55 暖かいベッドで(微えろ注意)(イ付)



「うそ、ならそのバイオリニストのお姉さんはどこから?」

  「偶然だよ」

  「きれいだからナンパしたんでしょ、やっぱり。ちょっと私はなにも言わないだけでやりたい放題じゃない?……いいよ。ねえ、会いたいの」

  「私も。そろそろ島根に帰ると言ったっけ」

  私はベッドで左側に向きを変えると答えた。「それはまだ二週後だよ。話したいことがいっぱいあるんだ」

  「週末、私は東京に行ってもいい?」

  「だめだめ、せっかく彰くんがバイトをして貯めたお金を無駄にしたくないよ」

  「バイトのお金はそのためだよ」

  「わかるよ、悪いね。最近テレビ番組やレンタカーのCMのギャラもあるし……うん、『オールレンタカー』の社長がドラマの誘拐シーンを気に入ったのがきっかけかもね。えっと、ドラマのギャラも、いろいろ引いても百万円以上あるよ。それで払ったらよくない?」

  「三、四万円を何に使ったのか、絶対美月のお母さんは聞くでしょ。私にあげたとわかったらどう見られるか」

  「彼氏」

  「ひも」

  「バカ!そう見ないよ」

  「私は男だよ、女の子のお金を使うのはだめでしょ。貯金はなくなったらまた考えるね」

  「バーカ」

  「美月」

  「うん?」

  「……酔った?」


  私は少し目が覚めた。「どうしてわかるの?」


  「急にめっちゃしゃべったよ、君は……どこで飲んだの」

  「さっきのクランクアップパーティで」

  「悪いな」

  「横になっても、心臓がすごいバクバクしてるね。彰くんはお酒を飲んだことある?」

  「うん」

  「いつ?あのお姉さんと?」

  「いえいえ、美月のお兄さんとだった。もう忘れたの」

  それは前にお兄ちゃんたちに付き合って騙されてチューハイを飲ませた話らしい。「そうね。こんなにバクバクする?」

  「そんな感じかな、覚えてないけど。でもその日家に帰るとすぐに寝ちゃったよ」

  「え、私は結構起きてるのに。なんか変な感じね、肌が赤くなったけど」

  「水とかちょっと飲んで」

  「飲んだよ」

  「いいよ、少し待つとよくなるから」

  「わかった……ね、彰くん。私、本当に女優かな」

  「え?」

  「女優って演技力でしょ、でもネットにはただ『美月ちゃんを誘拐したいな』のコメントしか見なくて、私はそんなもんかな。せっかく頑張ったのに、人は私の……足?しか見ないの」

  「なんの話?」

  「ドラマってさ、車にすわってスカートが上がったシーンが多いの。彰くんも好き?うん、君もだ」

  「……かわいいと思うよ」

  「かわいいじゃないでしょ。手を入れたいとか、聞いたよ、男ってそんな感じじゃないの」

  「いえいえ、本当にかわいいんだ」

  「そう?私はちょっと違和感があるね」

  そう言って、横になりながら私はなぜかスカートを上げて、もやもやして自分の足を見つめた。そして私は彰くんに足を見たいかと聞いた。「なに?」

  「私の足、どう?」

  「君、酔ってるよ」

  「彰くんは好きかなと思うけど」

  「いえいえいえ」

  「でもみんなもう見たよ、そろそろもっと見られるかな……ファンの要求が多いと、水着や下着姿も撮影しなきゃならないでしょ」

  「君の事務所はブラック企業じゃないよ」

  なぜか私は笑い出した。「……彰くんに会いたい」

  「わかるよ。じゃあ、ビデオコールは?」

  「だめ。顔がめっちゃ赤いよ」

  「なら休憩して」


  そう言われてまだ少ししゃべったが、いつの間にか私は寝てしまった。起きたのは一時間後で、彰くんのおやすみのメッセージを見ると私はお風呂に入った。しばらくお湯に浸かるとまた彰くんに電話してみて、彼が出ると私はもう大丈夫と言った。「彰くんはもう寝てる?」

