69 デビュタント・ボール (イ付)
私の視線に気づいたちはるさんは聞いた。「なに?急いでるでしょ」
「あ、うん!」
またチラッと見ると彼女はもうドレスを着て、ちょっと背が小さくてもグラマラスだと思った……恥ずかしいが私も脱いでいた。
ちはるさんの黒いドレスはよく見たボリューム感のあるワンピースではなく、ショート丈のタイトなデザインでどう見ても完璧だった。ちはるさんは格好いいし、こんなときも色気が漂って、どこかですれ違ったら女の私も見返すほどだった。女というのは、こんな感じかな……
彼女はメイクを直すと長めのボブの髪型を整えて、そのあとベッドルームに入って出るときに私に言った。「美月ちゃん、これ試して」
もらったのはシンプルでもキラキラしたネックレスだった。かわいいと思いながら私は言った。「本当にダイヤモンドみたい。これはクリスタルですか」
「ダイヤモンドだよ」
えー!
ダイアモンドのジュエリーはお母さんもちょっと持っていて、指輪をつけてあそんだことがあっても、つけて出かけたことはなかった。「ダイヤモンド?いいの、これ?」
ちはるさんは微笑んだ。「大丈夫。これはそんなにダイヤモンドっぽくないからカジュアルに付けられるね……そう、フックはそこだよ」
「……どう?」
「うわー、思った通り」
付けたネックレスを鏡でしばらく見ると、小さな輝きはかわいく私の首元を華やかにした。それを眺めながら鏡に映る後ろにいるちはるさんに気づくと、私はありがとうと言った。「本当に面倒をかけました」
「いいえ、私より美月ちゃんの方がもっと似合って嬉しいよ。出かけよう?……あ、置いた服と靴はね、今日遅かったら明日取りに来てもいいよ、夜私はいるから」
ちはるの車の代わりに、彼女はお酒を飲むそうでタクシーに乗って、六時半くらいに私たちは東京湾が見える港区のホテルに着いた。タクシーを降りて、外国のような入り口からきれいなロビーを通ると、エレベーターに乗った。そこの鏡で私はまた自分の姿を見た。膝までの灰色のドレスこれは、一緒に買ったときちはるさんは何度もかわいいと言ってくれたが、隣のきれいなちはるさんを見ると、私はただ親の服装を真似て大人ごっこであそんでいる子ども……みたいじゃないかと思った。
四階まで上がると、二つの部屋しかないこの階は、左右を見るとちはるさんは401号室に私を導いて、ドアに『Roy’s Birthday Party』と書いた看板が置かれていた。彼女がドアの取っ手をまわして、開けると私たちは中へ入った。「美月ちゃんのデビュタントかな」
「デビュー?」
「あ、デビューはそうだけど」
でも、ここは……
芸能人ロイさんのお誕生日で、最初ホテルでのパーティーだと聞いて、結婚式みたいにみんなはテーブルにすわって食べるかと思っていたが、違っていた。
クロークでコートをホテルのスタッフに預けたのは初めてかな、前にいる十、二十人のゲストや周りを見渡すと部屋の広さ以外天井もとても高くてお洒落な屋敷にいるみたいだった。そしてちはるさんは続けた。「デビュタントはね、少女を社会に紹介することなの。聞いたことある?」
「あるかもしれないけど」
ちはるさんはこのホール?を見まわすとまた説明した。「一方で結婚の対象を探すためだけど、自分は『女』だと認められる機会ね」
「女?」
「うん、少女って学校に通って、両親の指示に従う存在でしょ。女になるのは仕事をはじめるのと違うよ、自分は一人前として生きて、自分の名前で呼ばれて、デビュタントのホールなら人のなかで輝いて立っていること。でもただ多くの花のなかの一つより……」
ちはるさんはテーブルにある花瓶の
「刺があるお花畑みたいね、どこを見ても花が咲いて。だれかに、私もちょっとやわらかくなりたいけど」
「えー」
「……くだらないことね、気にしないで」ちはるさんは笑った。
こんな大きな部屋はホールと言ったらいいかな。テーブルの上にフィンガーフードがならんでいる以外、ドリンクのトレイを持ってサービスしている制服のウェイターもいた。一人が私たちの方に来るとちはるさんはシャンパンを取って、私のはピンク色の炭酸で、少しあとでこれもアルコールだとわかった。入ったときから穏やかな音楽が聞こえて、そこにあるグランドピアノを見ると本当に弾いている人がいた。
ゲストの男女はスーツやドレス、それ以外だと格好いいカジュアルな服装だった。ちはるさんは入り口の近くでカップルみたいな二人としゃべると、ほかの男も彼女に話しかけたのでしばらく楽しそうな会話があった。どうすればいいか迷った私はずっとちはるさんの後ろについていると、彼女は気づいて私に言った。「あ、ごめん。まずロイに挨拶しに行った方がいいね。その辺にいるかな」
「いいよ……えっと、あれはモデルさんじゃないの」
ちはるはチラッと見ると答えた。「そう、飯島ヘイゼルさんだね……彼女のファン?」
「いえいえ!どこかで見たことがあるかなと思ったから」
「へー、紹介できるけどさ。今日はもっと来るね、緒方さんと、渡辺孝秀さんとか。うん、俳優の」
「本当?そんなに有名人が来るの?!」
「うん、ロイは本当にいろんな知り合いが多いね。どう?私が誘ったのはよかったでしょ?」
私はうなずいた。
少し歩くとまたちはるの知り合いと会った。彼らは芸能人かどうかわからないけどみんなはキラキラして見えて、話しながら私も紹介してくれたが、あまり会話に入れないので結局ただ立って周りを見ていた。近くのテーブルには、いろんな大皿にのったフィンガーフードがあって、パンやお肉からスイーツまであった。三年前の従弟の結婚式以来、こんなお洒落なものを見たんじゃないかな。おいしそう。お腹もちょっと減ったかな……
邪魔しないようにそのピアノの音楽はまだ静かに流れていた。素敵だと感じていても、大人にはこれが普通なのかな。学校に通う日々が現実だと言ったらこれは夢なのか。こんな輝いているところがあるなんて、なぜ今までだれも言ってくれなかったのか。
そしてちはるさんの女友だちが言った。「そういえば浅井さんのネックレスきれいね。私もこんなネックレスを付けたらこのくらいかわいくなれるかな」
ちはるさんは笑った。「美しいよね。浅井のセンスがいいんだ。もう輝いている人は、派手なものが必要ないみたいね」
「へー!あたしのことを批判する?」
「そうかなー」
え、これはちはるさんのネックレスじゃない?
笑顔でしゃべっているちはるさんを見ると、これは社交ということかと思った。
ほかの有名人がいるかと見張りながら、ちはるさんについていって進むと、主寝室みたいな部屋にロイさんがいるのを発見した。ここの設計は大きなホテルのスイートルームみたいかな。
実は、さっきイケメンも多かったね。
――――――――――――――――――――
気づくと美月はキラキラしたイベントに参加していた!
彼女は女優になり付き合う人によって地元と業界では環境が違うので、初めての経験かもしれない。
新しい人と出会い、彼女は無事に失敗なく過ごすことができるでしょうか?
パーティーでの美月とちはるのイラスト
https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330653612926555
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます