63 蔦双葉 (イ付)



三月下旬、日本に帰ると美月と会うため私は東京に行った。まだ休みだからちょっと長くいて、そのときネットで知り合った『タツくん』も待ち合わせる予定があったので、土曜日の昼に私は渋谷駅の前に待った。


  東京って、いつも人が多い。


  何百、何千人か、通りすがりの人はなんの用事があるかと想像しながら、自分のチェスターコートと似てるのを着てる人がいないのは安心した。タツくんとやり取りすると、『もう駅前にいる』とメッセージが来た。今まで彼の顔を見たことがないが、大勢の中にそういう少年は全然いないじゃないか……でもこの女の子、なぜかずっと私を見つめているけど。

  「……松島さんですか」

  「はい?」

  見ないうちに、気づいたら彼女は私の前にいた。

  小学生か中学生くらいの女の子は、背が割と高く、かわいく長いツインテールの髪型をしていた。でも私の名前を知ってる?なにかを聞く前に彼女はお辞儀すると言った。「私はタツです」

  「た、タツ?」

  彼女は携帯で私とやり取りしたメッセージ画面を見せた。「つた双葉と申します。松島さんは話したくないかなと思って、男として連絡しました。ごめんなさい!えっと、よろしくお願いします!」

  つた……タツ。そっか。「松島彰です、よろしく……あれは両親?」

  「あ、はい……私の家族と一緒に食べますか、昼ご飯」

  「いいよ、そんな予定だよね」

  「ありがとうございます!」

  後ろに立っていた両親にお辞儀した。まだ迷って彼らにもっとなんか説明したかったが、まずレストランを探すと父親は言うと私たちは歩き出した。

  タツくん……女の子か。

  双葉ちゃんはちょっとオーバーサイズのパーカーを着て、デザインは男子の服じゃないかと思ったが。親は彼女と私のメッセージをチェックした可能性もあるので、自分は変なことを送ったかと悩んでいた。そして私たちは双葉ちゃんがえらんだイタリア風ファミレスのサイゼリヤに入った。


  私はたまに人と付き合う経験があって違和感とまで言えないが、彼らと一緒にいて私はどんな立場かと考えた。タツのネットの友だちならタツもいないし。

  メニューを見ながら父親は私に言った。「松島くんはずっと双葉ちゃんに教えてくれたなんて気づかなかったね、でも東京に来る前彼女はここで友だちと会うと言って、だれかと聞いてわかったんだ……ありがとう。あと娘はこんなに生意気で本当にごめんなさい」

  「いえいえ、大丈夫です!」

  多分四十代の父親は少し太く、優しく見えて、母親もそんな感じだった。双葉ちゃんは一人っ子だと聞いたけど、彼女はやり取りしたときいつも元気そうでどんな家庭かと思った。

  そしてお父さんは私が島根から旅行しにきたとわかると、一人でかと聞いた。「……東京は便利で楽しめるけど。友だちと会う以外に観光とかもする?」

  「あ、しますよ。国立科学博物館に行ったことがなくて、今回は行きたいんです」

  そう答えると、隣の双葉ちゃんが言った。「一緒に行きますか」

  「え?」

  「えっと、松島さんは二十四日までいると聞きましたが」

  どう答えたらいいかと考えながら父親は言った。「もういいよ、双葉。こんなにお兄さんに面倒かけたんだ。彼も用事があるよ」

  「はい……」


  その日双葉ちゃんのボーイッシュなパーカーとジーパン以外たまに彼女がうっかりと一人称の『ボク』を使っているのを聞いた。遠く、福岡に住んでいる彼女は、前のやり取りで都会が好きなので東京に来たかったのは覚えていた。でも今家族の会話で去年から彼女は桜田STと湾岸STというアイドルグループのオーディションを受けたかったことを初めて聞いた。

  そしてお母さんは笑った。「アイドルになりたいより、双葉はただ東京に住みたいかな」

  「だって田舎だもん」双葉は言った。

  「そこまでじゃないでしょ。松島くんのお家は都会?田舎?」

  お母さんは向いて聞くと、私は答えた。「結構田舎ですね、私の又渡こうとは出雲から一時間くらいです」

  「そっか。ほら、お兄さんも大丈夫でしょ」お母さんは言った。

  「じゃあ、松島さんも一緒に東京に引っ越ししよう」

  蔦は微笑むと、お父さんは彼女を叱った。「双葉、なんて迷惑なこと言うの。だめだよ」

  「……ふむふむ」

  少しすると両親が頼んだピザとサラダがテーブルに届いた。双葉と私のオーダーを待ちながら私は聞いた。「さっきのアイドルのオーディションって、どうなりましたか」

  お母さんは答えた。「あ、十二歳からでしょ、双葉が受けたグループって。だから来年かな、夏?」

  「うん」双葉はうなずいた。

  「なんで双葉ちゃんはアイドルになりたいの?」私は聞いた。

  「だってこんな日々より、なにになってもいいですよ。アイドルになったら練習したりいろんな収録があったり、しかもコンサートがあって楽しそうです。だから応募したいですね」

  「え、でも数千人から数万人の応募者があると聞いたけど」

  そして双葉と私のパスタが来ると、彼女は続けた。「私、この前オーディションの動画を発見して見ました。湾岸STと桜田STのグループみたいに美人のクォーターと普通にかわいいクォーターがあって、顔だけで受かるわけではないですけど、私は印象が残ることをしようとしますね」

  「……それは?」

  双葉は少し考えた。「星琴音さんって知ってますか、ただ唇がぱさぱさな心配を審査員の前でしゃべって受かりましたよ。バレエや似たようなパフォーマンスをするより私もそんなことをするつもりで、多分一番安全な方法だと思いますね。その動画で受からなさそうな子が多くて、そう計算すると数千人の応募者のなかに一パーセントくらいの合格する可能性があっても十分にいいと思います」

  「わかった」

  彼女は真剣だった。


  アイドルの話から双葉は私にいろんなことを聞いた。別れる前に私たちは今まで使っていたSNS以外のチャットアプリなどの連絡先を交換した。だが彼女は小学生なので違和感があり、私は父親の電話番号も礼儀として聞いた。私は彼女に手を振ると言った。「学校も、アイドルのことも頑張ってね、双葉ちゃん」

  「はい!またね、松島さん!」


  やれやれ。



  東京にいるとき、私はバイオリニストの宇都宮楓さんにも会った。





―――――――――――――――――

彰のハーレム

1リッケ

2美月

3紗季

4宇都宮

5蔦双葉 (11) 参戦!

一番危険な子かも……


渋谷駅で、蔦が挨拶する瞬間のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330653090249883

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