62 リッケとの時間 (イ付)



次の日、私は連絡した父の同僚との予定があった。なんか彼の奥さんも私と会いたがっていて、彼の家で夕食ごちそうになって、長く会っていなかったが彼らはまだ私のことをよく覚えているそうだ。彼らとの食事以外、ほかの日に私は小学校の友だちにも会って、そのなかの一人はリッケだった。


  コペンハーゲン中央駅前で待ち合わせると、私たちは一緒に地下鉄に乗ってガメルスタランに行った。去年から彼氏ができたとわかったので、今一緒にいるのは大丈夫かと聞くと、リッケは笑顔でうなずいた。

  最近あまり連絡していないが、SNSからよく彼女の写真を見ていて、彼女は本当に大人っぽくなって、十二歳の時のリッケと同じ人かと思っていた。川の近くのレストランにすわりながら、その明るい青色の目を長く見つめ過ぎたせいか彼女はなにと聞いた。「私はきれいになったと思う?」

  「うん、そう」

  「は?」

  私は言った。「君はきれいだって、前も言ったことあるね。ただ思ってるのはもし君が日本に住んでいたら、人気があるんじゃないかなって」

  「そっか」

  「なんで?」

  リッケは笑うと返した。「ね、今さら告白するなんて殴りたいの」

  「怖いよ」


  そしてウェイターが来てカトラリーを置いて、しばらく黙るとリッケは続けた。「五年前?君が日本に帰るときってさ、来年は来ると言ったの覚えてる?全然姿を見せなかったよね。まあ、ミヅキとか、かわいい子と会うとこっちのことを忘れたんだよね」

  「一人で旅したら心配されるから」

  「君は空港まで来ればいいと言ったのに!私は迎えに行くから!」

  「ごめん」

  リッケはため息をついた。「ごめんじゃないよ!普通にもっとメッセージを送ったら嬉しいし」

  「黙ってたのは君でしょ?」

  「なにもないんだ」

  「こっちも」

  「うっそー!」

  「なにがあるの?送って君の彼氏が読んだらどうする?」

  「日本語で送って」

  「わかる?」

  「うん……『フェルゼン!私はオウヒのこと、今忘れてください!』みたいなのもわかるさ」

  彼女日本語でそう言った。奇妙だけど。「それはどこから覚えた?」

  「アニメのクリップだ。私は真剣に日本語を学んでいるよ……でもさっき、私は日本人のタイプだと言ったっけ」

  「そう」

  彼女はリンゴジュースをちょっと飲むと言った。「なんで、日本人はあまり外国人が好きじゃないと聞いたけど?」

  「それはどこの外国人かによってね。基本的に白人の美人は大丈夫だから、日本の美人よりモテると思う」

  「本当?」

  私はうなずいた。「なんだろうね、はっきりだれも言わないけど、感じたのは白人と交際するなんて日本人の男ならみんなの夢だ。君みたいな西洋人ってさ、彼女にできたら自分はランクアップしたみたい……なんだよ。ネットで見たことないの?人気の動画は日本語をしゃべる白人の美人でしょ、あとはカップルの動画なら相手も白人ね。日本文化とかのためと言ったけど、白人じゃない、相手が先進国の人じゃないなら間違った人生としか見られないんだ」

  「……なんか嫌じゃない?」

  「こんな感じだよ。デンマークと日本もこんなことがあると思うけど。たださ、もし君はネットで調べてみてだれも言っていないじゃないかと思ったら、ないでしょ。私たちの人生はそんなもんだ」


  私は店の周りを見まわすと続けた。


  「例えばリッケはだれかを好きになって、友だちが彼を好きなのかって聞いて、恥ずかしくて否定しても言葉通りの意味じゃないね。本当のことを言わないというより、人は自分の気持ちさえもわからないかもしれない、だから日常で相手が鮮明になんでも言うことを期待してるのは理不尽だ」

  「……日本で君はなにが『できる』って、みんな知ってる?」

  「あまり」

  「言わなかったの?」

  「用がないから」

  

  そのときサラミのプラターはリッケの前に届いた。少し私たちは食べ物の話をすると、リッケはフォークでオリーブを刺すと言った。「セブはいろいろ言ったけどさ、私が日本に行ったら、一人探してくれる?」

  「え?」

  「いい男」

  「……今のリッケの彼氏は?」

  「いいでしょ。とくに長く交際するつもりじゃないから……前にも言ったよ。約束ね」

  「待ってよ!」


  次の日、私と会うためにリッケは学校をサボってくれて、週末に彼女も私の家に夕食を食べに来た。

  小学生のとき、リッケは二回くらいここに来たことがあった。彼女がキッチンの近くに来るとカレーの匂いがすると言ったが、大当たりだった。そして私たち四人は揃ってすわって食べはじめると、リッケは私のことを話題に持ち出した。「セブはこう見えて、日本で何人もの彼女ができたんですよ。いつも電話で私に相談して、名前をまだ覚えています。サキ?ニシヤ、ツクモセンパイ、あとだれだ、あのお母さんの同僚もさ。彼女たちは変な目で見て、どうしよう、どうしようっていつも言って、本当に面倒くさいですよ、ヘリーンさん。もう彼女たちにやばいことをしちゃったかもわからないし」

  「本当に、セブ?」ヘリーンさんは聞いた。

  「え、それは……」

  ただ普通に友だちのことだと言ったでしょう?彼女たち以外私はほかの人のことも言ったのに。でもちゃんと説明できる前に、スヴェンは叫んだ。「やっぱり、兄貴!最高だよね!なんで僕に口説く方法を教えなかったの?」

  リッケは言った。「スヴェンは知らないの?セブは丁寧な行動をして、いつか女は彼とのことを安心していると気づいたらもう一緒にベッドにいたんだ」

  そうじゃないよー!


  デンマークでの十日間が経って、帰る日は平日なので、空港まで見送ったのはヘリーンさんだけだった。

  五年前みたいな涙より、そろそろまた会えそうだからか別れる前にヘリーンさんは笑顔で言った。「お父さんは今セブを見たら嬉しいと思うね、こんなに元気な大人になったって。また夏休みにいつでも来ていいし、私たちは待ってるよ」

  「わかった」


  もしお父さんとまだ私はデンマークにいて日本に行かなかったら、今ごろ私の日々はどうなったか……ターミナルで離陸の時間を待ちながら、私はずっとそれを考えた。





――――――――――――――――――

リッケの台詞から…

サキ = 中川紗季

ニシヤ = 西谷れい、同級生

ツクモセンパイ = 津雲つくも、テニス部の先輩


次回、東京で謎の『タツ』と会う!


イラストはカフェでの彰とリッケ

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330653005394127

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