」

  最後のはちょっとこのレストランへの悪口かもしれない、彼女は少し声を低くした。


  そしてテーブルの近くの壁に飾られた鳳凰が華やかに羽ばたいている絵を見ると、私は言った。「でもここは有名なお店じゃないですか。そんなに普通かなと思います……」

  知り合った時からちはるさんは普通にしゃべっていいと言ってくれたけど、こんな雰囲気のせいで私は言い間違えたかな。ちはるさんが答えた。「普通じゃない、ちょっと表現が違った。なんかさ、日本の中華料理と言ったら餃子とラーメンで庶民的なイメージでしょ。もちろん高級な店もあるけど、もしデートがあってえらぶなら中華よりフランス料理でしょ。ただ『チンチョンチンチョン』って感じを味わいに来て、日本のドラマみたいに変なやつらが集まるところとして描くんじゃなくて、味が本当に深いことを私は言いたいし、まだいろんなうまい店があるって」

  実はちはるさんはパーティーで飲んだからかほろ酔いに見えた。しゃべりながらオーダーした料理が届くとちはるさんは写真を撮って、だれかに送りながら私に芸能界での将来があると言った。「なぜそう思ます……そう思うの?」

  携帯からちはるさんは顔を上げた。「『ジェンガを抜き取ること』みたいだから?」

  「え?」

  「そう見られるね」





――――――――――――――――――――――

―― そしてテーブルの近くの壁に飾られた鳳凰が華やかに羽ばたいている絵を見ると、私は言った

鳳凰は『女性』の意味としても使われます


『チンチョン』は中国人に見える人(東アジア人など)に対しての英語圏での蔑称で中国語の発音の真似です。この話にちはるは中国人へのステレオタイプを指摘して「中国は春節やシュウマイしかない」というようなものと言います。


次の話でちはるが美月に教えたいこととは?!


人気女優の半田聖節せつは美月と自撮りしているイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330653960425837

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