16 白い花が咲く

第三章の最終話です。『キャラクター紹介:浅井美月』と投稿して、次回は『第1-3章の要約』を投稿します。まだすべてを読んでいない方には、第四章が始まる前に役立つと思います( ̄ー+ ̄)

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前回の四階から五階になった彼女の病室は、窓のそとを見ると違う側だけど、住宅街と遠くに山岳がある風景なのはあまり変わらなかった。

  正月が近づいたその日、病院で彼女のお母さんと祖父母が外食しに行く間に、美月と私は階の飲食スペースですわってから病室に戻ると、しゃべりながらなぜか彼女はビルから飛び降りたことを告白した。八月に怖かったので低い三階から飛んで、土に植物があったおかげでただ腕が折れた以外重傷にならなかった。その理由で前に見たときギプスとほかの傷があった。そして美月は言った。「私が失神して、このまま起きない方がいいね」

  たまに美月は笑顔を見せて大丈夫かと思うが、本当にそうか。「そんなこと言わないで」

  「いいじゃない。私はほかの人の負担だから」


  ベッドにすわりながら、窓のそとをしばらく眺めると彼女は続けた。


  「彰くんには明日があるよね。でも私は毎日なんのためにいるのかわからない……ただいつになるか待つだけかも」

  「結構治ったでしょ」

  「ううん。自分は普通だと思うのは、もう疲れたよ」

彼女に一瞥すると私は言った。「ね、美月さん、君は明日があるよ……有名になると思う」

  「うん?」

  「確かじゃないけど、本当に有名だ。そこまで時間がかかるでしょ、だから今は安心してよ」

  「……どういうこと?」

  「私、ちょっと人のことを読めるけど」


  見合うと、彼女は私の説明を待っていたらしい。


  「え、えっと、なんというか。友だちが言ったね、私はほかの人がどんな人かよくわかるみたい。でも普通にわかる?よりもっと早く、人を読むというかな。ただちょっと表現や行動を見ると気づくかな……あ、だから私は美月さんのこともわかるよ。君はもう花の秘密を私に伝えたから、これは私のね」

  「本当に?……でも有名って?」

  「……君のことは妙に曖昧だけど、でもたまに方向性を感じて、有名人になるのは確かだ。多分女優かな」

彼女はなんか考えると言った。「君はね、ただ私を喜ばせるために変なことを言うの」

  「全然!」

  「私のことはいいけど、なら……彰くんの自分の将来は?私のよりわかるでしょ」

  私は眉間を寄せた。「……えっと」

  「なに?」

  「うーん、そこそこ、生きれるじゃない」

  「俳優とかにならない?」

  「知らないよ」

  彼女は笑った。「ありがとうね。でも私のことより、君に明るい明日があったら、私はその方が嬉しいよ」


  夕方いつものように母は職場から病院に向かいに来て一緒に帰った。外食して家に着くと、朝の郵便物がまだリビングに置かれていたから、母はそれを見てリッケ・ヘニングセンはだれと聞いて友だちだと説明した。

  母はまだ残っている仕事をしていたのであまり話さなかったが、私が自分の部屋に行こうとしたときに彼女は呼んだ。「……お母さんは浅井さんと話したけど、あの子のってさ、多分精神のことね」

  「美月のこと?」

  「そう。二年前から学校でなにか問題があったそうね、そのときがはじめで、体調も悪くなってきたのは偶然じゃないと思う……ストレスがあって病状が現れたみたいで、大変だよね」

  「はい」

母は書類からノートパソコンに目をやってから、私の方に向いた。「母さんはちょっと頼んでいい?」

  「なんですか」

  「美月ちゃんと離れないでね」

  なんという意味かと思うと、母は続けた。

  「彰くんはまだ子どもだけど、できることがいっぱいあるの……一人だとそう感じるときが多いから。他人のことなら、彼らになにか起こったとき、私たちの視点で見ると、それは小さな問題じゃないかって、なぜそんな考えなしのことをしたかと思うかもしれないね。小さいよ、彼らの人生は……だからって彼らの人生に意味がないわけではない、小さくないなら彼らを失う前に私たちは先に気配に気づくはずでしょ……彼女とは仲が良いね、このままよく彼女と連絡を取ってほしいけど。それはできる?」

  「……はい」

  「彰くんはね、美月ちゃんやほかの友だちがいるから楽しい日々を過ごせるでしょう。今から彰くんはいろんな人と会って、そのなかでいい記憶に残る人も多いね。そうは言っても、病院に来る人ってちょっと一人ぼっちに感じる、お母さんの部でね。精神が悪化しても、病院にもう来れない状態になっても、いらなくなる存在になると個人の問題みたいになったね、ずっと社会人と呼ばれていたのに……香典は一万円くらいで、彰くんはお小遣いをこれに払いたくないでしょ?」

