43 美月が出演ドラマの監督と大俳優と初対面 (イ付)



そのあと私たちは近くにあるファミレスに行って、彼女たちが早くオーダーできたのは二人とも常連なのかと思っていると、米沢さんは美月からよく私のことを聞いたと言った。「……どんなことですか」

  「えっと、浅井を支えるためこんなに東京を通って、心配してくれるし、素晴らしい人じゃないかなって」

  私は首を振った。「いえ、美月は一人でも大丈夫だと思いますが」

  「うーん、浅井はすごく頑張ってるね。私もそう思うけど」


  私は思わずハンバーグとクリームコロッケのセットをオーダーしたけど、皿が届いて気づくと彼女たち二人の皿は渋く見えるサラダだった。しかも私のコーラみたいなドリンクじゃなくて、彼女たちは抹茶と紅茶だった。女優とはこういうことか。そして美月は言った。「本当にこの店の野菜はフレッシュですね。甘い」

  米沢さんはうなずいた。「安くていいよね」


  えっ、待って。甘い野菜って存在するのか。


  前は美月とレストランにいたらいつも私と同じハンバーグなどを食べてたのに。もう東京の人になったかと思いながら、彼女たちは秋山るかという女優のパーティーのことを話して、美月も行きたいかと米沢さんが誘っているのを聞いていた。「秋山さんって今、放送してる『トナカイのイケナイ恋』の」

  と私が聞くと、米沢さんはそうそうと言った。「松島さんも観てますか」

  「え、そんなすごい女優って、美月も行けるんですか」

  「私が浅井はとてもかわいいと伝えたら彼女は全然気にしてなさそうだった」

  多分誘われたのは美月が『白いままに走る』の主役になるおかげかと思うけど。食べながら彼女たちの話を聞くと、演技レッスンのこと以外ほかの俳優たちの話もしていた。その間米沢さんがプロテインドリンク用のボトルを出して、ごめんねと言うと店の水を使ってプロテインパウダーと混ぜてシェイクした。彼女は細すぎるせいでこれを試しているそうだ。そして米沢さんは言った。「松島さん」

  「はい?」

  彼女は続けた。「さっき松島さんが聞いた話はさ、うん、芸能人たちは結構付き合っているんだ」

  「友だちでですか?」

  「そうそう。普段私たちはあまりだれもと付き合わない人が多いね。お金持ちになってもただ自分の家族と過ごすイメージもあるけど、芸能界にはもっと『組』という感じかな。気が合う芸能人たちがいるのは当然だね」

  「……米沢さんはどの組にいますか」

  「いや、私なんてまだ誰にも招待されないよ。えっと、私が言う立場じゃないね……芸能界はなんでもお金のことみたいだけど、人ってお金のことだけじゃないかな。それってさ、松島さん、浅井も、まだ学生でしょ。お金がそんなにないし、でも日々楽しく過ごせるのは友だちがいるからじゃないの?」

  美月と見合うと私はうなずいた。「そうですね」

  米沢さんは言った。「私もそう思うね、もしみんな仲良くできたらいいかなって」

  米沢さんと別れてから私たちは小田急百貨店をぶらぶらした。そのあと西部新宿駅の近くの植え込みにすわって休憩しながら、米沢さんがどんな人かの美月の質問に、隠しごとがなくていい人の印象だと私は答えた。美月は言った。「そう?彼女と出会ってよかったね」

  通りすがりの人を見ながら、私は聞いた。「そう言えばさ、初めて事務所で会ったとき、米沢さんが君と知り合いたいと言ったの?」

  「え、彼女は微笑んでくれたね。彼女は仙台出身で、同じく東京に引っ越したから心配していたのかな」

 

  次の日ブランチに参加するため、十時前から美月と私は丸の内のお洒落な洋風のカフェレストランに来た。計画通りに私たちは別々に入って、運よく屋外の美月がすわっている矢野哲平監督のテーブルの隣が空いていたので、私は店員に席を指定した。そして店員が言った。「今日晴れてますね。メニューをお待ちください」

