18 いじめへの反撃



二日後、私はまた菅野と鉢合わせると彼女たちがよく集まる学校の菜園の近くに呼ばれた。あそびに行くことを断ったせいか、美月へのいじめは続いた。自分で見ていなかったけど、同級生から聞いたのは、自転車に乗って帰宅する美月は、菅野と高校生の仲間にバイクや車で付きまとわれて悪い言葉を浴びせられていた。「まじで?」

私は聞くと、野球部の友だちの阿部は言った。「うん、なんか四、五人くらいで、死ねとか言ったんだ。やばいね」

  そう聞いて読んだマッドマックスの背景の漫画を思い出した。現実にもバイクに乗るモヒカン刈りのやつらはいるのか。

  その日、最後のチャイムが鳴ると私は早く教室を出て駐輪場で美月を待った。少しあと彼女が現れて、一緒に帰るかと聞くと彼女は言った。「彰くんはまだ部活をしているでしょ、いいよ」

  彼女は自転車を歩道に引くと、私は答えた。「もう家に帰ると部員に言ったから、大丈夫だよ」

  「彰くんは……一緒にいない方がいいと思うけど」

  「考えすぎだ」

  聞いたのは、菅野は『にちぼ建設』という会社のオーナーの娘以外、不良の知り合いが多いのでだれも関わりたくなかった。そのことについて、隣の席の友だちの橘は言った。「みんなも怖いね、巻き込まれていじめられたら」

  「このまま、卒業するまで?」

  「うーん」

  私は眉をひそめた。「私はさ、あまりなにも知らないけど、卒業式なんてみんなにとって美しいときでしょ。でもいつもやられてる人も一緒にいると知っていて、みんなはそれでも平気で笑顔ができるの?」

  「……外国はどんな感じ?彼らを止められる?」

  「外国かどうかのことじゃなくて、どこでもこれは見逃せないことだよ」

  と私は言った。


  五月の上旬、ある放課後私は美月と自転車に乗って帰宅していると、二台のバイクが寄って来た。美月はまた新しい男を誘惑した、それは私という意味で、それとほかの性的な悪口も叫んでいた。長い田んぼの道でそういう状況が続いて、結局彼らが去ると美月は私に大丈夫かと質問して、私は答えた。「いつもこんな感じ?なんで言わなかったの?」

  「いえ、私はいいから……ありがとう、彰くん」

  「ねえ、もっとひどいことやられたことがあるでしょ。平気なことじゃないよ。もし美月さんは彼らに運ばれたらどうする?考えたことないの?助ける人がいないよ」

  「しないでしょ」

  「信用できる?」


  そして私は徐々に自転車を止めると、美月もそうした。


  「彼らはこんな暇があるんだから、なんでもするよ。あっちはやりたい放題なのに、私たちがなにもしないからもっと、もっと対象になるばかりなんだ」

  美月と他のだれにも言わないが、そのときから私はスーパーで買ったポケットナイフをいつも財布に隠して持参していた。最悪の場合になったら、四、五人と戦うことはできないけど、刃物で脅して彼らの動きを少し阻めたらいいと思った。

  いじめの問題をたまに持ち出して同級生と話したからか、一人ひとり彼らは、私を応援する態度になったらしい。ただ悪い言葉を浴びせることだけじゃなくて、五月下旬にまた美月のテーブルに『シッコ』と書いた紙が貼ってあって水みたいなものがかけられていた。それを『しつ子』と読んだ私は日本の名前かと聞いたけど。そういうわけで私は三年生の教室に行って元凶の菅野と話すつもりだと友だちに言うと、教室を出る前に隣の席の橘は待ってと呼んだ。「本当に行く?」

  「うん、なんで」

  迷っているようで彼は少し考えた。「秀一も行くかな」

  無理していそうだけど、彼はあの秀一を引っ張って教室のドアまで来た。私は言った。「え、いいよ」

  橘は頭を振った。「せめて私たち三人なら殴られないかもね」

  当然、菅野はそのいじめを認めなかったが、彼女と四、五人の仲間は、私たち三人のことを見ると初めて抵抗があると気づいたかもしれない。私たちが教室に戻ると、待っていた女の子たちにいろいろ聞かれ、橘は言った。「あいつらはびっくりした顔だったよ。でも松島はすごい度胸だよね。デンマークにいたときギャングの人だったっけ?」

  「普通だったよ」

  実は私は臆病な方だと思うけど、多分長年外国にいたからか日本人の考え方とちょっと違ったかもしれない。先輩や年上の人に丁寧語で話すが、一切彼らを上と考えたことがないから、怯えられたこともなくて、なぜみんなはそんなに先生と先輩にぺこぺこするかも理解しにくかった。こういう考え方は、日本で一般的かわからなくても、毎日、毎日学校のみんなは美月みたいな女の子がなにをされているか知っているのに、そういうことに対して人々は上の人と同じように頭を下げて、沈黙しながら目が合わないようにしているようだった。もしそれが目上の人への尊敬の態度なら、どちらも尊敬だと言うより、恐怖だけじゃないかと思った。

  紗季から聞くとたまに美月が謎の悪質なメールをもらった。それだけじゃなくて、六月末学校の裏にまた菅野と問題があった。


  その日、同級生からの通知があって私は急いで走って行くとそこには菅野と三人の仲間が一緒にいて、一人は男子だった。菅野はなにかものを持っていて、少しして美月のミカン香水だとわかった。彼らに見られながら近づいた私は言った。「なにしてるんですか、菅野さん」

  「なんでもないよ。でもこの香水を使っていっぱいの男ができたら、私も使うかなー」


  彼女たちが爆笑すると、菅野はその香水をスプレーした。


  「あれ、ミカン?」

  「は、はい」それは美月の声だった。

  「……それは香水じゃないです。戻してください」

  そう私は言うと美月も振り向いて、すると菅野が言った。「香水を買う金がないから自分で作った?しかもミカンの匂い?やっぱり田舎の子だよね」

  「ラブホの代わりにあぜ道でやるじゃない?」

  「無料でね!」

  また彼女たちが笑うと、私は言った。「やめろ。それはただ彼女の好きなアロマだ」

  「そう?浅井のことよく知ってるね。あなたも使いたい?この田舎者と同じ匂いになったら嬉しいかもね」

  そして彼女は数回美月にその香水をスプレーした。どうしようかと思っていると、美月は手を伸ばして香水を取ろうとした。しばらく菅野と取っ組み合って、ボトルが落ちると割れた。それを見た美月は急に倒れた。

  「美月!」

  多分溜まったストレスのせいだと思うが、美月のことを知らない菅野は、ただ彼女がふりをしていると身体を揺らした。「おい、もう男を惹けないとショックを受けたか。起きろよ!」

  私は言った。「もういいよ、先輩!ほっといて!」

  「声を上げるな!」

  美月に近づいた私は菅野に押されたて、仕返しで押すと彼女は転んだ。建物の柱に菅野の顔がぶつかって痛いと叫んだ。そして男の仲間は、そんなに背はでかくないやつで、私が拳を握って脅すと近づくのに躊躇しているようだった。彼らが私に距離を置いた間に、私は割れたボトルに残った香水を美月の鼻に付けると彼女を姫抱っこした。「ごめんなさい、先輩」

  「痛い!ゆるさねぇからな!」




――――――――――

作家のノート


♪… 反撃のパンチを…♫

……違います、東リベじゃないです。


彰は度胸があるのか、ただ彼が地元に馴染みがないため圧力に怯えないだけか……?


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