  「コウデン?」

  「葬式があったときに払う機会がない方がいいお金……人ってさ、ほかの人に影響があるよ。考えて、もし私たちはそんなにひとり人なら、彰くんが微笑むのはなんのため?だれに見せるため?」

  私は考えながら、母は続けた。

  「お父さんもよく言ったでしょ?本にもあるみたい」

  「……はい」

  母はうなずいた。「いつでも理想主義者ね、彼は。彰くんがこうしたら多分彼は嬉しいだろうし、もうお父さんのことでうなされる必要はないのね」

  「私?」

  「うん、よく聞いたの。車で寝たときも」


  うなされる?


  もう一年間以上経ったのに。


  終わりのない砂漠、顔に触れた冷たい風、飛び交ったわからない言葉、私と父の旅はもう切れたはずなのに……




天気予報通り、その頃は毎日雨が降っていた。だが未だ霧雨であっても、美月のお見舞いに行く前に野草の花を探すため私は傘を差して長く山を歩いた。彼女はその花を見たら嬉しそうだった。こんなに森の深くに入ったと知ったら怒られちゃうらしいが、道端で拾ったと言ったら信じるかもしれない。

  なにか花があったら取って帰るつもりだった。そのとき雪はないがドライな風景で、たまに葉っぱに覆われた茶色の地面に明るい色の花を見かけても、小さくて、そのまま置いた方がいいと思った。

  美月はなぜいつも花を探せたのか……

  やっときれい花を発見したとき、手を合わせて感謝してから私は拾って、花を傷つけないように空っぽのリュックに入れた。まだ朝だったので、着替えって出雲行きの電車に乗りながらそのリュックを慎重にそばに置いた。そして病院に着くと、お茶の菊みたいな白い花はノギクで、薄い紫の方はカンアヤメと呼ぶと美月に教えられた。ありがとうとまた言って彼女はグラスに一杯の水を入れると私の花をゆっくりとならべていた。「本当に部屋は爽やかになったね」


  彼女は私に微笑んだ。


  最初入院のことは内緒にしたが、たまたま紗季と電話した美月は自分が病院にいると言ったらしくて、冬休みだから紗季もお見舞いに来た。

  その昼紗季と友だちの杏も病室に来て、私たちは四人でいた。しばらくしゃべると美月は自分の具合はよくなったと言うが、紗季は頭を振った。「美月ちゃんはいつも信じられないよね」

  「なんで?」私は聞いた。

  「え、彼女は弱いでしょ、この前縄跳びしながら倒れちゃったんだ。今元気なんて言って、ブリッジくらいで、血の流れが変になったらまた失神するかもね……」

  「ブリッジくらいできるよ」美月は言った。

  「そう?」

  「うん!」

  「やってみる?」

  「……今?」

  紗季はうなずいた。「うん、ここで。え、彰くんもいるけど……病衣だから美月ちゃん構わないかな。だって彼はこんなにきれいな花を持ってきたのだから。言いたくないけど、入ったときこの部屋はもうあつあつねー」

  「紗季ちゃん!」


  退院したら、出雲のイオンモールで映画を一緒に観るかと話すとネットで私たちはそのスケジュールとトレーラーも見た。ほかのことをしゃべると午後四時に紗季たちは迎えに来た中川おじいさんと帰った。

  しばらくして雨が止んだあと、もう美月が散歩できるか確認するために私と病院の周りを歩いてみた。寒くて、湿気がある空気で山のなかにいるみたいだと思うと、鳥の囀りが聞こえた。

  その鳥はどこにいるか、空を眺めても姿は見えなかった……こんな植物あったか。

  自分の周りにドライな芝生があるはずだけど、私の膝まで、いいえ、もっと高いか、野草が代わりに生えていた。

  病院の周りに来なかったのはたった二日、三日の間だけじゃないか。

  病院の裏に行ってみると、そこも少しの木と芝生だったところは珍しい緑で荒く茂っていた。だがここで働く人と患者か、数人がそこで感嘆して立っているわけは紫、白、青の鮮やかな色かもしれない。


  花だ、いっぱいの花。


  ノギク、カンアヤメもその花のなかにあった。なぜここに。私は今なにをしているのか、その花を見れば見るほど確かじゃなくなった。


  美月が……?


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