47 ちはる (イ付)



十月末に『白いままに走る』の撮影を待つ間、事務所の指示で週二回まだ演技レッスンに通っている以外、いろんなオーディションも受けた。とくに海外でオーディションを受けることは大俳優でも普通のこととマネージャーの工藤さんも言ったし、演技の先生も言ったのはもしオーディションを受けて人が怖くならないなら、演技の技術を学ぶことより上手くなることの近道だった。なぜと聞くと、水曜日の夜のレッスンで彼は答えた。「それは表現の範囲だ」

  「え?どういうことですか」

  彼は手を合わせると言った。「ほかの人とあまり接触したくない人なら、言葉、表情などを使う機会もないし、それはときが重なるとよくほかの人と付き合うのと比べると表現力が乏しくなる……うん、基本的にほかの人に対応できる人が即座に演技したら上手くできる傾向がある、見たのはね」

  とはいえ、最近私はオーディションにもっと落ち着いたのは慣れて、上手くなったより、ただ私はドラマに出演することが決定された理由じゃないかな。

  同じ役のキャスティングを受けていた子は事務所に所属する人としない人もいて、呼ばれることを待ちながらたまにしゃべったこともあるが、慎重になって私は事務所の名前を言わないようにした。なぜ彼女たちはそんなに緊張してるかと思っても、私が忘れたのかな、芸能界って家にいるのよりいい活動だけじゃなくて、人生を変える機会だ。お金のこともそうだけど、輝いて、みんなに自分の笑顔が愛されるのはこの道しかないじゃないか。

  楽しく彼女たちとしゃべってたまにオーディションのことを忘れたが。しばらく付き合って私は彼女たちを愛することができるけど、広い世界に、彼女たちはただ一般の女の子なのか。



  こんな生活をしながら、六月に意外と有名なバンド『Magazine Shop』のMVに合格して、それはオーディションを受けなかったのだが、主人公の憧れた妹の役だと聞いた。電話で彰くんに伝えると彼は私より嬉しそうだった。「すごい!君が行けるなんて言ったでしょ。いつ撮影するの」

  私は答えた。「八月の、ただマイナーなMVかも。ね、彰くんはこの金曜日に来るでしょ。昨日シイタケとかを買ったからさ、作ると彰くんは食べたいかな」

  「いいよ。いっぱい作って!」

  そのときも、『日々、我』のドラマをプロモートするために俳優たちが『あれ?見て見てみて~!』のバラエティ番組に出演する予定だった。そのなかに米沢さんも出演するので、収録の一週前に私は見に来ないかと米沢さんが電話で誘った。「収録に入るのはどうしますか」

  米沢さんは答えた。「えっと、ネットで登録したらスタジオに入れるの。ちょっと待って、リンクを送るよね」

  自分で観覧者の抽選をしてみて受かって、収録は火曜日の午後なので学校をサボるのはしょうがなかった。赤坂にあるそのテレビ番組の巨大なビルは、受付にメールでもらった券を見せて、入場者のチケットを首にかけると五階にあるスタジオに上がった。

  芸能人と会えるか、わくわくしながらお洒落な服装を久しぶりにして、あまり使わない高いショルダーバッグを持っていたけど、廊下でスタッフしか見なかった。収録する三十分前に私はほかの観覧者と集合するとすわらされた。聞いたことがあったが、笑うなどのときに番組が女性の声しかほしくない理由で、観覧者はみんな女の人だった。見るとちょっと珍しいと感じたが。

  最前列にすわれたのは嬉しかったが、ここが結構映されて、もし見られたらサボったことがバレるんじゃないかと心配していた。その間隣の主婦みたいな人と少し話した。彼女はほかの番組の観覧者になったことがあって、よく十八歳以上の観覧者を求めるけど、高校生の私がこの番組にすわれたのはよかったと言った。そのあとゲストが一人ひとりスタジオに入ってくると、有名な司会者の牧啓史郎さんも出てほかの人たちと話した後、彼がステージの裏に戻って、収録がはじまったのは彼が再登場したときだった。大きな音楽に包まれるとバレるかもしれない心配をちょっと忘れた。

