29 美月、スカウト (イ付)



次の日の昼前に私たちは銀座で買い物すると、お茶の水駅まで電車に乗って母の親友のはなわこはくと会った。有名な平浄へいじょう大学の生化学の教授の彼女は、大学近くのレストランで私たちを待っていた。塙さんは母と同じく四十代だが、髪の毛は明るく染めて、メイクやこの笑顔だからか若く見えた。今彼女はジャケット姿でフォーマルだけど、教室に何十人の大学生を厳粛に教えることはあまり想像できなかった。

  母と塙さんは大学のハイキング部で知り合ったそうで、彼女たちはお互いの仕事の話をしながら、私はこのお洒落な洋風のレストランのインテリアを見ていた。気づいたら来客の二人の女子は塙さんに挨拶していた。

  彼女たちは大学生らしく、テーブルに行こうとしたときに塙さんは待ってと言った。「ちょっとこっち」

  「はい?」

  彼女たち躊躇って私たちに近づくと、塙さんは微笑んだ。「えっとね、永瀬と馬場はとてもいい学生だ。ね、君たちは、この子のことどう思う?もし彼は大学にいたらモテると思う?」

  『この子』って私だ。二人は見合うとうなずいた。

  「彼と知り合いたい?」

  「え?」

  「彼女はいないと思うけど、いる?」

  母は微笑んだ。「なにしようとするの?彰はそんなに東京に来れないよ」

  「反対する?」

  「別にいい、彼は高一だけどね」

  そう聞くと大学生たちは驚いた顔をしていた。塙さんはもう大丈夫と言って彼女たちと別れると、私たちに向いた。「かわいくないの、しかも彼女たちは頭がいいよ」

  「それは彰くんが決めるね」

  「どう、彰くん?お姉さんたちに興味ある?」

  

  お姉さん?

  

  ど、どう……答えたらいいのか?


  塙さんは続けた。「多分五つ?くらい上だけど、優しくしてくれると思うから、遠距離恋愛なんて問題ないと思う」

  そして母は言った。「もうやめてよ。好きになったら苦しい方は女の子らしいね、離れているって」

  塙さんは笑った。「わかった。なんかさ、志緒に叱られるかと思ったけど、結構君は優しくなったね。彰くんの写真を撮ってもいい?……健の息子はもうこんなに成長してって、奈絵と渡名喜となぎが見たいかもね」

  「いいよ。渡名喜はまだアメリカにいたっけ」

  「そう、でも来月帰るよね。志緒も東京に来る?」

  「そうね」

  ずっと回転寿司が食べたかった私は、塙さんと会ってから国立新美術館に移動すると、その夕方私たちは六本木にある回転寿司の店に行った。この店にはよく一皿に二個のいろんなネタのお寿司がベルトコンベアで流れて、好きなのを見たら自由に取れた。一皿は百円からの値段で普通の寿司屋さんより安く、食べ放題の店のような雰囲気だった。だけど魚とエビなどのネタ以外、謎の黒いネタが数回通ってきて、母に聞くとそれはナスと彼女は言った。「だれがこんなところにナスを食べたいですか」

  「ナスが好きな人かな」

  「……でもナスが好きなら、寿司店に来ないじゃないですか」

  「うーん、多分ほかのネタが飽きたら食べるかな。実はこの前エノキのネタもあったけど……ね、携帯取らないの」

  「あ、はい!」

  気づいたら私の携帯はずっと振動していた。美月の番号で、まだ寿司を噛んでいる私は取った。「もひもひ」

  「彰!忙しい?今夕食?うん、私も元気だよ。ねね、大変、私はスカウトされたんだ!」

  え?「スカウト?」

  「うん!芸能事務所のだよ!」



またそのことをちゃんと話したのは私たちが島根に帰ったあとだった。


  お互いにお土産をあげると、美月は那覇から宜野湾と嘉手納、そしてそこのきれいな海の写真を私に見せると、彼女は深呼吸してスカウトのことを伝えはじめた。首里城にいたそのときは、話しかけたのはよく名前を聞いた『ラグーン』の事務所の社長だった。「びっくりしたね。名刺を見てなんか『長』が書いたでしょ。課長?って思ったけど、離れてまた見ると本当に社長だったんだ」

  「彼はどんな人?」

  「え、そんなにおじさんじゃないって感じね。四十代より前かな。でも彼の奥さんみたいな人もいたね、美人でモデルみたい」

  美月は嬉しそうにしゃべっていた。私はうなずいた。「そっか。でもすごいね、社長にスカウトされたって。そう言えばもうサインした?」

  「まだ考えると言ったね、お母さんはすぐに契約させたがったけど……私ってさ、女優になるなんてちょっと無理と思わない?」

  「なんで」

  「こんなに人に苦手し」

  「それはみんなのことでしょ。頑張ったら問題ないよ」

  八月上旬のある午後。私の家の食卓で沖縄からのお土産のパインアップルのパイを一緒に食べながら、美月と私は残っている夏休みの過ごし方を話し合った。紺色のかわいいワンピース姿だった美月は、最近肩より少し長いセミロングの髪型にして清楚で似合っていて、このルックスだからスカウトされたかと思うと、急に彼女は私に目を閉じてと言った。「え、こう?」

  「うん、開けないでね」

  キス?なにと思うと彼女はどこかに歩いて、また目を開くと美月の手には数本の紫色の花があった。「なにこれ?」

  「私の新しい力だよ」

  「え?」

  隣の椅子にすわりにきた美月はこの花を見ると言った。「さっき私は集中して祈ると急にこんな花は現れたんだよ。わー!ハナシノブだね。すごくない?」

  野草か。きれいな紫色の花これは、どう見ても本物だけど。「でもさっきあっちに歩いて……カバンから取ったんでしょ?え、そうじゃないならなんで目を閉じるべきって」

  「だ、だって、取り出すときってさ、ピカピカの光がいっぱいあって」

  「は?」

  「そうよ、もしバラならね、もっと見られないくらい眩しいよ……私?だからさっき目も閉じたよ。うん、とても危ないよ、この力は」

  なにも言わなくて、しばらくして目が合うと急に彼女は笑い出した。

  「なぜ彰くんは信じないの!」

  「最初から怪しかったからだよ」

  そして彼女はこの花の花瓶を探すと食卓に戻ったときに、私がお兄ちゃんたちとあそんだことを聞いた。「楽しかった?また酒飲まなかったよね」

  「いいえ」

  

  去年から東京の大学に進学した直弥、美月のお兄さんは、この夏休み、島根に帰った。彼は友だちとたむろしたときに私も誘った。






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スヴェンのイラストです

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330650344865447

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