7 可愛い中川紗季と知り合う
言葉をあまり発したくないのはまたその女の子と見合ってしまったからかもしれないが、しばらく私は黙ると中川さんは言った。「佳恵、彼は日本語が話せる?この前は英語ばかりしゃべったけど」
「話せるよ。じじいのことを怖がるかな」
「いや、俺はなにもしてないよ。いいよ……まあ、君は元気そうだね。この様子なら学校でうまくできるだろう」
「うん、彼の成績はいいと聞いたね」
「やっぱり志緒ちゃんみたいだ!でも志緒ちゃんはもともと元気な性格だったけど、上京すると本当に変わったんだよね。自分の世界にいてちっちゃいアパートの部屋にいすぎたせいかな。彰くんはここであそんでいっぱい笑顔ができる子になった方がいいね」
「彰くん、電話」
「はい」
私に携帯を渡すとおばあちゃんは言った。「志緒はもう子どもじゃないでしょ。大人になって考えることが増えたんだから」
「東京の人は意外と考えることが多かもね、頭が変わるほどかも……え、佳恵、さっきの電話って」
「志緒ちゃんから」
「俺らの話を聞いてた?」
おばあちゃんは笑った。「ううん、聞いてなかったと思う。でもあなたがそんなことを言うのはどうせみんなもう知ってるから」
「やばいな、志織ちゃん怒っちゃうな……あ、紹介し忘れてた!彰くん、これは紗季、俺の孫だ。十二歳で同い年かな」
中川さんとすわっている女の子のことだ。私は少し会釈すると彼女は言った。「よろしくね、私はサキ」
「あ、はい、彰です。よろしく」
「えっと、この本ってさ」
彼女は私の手元を見て、実は私は本を持っていたことを忘れてたが。「これ?」
「うん、英語?」
「はい」
「ちょっと見ていい?」
ページを覚えて本を渡すと、中川さんの誘いで私はテーブルに一緒にすわった。表紙をしばらく見ると紗季は中身を続けて見て、そして私にこの本を読んでいるかと聞いた。「うん、少しずつだけど」
「えー、難しくない?彰くんは中一でしょ。すごいね」
中一って、中学一年生?「そんなことないよ」
「私はただ見るだけで目がまわるよ」
そして中川さんは言った。「でもデンマークって言語があるよね、みんなは英語もしゃべるの?」
「あー、みんなってわけじゃないですけど……コペンハーゲンなら英語だけで大丈夫です、通じます」
「いいね、そこでどうやって英語を教えてるの。俺の年代の人だけでなく、大学生でも外人を見て逃げたんだ……本当だよ、結局その外人は俺の方に来ていっぱいジェスチャーを使ったけど。ねえ、知ってる?紗季ちゃんは学校で英語の成績は一番目だよ」
「おじいちゃん!」
と紗季は声を出した。そして私はうなずいた。「本当にすごいですね」
「うん、もし彰くんが空いてたら彼女に英語を教えてもらえるかい。紗季ちゃんはよく質問があるし、文法が複雑になると俺はもうわからないからね」
そのとき客が来て、オーダーを取るとおばあちゃんは厨房に入った。この客は高校生らしく、彼らから自分のテーブルに向くと紗季は私を見ていた。少し見合わせると彼女は言った。「おじいちゃん、彼の負担になるよ」
「いいだろう?多分彼は紗季ちゃんの先生よりペラペラだよ」
「……うーん」
英語の話から、夕食を食べていた中川さんはまた私のことを聞くと、ここのいろいろなことを教えてくれた。話し出した紗季は、しばらく学校の話をしてから文化祭のことも言って、その日は数十の部の演技があるそうで、お姉さんの舞台のことになると彼女は熱心に語った。『スカーレット・ウィステリア』という名前で、近世ヨーロッパ、貴族はまだエレガントなドレスを着てみんな社交の場で暇つぶしをした時代の設定で、美しいヒロイン、高貴なレディの肩書のあるカリオネさん、その名前はどこから取ったかわからないけど、彼女は密に運動して『フリスシニア』という王国を悪い暴君から救おうとしながら、いろんな貴族や王子の美男との関係に巻き込まれる激しい恋愛話だった。この舞台は、英語部の紗季のお姉さんが、十月の文化祭に向けて英語で四十ページの台本を書いていて、ミスがあるか心配していると紗季は言うと、私はその台本を見てもいいと答えた。「メールで送って。でも私はそんなに上手じゃないと思うけど」
「本当?!」
とても嬉しそうな彼女の顔を見て私は少し驚いた。「うん?はい」
「ありがとうね、彰くん!」
次の日私はそのメールをもらって、読んでみてどう修正すればいいかと考えながら昼に店には行かないとおばあちゃんに電話した。実際に英語を直すのは初めてで、長くかからないと思ったが、家での夕食のあとも私はパソコンに戻って働いて、ちょっと遅くにシャワーを浴びてからまた続けた。その夜、紗季にメッセージで『スカーレット・ウィステリア』の台本の印象を聞かれて、大体スムーズにしたと私は答えた。『え、修正?うそ』
『本当だよ。最初終生のさつめいを付けたいけど字間がかかるから漬けなかった。ごめんね』
送ったメッセージを見ると、自分はなんて変な言葉を打ったか。
『これはもうすごく嬉しいよ。私明日部活があるから、早く寝なきゃ。彰くんは無理しないでね。本当にありがとう!』
彼女はまたわかってくれたんだ。
翌日修正した台本を送ると、まだ学校にいるそうだが紗季はそのファイルを見てまたいっぱいお礼を言った。それをお姉さんに転送して、彼女も喜ぶと思うと聞いた。その夜、台本の英語の話で私たちは長く電話しながら、私の部屋を通ったおばあちゃんは多分デンマーク語より日本語の会話を耳にして紗季との電話だと察したからか、『ラッキーランスロット』の店にいるとき、夕方になると紗季と会わないのかと妙に言われた。魂胆を匂わせる彼女の口調や笑顔に、このあと紗季に話して次回は『ラッキーランスロット』よりほかのところで会う方がいいか聞いた。「……わからないけど」