  一般のバラエティ『あれ?見て見てみて~!』は、流行している話題を話しながらゲストに意見を聞いて、みんなはベテランだからか編集前に生で見ても彼らのやり取りには笑う瞬間が多かった。米沢さんがゲストの二列目にすわって、ロングヘアと似合うえんじ色のニット姿でいつものように上品な感じだった。自分はまだ新人だとよく言ったが、司会者との会話で米沢さんは上手く答えられた。「米沢さん、守屋さんが近づいたら本当に気持ちが悪くないですか」

  ほかのお笑い芸人のことを米沢さんは言った。「え、彼は奢ると言ったじゃないですか、断るのは苦手ですね」

  言葉だけじゃなく、彼女の小悪魔ぶりの口調と表情でみんなが爆笑した。さすが私の先輩だ。


  収録が終わって米沢さんに挨拶に行くと、仲が良いお笑いコンビ『ビッグレタス』の新保幸男さんに紹介したいと彼女はある控え室に導いた。それは今から収録する番組『せんすサンデー』のゲストが待つところだった。

  この階に複数の控え室があった。名札がある部屋は個人の部屋らしいし、もっと大きな控え室も見たが、今私たちが入ったのは多分二十人以上すわれてとても広い部屋だった。ここにすわっているほかの五、六人も芸能人かと思いながら、米沢さんについていってちゃんと見なかった。そして壁に向く椅子に太い体型の男性がいて、特徴のあるおかっぱ頭なのですぐに彼だと気づいた。近づくと彼の後ろから米沢さんは明るく言った。「新保さん、こんにちは!」

  彼はお弁当を食べていた。びっくりしたように彼が振り向いた。「……米沢!あー、今日収録があったか」

  「はい。えっと、さっき通って新保さんを見かけたので、ちょっと迷惑かな……」

  「いえいえ!俺のこと覚えていてくれて嬉しいよ。あ、小椋おぐらか、別行動だね。うん、あいつは旅行中だ。えっと、この子だれ?友だち?」

  私のことだ。小椋おぐらさんは新保さんの相方で、米沢さんは私に一瞥すると答えた。「はい。彼女も女優です。一月に彼女はドラマデビューして、主役ですよ」

  「え、すごいな!どのドラマ?」

  私は答えた。「『白いままに走る』というドラマで、深夜ですけど」

  「いいよ!君は新人だよね。二人どうやって知り合ったの?……同じ事務所か、よかった。今からよく見るかもね。お名前は?」

  「浅井美月です」

  「浅井さんだね。浅井、浅井……顔は忘れないと思うけど、また俺とどこかで会ったら声をかけてもらえる?あ、大丈夫よ。俺ももっと君が知りたいから……でもね、待って米沢、手首を見せて」

  「はい?」

  米沢さんの差した手を、新保さんは見ると眉間を寄せて言った。「君はちょっと細すぎない?」

  「そうですか」

  「でしょ?前より細いね……いえいえ、美しさのためなんてじゃない。俺の友だちってさ、もうちょっと細いくて、いつも疲れて全然健康じゃないね。君のことをちょっと心配するよ」

  米沢さんはうなずいた。「はい、今サプリメントとか飲んでいますけど」

  「そっか。でも今日友だちと焼肉とか食べてもいいじゃない?もし野菜が好きなら大きなボウルにしてよ。いっぱい食べないとね……あ、米沢のドラマは来週からでしょ、応援してるよ」

  

  もう少し米沢さんは新保さんと話していて、この控え室を見まわすと知ってる芸能人は二、いえ、三人いて、あれは『ROSE in LAND』というバンドの児玉さんじゃない?学校で彼を好きな同級生がいて、彼女が知ったら心肺停止になるはずだ。気づいたら彼らの近くにいることに驚いて、そのなかに一人有名な若手女優のちはるさんがいた。

