73 ちはるは芸能界の裏を教える (イ付)


携帯からちはるさんは顔を上げた。「『ジェンガを抜き取ること』みたいだから?」

  「え?」

  「そう見られるね」



ジェンガは人気のゲームで、一般的なあそび方ならプレーヤーの一人は木製ブロックを一個ずつ、このブロックで重なった三十センチくらいの高さの塔から抜き取って上に乗せる、それを順番にやって塔が倒れたら負けというゲームだ。ちはるさんの意味がわからなかった私が眉をひそめたせいか、彼女は説明しを続けた。

  「芸能界ってさ、一般人から見たら創造力が溢れてみんな素晴らしい作品のために努力している業界のイメージね、実はそうじゃないけど……海外は優れているとまでは言いたくないけど、日本のドラマや映画はそれと比べると幅が狭いと思わない?なんでもサスペンスとか」

  「あ、そうだよね!」

  「……それは上からの望みね、すべてを批判できないけど。みんなはただ安定したがるし、だからもう成功したジャンルの作品を作るのは前提だよね。好きな脚本家などのスタッフを集めて、評判が定着した俳優を入れて、成功のレシピでしょ。こうして総会があったら美しく期待した収入のグラフを描けて、この映画は何十億円の目標、前例が何本があって、と格好いいプレゼンテーションをあげられるくらい、失敗したら、『私はしっかりと手順に従ったんですよ』と上司に説明するのが許されるね、日本式だと言えるし。たまに異例な作品が成功するかもしれないし、少しずつそれを真似て進むのは芸能界だ……それで、有名な俳優だけえらばれると見ると、どうやって新人が誕生できるか知ってる?」

  「……ヒットのドラマに出演する?」

  「そうそう、次は?」

  「えー、もし視聴者に人気があったら、有名になるかな」

  「うん。でも、それはそんなに偶然だと思わないでしょ……視聴者は重要でもまだ足りないね。新人は有名な俳優になれるのは他に二人、三人が必要だ」

  「三人って?」

  ちはるさんはうなずいた。「実は主役くらいになって、大ブレイクできそうでもそれ以上にならない俳優って、今まで私はいっぱい見たね。逆にちゃんと有名な俳優になった人たちって、違いはさっき言った『二、三人』ね、それは会社側だね。視聴者に好評のテレビ番組に出演させて、CMに起用してほかの仕事をあげて、これは『二、三社』一緒の行動ね、すぐにだれでも有名になるよ」


  私たちは少し食べると、ちはるさんは説明を続けた。


  「日本で有名になるかどうか、会社に雇われてメディアに出る機会があるかどうかだけね。だからそういう会社は力が大きいしょ、人に知名度を付けられるって、でもその力はあまりだれも使わないけど」

  「なぜ?」

  「映画とドラマ、芸能界の全体と一緒ね。例えば美月ちゃんね、ある女優は魅力的だと思って起用していたが、彼女の知名度はまあまあで上司をどう説得すればいいかわからないから、すでに有名な女優を使うね。でもこう考えるのは美月ちゃんじゃなくて、すべての会社だよ。お互いに見張っているみたいね。この子をいいかどうか安全じゃないからだれも最初には使いたくないけど、だれかがはじめたらほかの会社は私も!って態度になる。さっき言ったジェンガの話は、みんなはただこのまま安全なブロックを抜き取って、険しいものを避けてそのままにし続けたいことでしょ。だれもジェンガを倒す人になりたくないから。芸能界もこんな感じ」

  「そうなんですね!」

  「だけどさ、美月ちゃんは多くのメディアに出演しはじめて、この様子ならもっと使われそうね、有名になるかもしれないと思う」

  「……すごい。ちはるちゃん、説明してくれてありがとう!」

  「ううん、しゃべりすぎて私は酔っ払ったかな。まずいね、こんな夜なのに、私はほかの楽しい話題がないかな」

  「これは楽しかったよ!」

  「そう?」

  「えっと、普通に芸能界にはいろんなハードルがあることしか聞かなかったし。さすがにちはるちゃんは大女優だよね」

  ちはるさんが頭を振った。「そんなことないよ。ねえ、ちょっと助言を言っていい?」

  「はい」

  「……この監督が偉い、その役者が偉いと言う人が結構いるでしょ。偉い人が多くて夜空の星の数ほどいるみたい、ある日自分もその星になると思う人ってさ。でも要はね、もともと自分が輝くものなら、眩しくてほかの明かりに気づかないでしょ。だからいっぱい輝きに気づくなら、自分がほかの星より、暗闇のどこかの地の泥沼みたいな存在だ。星をそんなにはっきり見れる自分は泥なわけだ。今からこの業界で美月ちゃんがその星と出会ったら、彼らは丁寧でほかの作品などを褒めるかもしれないけど、ちゃんと態度を見ると礼儀としてやっているだけかどうかわかるね。逆になんとかさんでも偉い、役者さんの皆さんがすごい、芸能界が高い存在みたいに言うその人は泥沼ということだ。輝きに敬うのは輝かないものばかりじゃないかな」

