67 夕焼けの前に、紗季と (イ付)



そして携帯で私はそのイベントの動画を探して、再生して見せると紗季は言った。「ちはる、真壁さんもいたんだ!トークイベントね。そのあとどうなった?」

  「なんか一緒に出かけた?そんな感じ」

  「え、すごい!ちはるは美月のことが大女優だと認めたんじゃない?」



  その日、IMERIというコスメのブランドは有楽町のホールでイベントを開催して、美月の学校でもちはるは人気なので、美月と友達の双子やほかの友だちはネットで予約して一緒に参加した。美月は普通に席にすわったが、参加者のプレミアム抽選をするときに美月はスタッフに誘われて、ステージに上がると、ちはると四十代の大女優の真壁かすみさんと三人で並んだ。流れがスムーズ過ぎるがスタッフたちは敢えてそんなことしないと思い、誘われたのはちはるの頼みじゃないかと美月は疑った。

  ステージでしばらく話すと美月は降りたが、終わると彼女は控え室に招待されて、そこでまた会ったちはるはこう言ったそうだった。「私のファンならなんで言わなかったの。もっと簡単に会えるし」

  「え、そんなこと……」

  「私の電話番号を持っていないの?」

  「いいえ」美月は答えた。

  「あー!前にあげて忘れたね!あのときからずっと私と連絡できないのはごめんね。私はあなたのドラマを見たよ。本当にかわいいし……足もきれい」

  「そ、そうですか?」

  「うん。多分事務所はもっと露出するグラビアを撮る方針がないね、私はまだ見たいけどさ……」

  この理由で、ちはるの格好いいルックスと共に、美月はちょっと彼女のことを怖いとも思った。


  宣伝のため無断で浅井美月がイベントの関係者かのように映像を使ったことがわかると、ラグーン事務所はすぐにクレームを入れたが、IMERI側は映したのは女優の浅井美月ではなく、個人として、それにイベント参加者の映像が使われるのは承諾の上なのでIMERIのアップした動画は問題なしと主張して、長いこと交渉すると美月が映っていないサムネイルに変えることとなった。この事件は白石社長までもがかかわって、聞いても彼はただ美月に微笑むだけでそのあと彼女は電話でマネージャーの工藤さんにいっぱい叱られたそうだ。

  ちはるは美月と会ったことがあって、イベントの後、彼女は美月と友だちの全員を一緒に夕食に誘い、次の日美月はちはると二人だけで赤坂のマンションに行ったそうだ。

  「なんで誘ったの?急じゃない?」

  前に電話で私は聞くと、美月は説明した。「もう食べ終わって、彼女の家はそこからそんなに遠くなかったのね。もっとゆっくりしようと言われたの」

  

  青山一丁目駅に近い高級マンションは、入り口からエレベーターまで入るといつも二、三人の警備員が立っているそうだ。上がると三十八階か三十九階にあるちはるの部屋は、美月のマンションの三倍くらいの大きさで、すべての飾りや家具が、高級ホテルのような完璧にデザインされていた。美月が本当にびっくりしたのは大きなウォークインクローゼットだった。「なんでもあるの?」私はまた聞いた。

  「えーと、服もそうだし、靴の色がいっぱい揃っているよ」

  「有名だからでしょ」

  「いえ、彰くんわかる?有名人てそれだけじゃないよ……芸能ニュースでみんなは稼いで高いものを買うイメージだけど、ちはるさんはこんなにニュースにならないいろんなイベントに行って、表さないねそんなところは、意外と豊かな世界じゃないかな」

  『小さな宴』制作発表会の服装で困っていた美月は、事務所とスポンサーの提案により結局ちはるのドレスを借りることにしたと言った……



  私は紗季に言った。「でもさ、美月はちょっと体調がよくないって、まだ心配してるね」

  「そう?」

  「うん、目眩とか、たまに学校を休むべきときもあった」

  「またなんだ……彰くんは東京に行かない?」

  「私?なんで」

  紗季は少しアジュールレモンを飲むと言った。「東京の大学に入って、そこにいたらなにかあったら助けられるんじゃない?」

  「考えたけど、そんなにお金がないよ。家賃とか、食べ物とか、一ヶ月十万円以上でしょ」

  「君はこのまま島根から通うつもり?四年間?」

  「……わからない」

  「バカでしょ!美月ちゃんはそこにいるのはしょうがないけど、でも自分はえらべるのになんでなにもしないの」

  「ただ彼女が理由で上京するなんてちょっと……あと私の家族のことも」

  「心配?」

  「心配までじゃないけど。やっと、一緒にいれたのに」

  「……それはわかるね。でもさ、逆にここにいて悩んでないの?」

  「そうかもね」


  少し見合わせると、紗季は続けた。


  「ちゃんと考えてね、私は君に好きにしてほしいけど」

  私はうなずいた。「紗季は?島根にいる?」

  「私?うーん、その方がいいね。家族といて安心だし、工場もいろいろ助けられる。でもそうしたらそんなに彰くんと会えないね」

  「もし私は東京行ったら」

  「いいよ。一年間、もし君は島根に帰らないと、私は東京に会いに行くよ……えっとね、彰くん、『縁』のことって信じる?」

  「縁?なんで」

  彼女は少し考えた。「そんな縁じゃなくて、でも自然の縁ってさ……五年前彰くんがここに引っ越して来たのは想像もしてなかったし、あとは知り合って私の日々がこんなに変わって。全然わからないよね、なんでかな。彰くんとのいろんないい思い出があって、本当にありがとう」

  「……私の方が言うべきだよ、それ」

  彼女は笑った。「まあ、君は自分にいい思い出を作っていってね」

  「え、それって?」

  「私もわかんなーい。もう帰る?……あまり飲まなかったね、私にちょうだい?」






――――――――――――――――――

次話は、美月の視点で有名女優ちはるとのストーリーになります!

『デビュタント』についてそろそろ意味が明らかになります。


帰宅途中の彰と紗季のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330653440604253

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