  きれいな似合う長めのボブで、ブレザーの上着とお洒落な柄のタンクトップと短パン姿だった。男性へのアピールがあるだけではなく、クールな性格で女性にも大人気で彰くんの学校の女子もそうらしい。

  反対側の椅子にすわっている彼女はほかの俳優としゃべっていた。彼女のことを米沢さんに聞くと言われた。「あ、ちはるか」

  「え、お知り合いですか」

  「ちょっと」

  「サインしてもらったら迷惑かな」

  ちはるさんに一瞥すると米沢さんはうなずいた。「いいよ、私はそとで待つね」

  米沢さんが妙に無関心に見えて私はちはるさんのところに行かず、米沢さんを追って一緒に控え室のそとに出た。

  廊下を歩きながら米沢さんは先に言っていたこのテレビ番組の山崎拓さんのこと思い出して私たちはしばらく立ち話をした。大物の彼は今まで米沢さんがいろいろお世話になった優しい人で、来週の食事会にもし参加できたら彼に私のことを話すつもりだそうだ。私は言った。「本当にありがとう、米沢さん。でも私は全然無名で迷惑になるんじゃないですか」

  「いいえ。彼はよく言ったから、新人でも構わないって。私は言ったっけ、田中葵さんってさ、『OPUS14』の役を手に入れたのは彼経由だったの。浅井もね、もし売れると見られたら彼は本当に助けてくれるよ」

  田中さん以外、数人の若手俳優は今ドラマの役がきたのは直接的な彼の影響じゃなくても、彼の同業の知り合いのお陰だそうだった。多分私もツバサタウンの経験と『白いままに走る』の主役のことを伝えたら恥ずかしいけど、ちゃんと芸能界に入る機会となるんじゃないかな。


  「女優だと思ったのに、今は女を斡旋するエージェントなのか?」


  いつの間にか、後ろから女性の声が聞こえた。振り向くとそれはちはるさんだった。

  ちはるさんはちょっと小柄な女子だけど、近くに立つと優雅だと感じた。彼女が自分の髪の毛をゆっくりと指先でかきあげると続けた。「驚いた顔しないで。私はただ通りがかっただけだけど、君たちがアイスのショーケース前の子どもみたいに騒いだらだれでも聞こえるよ。ねえ、君の山崎さんは危ないって誰も言わなかったの。関わらない方がいい」

  「なんの話?」

  米沢さんが聞くと、ちはるさんはため息をついた。「だって、あいつはもう何人もの子を夜のドライブを連れていって、すぐに彼女たちが家に帰れたわけではないね。本当に君は知らないか……助けたときもあるかもしれないけど、ほかのときは『一泊二泊』の助けだった。君たちはそんなに絶望、いえ、欲望があるのかな?」

  「あなたなに、急にそんな悪口言って」米沢さんは返した。

  「事実だ。今まで彼が君をさわらないなんてタイプじゃないのかも。でもこの子は?餌食なんだよ」

  ちはるさんはこっちを見た……私のことか。そして彼女は米沢さんに聞いた。

  「そう言えば私は君を知ってるよ。名前はなんだっけ」

  「米沢」

  「そっか、米沢ね。じゃあ、また」

  「待って!」

  米沢さんに呼ばれると、ちはるさんは振り向いた。「なんの用?」

  「あなたはなにがしたいの?」

  「別に、警告しただけ」

  「どうしてあなたはいつもこんな口癖なの、迷惑よ」

  「……どう話したらいい?一泊のギャラがどのくらいだったかあとで聞いてほしい?」

  「あなたね!」

  「どう言っても変わらないでしょ?」

  二人はもう少し話すと雰囲気が悪くなって、気づいたら彼女たちは私を置いてどこかに歩いていった。内談か、すぐ戻ると思ったが、五分近く経っても姿が見えないから私は彼女たちを探しはじめた。


  なにこれ。





―――――――――――――――――

次は第五章『ツバサプリンセス』の最終話です!


イメージ的なちはるのイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330651707969273


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