  「まだちょっと起きてる。明日何時に帰る?」

  「十時ね、朝食を食べたらロケバスに乗って帰るの。水曜日なのに彰くんは遅いね……そういえばさ、私と話しててつまらなくないの」

  「なんで」

  「いつも彰くんと話したいってさ、ごめんね」

  「私も美月と話したいから。ずっと頑張ったよね、今日本当はお祝いできたらいいのに」

  「彰くんは優しすぎるよ……」


  そして私は長く黙ると彰くんは呼んだ。「美月?」


  「……うん!」


  「あ、まだ起きてるか。もうお風呂で寝たかと思った」

  「ううん、考えごとしただけ。彰くんと会いたいの」

  「もう三回も聞いたよ」

  「本当だよ。島根に帰ったら、毎日空いてるはずだから。また彰くんの家に泊まれるかな」

  「もう子どもじゃないよ」

  「知ってるよ、言っただけ……」


  「美月?」


  また私は黙った。「うん!いるよ」

  「本当に大丈夫?携帯を落としちゃうよ」

  

  彼に言わなかったがそのとき私はもうお風呂を上がってベッドに戻った。身体にタオルを巻いた姿で、ふわふわな毛布を抱きながら私は言った。「私をハグして?」

  「どうやって」

  「想像して」

  「いいよ、ハグしてるから」

  「ありがとう。今日、本当に彰くんにいてほしいね。このままハグして、私が寝るまでこうしてほしい」

  「……本当?」

  「うん」

  「えっと、前に美月はそう言って、どうなったか覚えてる?」

  うん?「なに?」

  「二時、三時まで寝れなかったって」

  その夜のことはしばらく忘れていたが、急に私は思い出した。「そ、それは君が悪かったから!」

  「でも控えてほしいようには見えなかったね」

  「君でしょ!私はだめ、だめって言ったのに!」

  「そう?ねえ、なんでいつも私の責任になるの?」

  「だって男だから」

  「は?」

  「そうでしょ」

  「わかった。どうせなんでも私のせいだから、今度遠慮しないよ」


  「……どのくらい?」


  「え?」


  「遠慮なくって、なにするの?」


  私、なに言ってるの……


  「いや、冗談だよ」

  「そう?いつも冗談だった?」

  「……美月、まだ酔ってる?」


  「そんなにではないけど、うっ、うん……彰くん、今私はベッドに寝てるよ。私の後ろからハグしてくれる?」

  「……はい」

  「いいこと、言ってくれる?」

  「なに?」

  「わからない、私はかわいいとか」

  「美月はかわいいよ」


  彰くん、もっと。「それで?……なぜかわいいと思うの?」


  「えっと、美月といつも一緒にいてどきどきする」


  「あぅ、うぅ、そう?」


  「うん、今も君とキスしたいよ……でも私は今君の後ろにいるね、向かい合ってもいい?」

  「うん」

  「君は私の下に?」

  「そう」


  私の声のせいか、彰くんはわかるみたいだけど……


  「本当に美月とキスしたい。美月のドラマを見るととてもかわいくて、もう有名になって、私にキスしてくれないならどうしたらいいかなと考えてた」

  「え、そんなことないよ」

  「本当?」

  「うん、ねえ、ちょっと待てる?私はパジャマに着替えるけどさ」

  「今パジャマじゃないの?」

  「うん、まだタオル姿」

  「え?」

  「えってなに?」

  「タオルなら、ちょっとこのままハグしたい」

  「そう?」

  「だめ?」

  「うん、寒くなって風邪を引いたらどうするの?」

  「少しだけ」


  「……彰くん、まだ私をハグしてる?」


  「うん」


  「どんな感じ?」


  「温かい」


  彰くん……演技してくれたの。「私も。会ったらこんなにハグしてくれる?」

  「いつもハグしたでしょ」

  「そうね」


  ちょっと待って、彰くん。もうちょっと……


  「あっ、私も温かいよ。あ、彰くん」


  「うん、ここにいるよ」


  「うっ、うー、あっ、彰くん、本当にいる?」


  「いるよ。君と一緒に」


  「ハグ?」


  「ギュッとハグしてるよ」


  「あっ、うー……彰くんが、いっ……いいね」



  彰くん……




  心臓がまだバクバクしている。






  彰くんはなにも気づかないように私としゃべり続けて、そのあと電話を切るとまた私は風呂に入った。


  私は寂しいのか、気持ちがちょっと変……




――――――――――――――――――

次の話は美月のドラマ『白いままに走る』の波紋です。


ホテルのベッドで電話をしている美月のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330652412640428

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