  とてもきれいなワイシャツとエプロンを着ている彼は、微笑むと去った。

  五月末、天気が優しくなってきた。私は木漏れ日を大きな日傘の下から覗きながら、近くの矢野哲平監督と七、八歳くらいの二人の子ども、それと奥さんらしい人を見た。西洋人でブロンドの髪の彼女は、あとで美月から彼女はアメリカ人だと聞いた。

  美月と矢野監督がしばらくしゃべると、十分後くらいに俳優の墨田義道よしみちさんも現れた。親しく子どもたちに挨拶をして、あそびながら抱き上げると、だれが教えた言葉なのか子どもたちは『あほー、あほー』と言っていた。そのあと墨田さんはテーブルに戻った。「エミリー、今俺がこうしゃべったら、わかる?」

  日本語で言うと、矢野監督の奥さんはうなずいた。「わかります」

  「すごいね!この前は英語ばかりでしょ?」

  矢野さんが代わりに答えた。「日本に住むと決めたからさ。なんかオーダーして。浅井さんのサラダもおいしそうだね」

  墨田さんはその皿を見た。「あ、そう……浅井さんかわいいね。なんで矢野がえらんだのかわかるな。今日からよろしく、浅井さん」

  矢野さんと墨田さんは二人とも四十代で、二十代のときに矢野さんはまだドラマのADを務めながら主役の墨田さんと知り合って、そのあと友だちになったそうだ。

  日本で墨田さんはイケメン俳優としてキャリアを積んで、矢野さんは三十代のときアメリカに転勤して、ハリウッド映画にも彼は名前を残した。去年から墨田さんが不倫騒動に巻き込まれている間に、日本に戻っていて矢野さんがしばらくテレビ番組のドキュメンタリーで働くと、彼の海外での履歴も影響があり、彼の提出した『白いままに走る』のドラマ計画はテレビ番組のプロヂューサーに気に入られて、日本で彼の監督としてのデビュー作となった。

  髪型、服装、無精髭、そして振る舞いでどう見ても墨田さんから有名人のオーラが滲み出ていた。逆に矢野監督はというと、監督によくある偉い髭や贅肉はなくて、クリーンなルックスで灰色のパーカー姿で、そのあと美月が言ったのは彼はいつもこれを着ているらしい、見るたびに大学生かと思ったそうだ。真逆に見える二人は、どのように付き合っているのかはわからなかった。「すみません」

  「はい!」

  店員がそう言うと、私のテーブルに花を入れた紅茶を置いた。値段だけではなく、この店のメニューを見るとすべてフランス語で驚いて、下に日本語が書かれていてよかったが。

  この紅茶、いつもの炭酸より十分にお洒落で、島根の田舎から来たことなんてバレないはずだと思うと、矢野監督のテーブルから炭酸を開けた音が聞こえた。

  え?

  「コーヒーを飲みたかったけど、だんだん暑くなってね、矢野」

  墨田さんは言うとグラスから炭酸水を飲んだ。二人の飲み物は缶の炭酸ミネラルウォーターで、矢野さんはうなずいた。「ビールもこんな朝じゃないし」

  え?





―――――――――――――――――――

事務所の先輩女優や監督、大俳優と会う!美月は本物の芸能人になったのか!?

そして彰は田舎者である真実がバレるのか…


次の話は真剣な芸能界らしい会話になります。


俳優の墨田義道よしみちと矢野哲平監督のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330651371596153


     ✨ᅳ𝗛ᅳ𝗮ᅳ𝗽ᅳ𝗽ᅳ𝘆ᅳ✨ᅳ𝗡ᅳ𝗲ᅳ𝘄ᅳ✨ᅳ𝗬ᅳ𝗲ᅳ𝗮ᅳ𝗿ᅳ✨

            \(^○^)人(^○^)/

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