  「そっか……」


  その話から私は芸能界の悩みを彼女に相談した。女優として活動するために親は東京でのマンションを借りてくれて、もし成功しなかったらどうすればいいか。例えば多くの女優と同じく、このままに淀んでもっと売れる女優にならないならの話だけど。

  毎日のように私はこれを考えていた。たまに田舎で自分が農業で働いている夢を見て、起きると自分は女優だと思い出して安心したが、夢に出てきた畑は自分の本当のことじゃないかと思った。そしてちはるさんが言った。

  「……私はわかるね、でもさ芸能界じゃなくて、美月ちゃんが普通の仕事をすると考えたら、もし給料があまりよくないなら、芸能界で活動していた方がいいと思うね……普通だ、こんな悩みって。私も今ビジネスをしていて不安があるし、全然こう感じないならなにもしはじめないのかな」

  「そうね」私はうなずいた。


  私たちはパーティーの話に戻って、冗談かわからないけどいい男子をおすすめしてほしいかとちはるさんが聞いて、私はもう彼氏がいると答えた。なぜか彼女は驚いたようだった。「彼は……東京?島根にいる?」

  「島根です。えっと、十三歳からかな、知り合ったのは」

  ちはるさんは少し考えた。「どんな人って聞いていい?美月ちゃんの彼氏ってあまり想像できないけどね」

  「普通の人じゃないかな、優しいけど」

  「……なにか、野球部?」

  「いえ、テニスです」

  「へー、いいね。もしここの男子としゃべったら、彼は怒る?」

  「怒らないと思う」

  「そっか。なんかさ、美月ちゃんは男と付き合うのがちょっと嫌かなと思って。パーティーに戻ってだれかと連絡先を交換してもそんなに心配しなくていいからね」

  「なぜ?」

  「えっと、美月ちゃんはこんなにかわいいし、だれでも興味があるね、でも異性だからそれは当然だし。相手から嫌なメッセージをもらったら連絡を控えても大丈夫、美月ちゃんのことが好きでも、普通に付き合えて素晴らしい人が多いよ。それは芸能界のコネや仕事になる場合もあるね。だからさ、そんなに懸念しなくてもいいと思う」

  「う、うん」

  男子って、さっきパーティーで見たイケメンたちかな……

  彼らとやり取りしているとき、彰くんのメッセージを届いたらどうすればいいか。


  私はなに考えてんの!


  「美月ちゃん?」


  「はい!」


  ちはるさんは疑っている様子で聞いた。「なんか変ね、お酒は飲んでいなかったでしょ?」

  「全然!」

  「いいよ。言いたいのはね、男ってさ、男とも女とも付き合うでしょ、だから仕事や社会的にも流動性があるね。女ならば付き合う相手が女かどうか考えて、男ならだめって、仕事ができるより、専業主婦になるってさ、達成できるのは専業主婦たちと一緒にカフェに行くことくらいね」


  ちはるさんは炒めた芋を食べると続けた。


  「男は女子が自分のことを好きなら嬉しいね、でも女って男が自分を好きならどう逃げるべきか。逃げれば逃げるほど彼らは女性を弱いと思うばかりでしょ。女を自分のものにしようと思って……なんなんだ。だれがだれのものって教えないとこんな男って身の程知らない。ね、美月ちゃん」

  はいと私は答えても、あまりそんなことは考えていなかった。

  食事のあと、十時前私たちがロビーに戻ったときに、ちはるさんは知り合いと会い彼らと話した。それを待ちながら、私はホテルに入ってきたパーカーとロングスカートの女の子を見かけた。彼女はロビーでしばらく迷っているようで、するとエレベーターを見つけて進んでいった。彼女のことちょっと見覚えがあるんじゃないかと思った……





――――――――――――――――――

ちはるは美月に芸能界の裏を色々教えます。美月もこれで本物の女優になったと言える?


最後にロビーで会った女の子は?


ちはるが中華料理を楽しんでいるイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330654039928579

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