「え、今泉さんの店なら私は簡単に行けるね。もっと彰くんの近いところでいいよ?」
紗季はそう答えた。今泉さんはおばあちゃんのことだ。「距離は問題じゃないよ。ただ違う場所の方がいいならって」
「もしかして日本食を食べすぎたかな。でもこの辺と言ったら、あー、大田の方向、途中にファミレスがあっておいしいオムライスがあるよ。ヨーロッパでいっぱいオムライスを食べるでしょ」
「え?」
結局土曜日に私たちは一緒に自転車を漕いでその店に行った。前にオムライスの名前を初めて聞いてグラタンみたいに、複雑にオムレツをかけたご飯をオーブンで焼く料理かと思ったが、ネットの動画を見るとあれはきれいなオムレツに包まれるチャーハンだとわかった。その店は『きせきんぐ』という名前で、又渡から四キロくらい離れていて遠いので、紗季の学校の新学期がはじまると私たちはまたおばあちゃんの店で会うことにした。客席の代わりに、私たちは裏の物置部屋のテーブルにすわるようにして、いろいろしゃべるから客に迷惑をかけたくないと紗季に説明したが、実はただおばあちゃんに観察されたくないだけだった。
もうすぐ九月だが、まだ暑かった。扇風機があったけど紗季のおでこには少し汗がにじんでいた。私は英語の宿題を教えながら彼女はハンカチで顔を拭いてから、もっとジュースがほしいかと私は聞いた。「いいよ。今でもう何杯目かな」
紗季は私に答えた。実は私もそう感じて遠慮してたけど。「冷たい水は?取りに行くね」
店に入ってそれを取って戻ると、紗季は携帯で友だちとメッセージのやり取りをしているようだった。すわりに来て彼女を見ると、岩橋中学校の規則かみんな彼女みたいに髪の毛を後ろに束ねていると思った。紗季は私が取ってきた冷水を飲むと涼しいと言った。「明日もし私が教科書を忘れなかったら一緒に日本史を勉強してみようね……だってこんなに教えてくれて感謝すぎるよ。そう言えば彰くんは日本史に馴染みがある?」
私はちょっと考えると頭を振った。
「江戸は?聞いたことある?江戸時代って」
「あ、それは聞いたことある」
「いいね!それは三、四百年前の時代だ。海外の人にね、日本のイメージと聞いたらこの時代かな。ほかの時代の名前は聞いたことある?」
「……ないかな」
紗季はまた水を飲むと続けた。「日本の時代は結構長いね、ただ天皇が変わると新しい時代になるから……いえいえ、それは年号だ。えっと、ちょっと詳しくて面倒くさいけどさ、試験のときこんな問題出るはずだから、ちゃんと覚えたら得点できるよ……ほかの地域、沖縄とかも時代があるけど、メインは本州で、江戸の直後は明治でしょ、そして大正、大正が終わったらもう三十年代近くだよ。江戸時代の前なら室町時代ね、本当の侍の戦いと言ったらそのときで、戦国時代って聞いたことある?千五百年くらい、これも室町時代にあった。その先には鎌倉時代、もっともっと先は平安時代だ。平安時代も特徴が豊富にあるね、見たことあるかな、宮殿の女たちってさ眉毛を剃ってその上に化粧で眉毛を代わりに書いて、実は江戸までの風習だけど」
紗季は携帯で検索してイメージを私に見せた。眉毛なしのメイクとその髪型と一緒でちょっと日本の怪談の印象だった。
「平安時代は千年頃で、七百年くらいは奈良時代……奈良県って知ってる?この時代は首都が奈良にあったんだ。その前は飛鳥、古墳、それで弥生時代。弥生時代は前四世紀からね。本当に昔なら縄文時代で、一万年前くらいだよ」
途中からもうついていけなかった私は、ただぺこぺこした。「これ、私も覚えるべき?」
「でしょ、みんなも覚えるよ。あ、漢字はちょっと難しいかもね、でも時代と時代は結構イメージが違うから、そこから覚えてもいいよ……じゅもん時代?」
「え、さっき言ったのは?一万年なんて」
「縄文ね、なんで」
「じょうもんか。そんなに古いってさ、どの国でもまだ原始人みたいでしょ。鉄とかの道具と陶器も作れるけど、日本の時代って言えるの……」
「彰くんよく知ってるね!縄文土器……これこれ、結構特徴があるから文明だと考えられるかな。あとは、あの時代の人は自然を尊敬したそうね」
「自然?」
「縄文か弥生か覚えないけど、人は木々や岩とかに神様がいると信じて尊敬したでしょ。あとは川とか空もかな、神様もいるみたい」
「そんなに?」
「うん、すべてに神様がいるって。実は今の神社もそんな感じだよね」
私はしばらく考えた。「なんだろう。勉強したとき、宗教がはじまる前……自然?を尊敬したそうだ」
「え、外国もそう?」
「うん、それは世界共通かもね……」
私は毎日紗季とメッセージをやり取りすると、そのあとわかったのは彼女はテニス部に所属する以外委員会も務めて、実は忙しいと思うが、なぜ放課後に彼女は早くおばあちゃんの店に来られるのかわからなかった。携帯の使い方を見ると彼女は友だちが多いらしいが、彼女とこんなに二人きりでいて勉強できるのは偶然過ぎる……変だ、でも彼女の元気な笑顔を見ると、私の気持ちもちょっと変わったんじゃないかな。
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