99 大学が始まった・才媛の伊波陽葵と出会う (イラスト付)


川崎さんは日本の大手流通会社ヘロン・ホールディングスの元社長で、おじいさんの親友だった。

  え……「そういうことじゃないですけど、私は……彼女もいるし」

  「あー、あの女優さんだよね。いやいや違うよ、普通に知り合いになるだけだよ。将来、助け合えることがあるかもしれないし。彰くんもね、大学でいろんな人と知り合った方がいいね。働いていたとき私のビジネス仲間も大学時代の知り合いも多かったよ」

  「でも、川崎さんの孫なんて、私は平凡だし……相手にしてくれますか」

  おじいさんはまた笑った。「お金は男の価値じゃないだろう」

  「そうですか?」

  「うん。私の時代、日本は貧乏だったでしょ、自分の力で成功するやつらばかりなんだ……男は真面目であればなんでもできるだろう。川崎はね、彰くんみたいに真面目な男子と会ったら絶対嬉しいはずなんだ。その良さはお金で買えないもんだよ」

  「……はい」

  私の大学の偏差値は高い方で、それは真面目ということかな。

  そしておじいさんは言った。「実は彰くんは健と似てるね」

  「はい?」

  「私の助けを断わって、自分の力で進みたがるって、それも健のいいところだ。私は誇りに思っているよ」

  健は私の父だ。


  そしておじいさんはおばあさんに電話すると、彼は楓さんのことを持ち出した。

  宇都宮楓さんは私が高二のとき、おじいさんの家で知り合ったバイオリニストだ。彼女とは珍しい関係で、おじいさんも気づいていたかと心配したが、彼女が病院に通っているかどうかの話だった。私は本当だと言った。

  「そんなに深刻じゃないです。彼女は普通に働いているし」

  「そうなんだ。もし大変なら英斗のレッスンを休みにしようかと考えているね。彰くんはまだ彼女と連絡を取っている?」

  「たまにです」

  おじいさんはお茶を飲むと言った。「宇都宮さんはとてもいいバイオリニストだね、英斗くんに教えてくれて感謝しているんだ……私の知り合いに音楽家がいて、不満げな人たちが多いね。音楽を楽しむより、練習や作曲に専念していて美しい音楽を作っても、自分はそれをあまり味わえないみたいで。もし音楽家のだれかが落ち込んでいたらわかるけど」

  「……難しいですね」

  おじいさんはうなずいた。「でも宇都宮さんの熱心さは、きっと生徒に伝わる。もしバイオリンのレッスンで英斗が音楽を愛するようになったら十分いいと思う」

  おじいさんと会ってから、三日後にはもう私の授業がはじまった。



私が通う夕住園ゆうすみえん大学の経済学部は一番大きな文京区のキャンパスだ。この大学は千八百八十年代に設置されて日本の古い大学の一つで、きれいな昔の建築物が多かった。よく特徴の赤いレンガが使われた建物は、前にきれいな並木と共に写真を撮るとデンマークにいる幼馴染のリッケに送って、スイスを旅行していると冗談で伝えると彼女は本当に信じていた。

  おじいさんの助言の友だちがいた方がいいという話をまだ考えていて、授業は高校と違っていつも教室を移動すべきで、早い者順で席も変わるのでだれとも知り合えないかと思った。だが授業でほかの人と組むこととか、聞き取れなくて隣の人に聞く機会があって、それからは会うと挨拶する人が増えた。

  その知り合いのなかには、二、三回会って仲が良くなった英語Iの伊波陽葵ひなたという女子だった。

  その授業には二十人くらいの学生がいるが、伊波と私は英語を使えるので話すきっかけとなった。四月末に授業のあと初めて一緒に食堂に行き、小学生の頃に伊波は三年ほどインターナショナルスクールに通って、そのあと英語を自身で勉強して上手くなり、英検一級まで合格したと知った。

  「伊波はすごい頑張ったね。資格を見せて英語のクラスをパスできないの?」

  そう私が聞くと、カレーライスを食べている彼女は少し頭を振った。「できるのかわからないけど……松島くんもすごいじゃない?デンマーク語もしゃべれるよね」

  「いえいえ、いたからね」

  伊波は東京出身だ。振る舞いは確かに都会の子で、しゃべり方でいい家庭だという印象を受けた。実は彼女はきれいだと思うけど、高校はメイク禁止で今年からしはじめたのか、ファンデーションかなにかがいつも彼女の顔を見るとちょっと浮くって感じがした。そう考えると藤間さんなどの芸能人のメイクは上手いと気づいた。

  前に伊波は推薦で夕住園に入ったか聞くとちょっと成績が足りないと言ったが、いろんな大学生のなかで彼女の才能は目立っていた。彼女は普通に一日中勉強するばかりではなく、中学と高校時代に若者の国際的な会議にえらばれて数回参加したこともあって、それに複数の楽器を演奏できるそうだ。実は彼女の歌声も美しかった。

  初めて食堂でお昼を一緒に食べた日、英語Iの授業が終わったあと私たちはキャンパスを歩きながら、彼女は低く歌ってみせることがあって私が褒めるとそれを断った。

  「そんなに上手くないよ!松島くんもすごいよ、ここに受かったってさ。いっぱい勉強したんだね」

  「……ううん」

  「え?」

  私は少し考えると答えた。「普通に一日二、三時間勉強したけどさ……東京に来たらここと決めて、受からなかったら島根にいるつもりだったけど、受かったんだよね」

  「えー、すごいね!」

  「……マークシートって千人のなかで当たる一人がいても珍しくないでしょ」

  「そんな可能性はほとんどないよ」

  「人が生まれることもそうでしょ」

  伊波は笑った。「そうなんだけど。ねえ、なんで松島くんは経済学部をえらんだの?仕事のため?」

  「……それはくだらない理由だけど。総合的な分野だと思うんだ」

  「そうなの?」

  「うん、数学ではないし、ビジネスと科学もじゃない。心理も関わって、できることの範囲が多くて、ただ面白いかなと思ってさ」

  伊波はうなずいた。「わかった。好きなことをするっていいね。私はただ経済学部で成績がよかったらいろんな仕事の選択肢があると聞いたけど」

  「うそでしょ。伊波なら会社がスカウトしに来るはずだ」

  「いやいや!」

  経済学部の授業以外、伊波は将来司法試験を受けるために毎日数時間の勉強をしていると聞いて、彼女は偉いとしか考えられなかった。


  伊波はまだあまり友だちがいないと言っていたので、五月に私は彼女をほかの友だちに紹介した。

  実は前から気づいていたが、ここの大学生たちの会話は反応が少し速くて、慣れなかった。なにかを言うと追加説明なしにすぐに理解されるときが多いし、たまにただ『あれ』『なにか』みたいに言いかけても、その『あれ』と『なにか』がわかる人が意外といた。

  この速さは偏差値や出身と関係があるかわからないが、その日カフェで私たち五人はただの運転免許を取るかどうかの話でもその微妙な差を感じられた。

  いろんな話題の中で堀内という男子の友だちは『免れない危機』という本を読んだことで経済学への興味となるきっかけだったと言った。有名な本なので高校のとき私も読んだこともあった。そして伊波も読んだことがあるそうで、彼女は言った。

  「経済危機ってさ、起こったあといつも新しい経済のファンデーションになって、企業なら破産したりするけど、経済は一つしかないから大きなことね――思っているのは、そう経済が改善できるのはさ、スムーズな方法があるか、崩壊らしき出来事になるのが必要かね」

  「僕もそう思ってる。崩壊か、どのくらい偉い、大きな存在でも、ある日の話かな」堀内は微笑んで答えた。


  五月、美月は『明日あすのグレイ』のドラマを撮影していて忙しいと思って、しかもゲームにあまり興味がない彼女がゲームで一緒にあそぼうと誘ったのには驚いた。それはちはるさんがイメージモデルの宣伝が流れている『ルミナス・ストーリー』というゲームでMMORPGという多くのプレーヤーがオンラインで一緒にあそべる種類で、パソコンと携帯でも使える。





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後書き


宇都宮楓はある精神病を患っています。

梓はお金持ちで、実は伊波陽葵もそうです。彰の運命のお姫様でしょうか(そうではない方がいいですが - -)

彰は美人と触れ合う経験が多くて、今ではもう慣れていると言えます。伊波や他の女性もあまり恋愛対象になると感じないので、他の男子より彼といるのは居心地がいいです。


『免れない危機』は第40話、彰の高2の時に読んでいた本です。

本当の『免れない危機』この小説でそろそろ出て来ます……


イラストは伊波が家で一日7〜8時間勉強している様子です^^

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330657801109007

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