92 彰は藤間に魅了された (イラスト付)
「いたっいたたたたっ!」
「大丈夫ですか!」
そして藤間さんは手で頭を押さえながらソファにすわった。
蔦が帰ってくるとわかり、前に蔦が家でかくれんぼうができそうと言ったのでこのソファの下で待ち伏せたがそうしながら寝てしまったそうだ。
「恥ずかしい……今日双葉ちゃんと一緒だったんですね、ありがとうございました」
藤間さんは言うと笑った。
そして彼女は私たちがスーパーで買った食材を使って料理をしはじめると、私も一緒に夕食を食べるか誘った。
ご飯はもう先に炊いていて、どう手伝えばいいかわからず私はただキッチンでおかずを作っている藤間さんを見ていた。何度も蔦のへそくりのことを持ち出したかったが、そうしたら蔦からの私への信用がなくなるかと繰り返して考えた。いろいろ自由に伝える人がいるのは彼女に対して一番重要そうだ。
それでどうせ二週間後蔦の両親が来たら、お金のことを藤間さんに聞くはずなので、預けなければならない、蔦は頭がいい子だし説得したら納得すると思う。
蔦のことで私は藤間さんと会ったことがある。彼女は売れている芸能人でかわいくて、あまり私と付き合いたくないかと心配したが、多分前に美月の先輩女優の米沢広子さんと同じく彼女は普通な女の子らしい。
友だちのなかには彼女に会いたい人がいるそんな有名人と今、一緒にキッチンに立っていると考えると不思議だ。「……いつも料理をしてますか?」
しばらく静かなので私は言ってみた。フライパンから藤間さんは私に向いて答えた。「空いてたらですね」
「芸能人はおしゃれな店ばかりで食べているかと思いますが」
「いやいや、そんなことないですよ!家ではもっとゆっくりできますしね……味見しますか?」
藤間さんはそう言うと、小さな皿にカボチャと鶏肉を炒めたのを入れて渡した。私は食べると言った。「おいしいです」
彼女は微笑んだ。「そうですか。私はよく味が薄くて、双葉ちゃんに文句を言われるんですよ」
そのことは前に蔦が私に言ったことがある。一人でいたら藤間さんほとんど味付けをしないそうで、それは藤間さんが塩分と添加物を心配しているのが理由らしい。
六時過ぎ私たちは食卓にすわると、手を合わせ『いただきます』と言って食べはじめた。私はサバのトマト煮込みを食べてみると、味が薄くて、噂の禅寺のご飯の味を思い出した。実は去年の四月くらい、美月が行った芸能人のロイさんの誕生日パーティーで藤間が大食いで大盛りのフィンガーフードを四、五皿平気で食べて、しかもオレンジジュースやリンゴジュースなどを何杯も飲んだと美月から聞いて、目の前の健康にこだわる藤間は同じ人かと思った。
違和感がまだ少しあるが、しばらくすると私と彼女は十八歳、十九歳の同年代同士と感じた。蔦のことから会話で野菜のことに詳しい藤間さんが野菜が好きだとわかって、しばらく私たちは黙ると私は部屋の周りを見ると言った。
「ここは、美しいですね」
なにかを考えた藤間さんは、驚いたように言った。「はい?」
「……え?」
私たちは目が合うと、藤間さんは答えた。「私、事務所に行ったけど、そんなにメイクをしていないかな……あ!家の話ですか?すみません!」
なんの話かわからないけど、少しあと彼女は『ここ』を聞かなくて、『美しいですね』だけ聞いて誤解したんじゃないかと思った。蔦が私たちをじっと見たが。
料理をしたときと変わらなくてまだ藤間さんは長い髪の毛を後ろに束ねていた。ちょっと長く一緒にいると彼女は最初より話しかけてきて、テレビ番組が映したかわいいイメージのより彼女はお茶目そうで、声量とともに親友といたらちょっとうるさい人だと思った。
しかも会話の調子に乗って楽しそうに話した彼女は、うっかりかもしれないがあるとき笑いながら言った。「そう言えば松島さんは双葉ちゃんの本当のお兄さんみたいですね」
「なんでですか」
「えっと、双葉ちゃんもかわいいし、松島さんもかっこ……」
うん?
沈黙した食卓で私たちはまた見合って、藤間さんの顔に笑みがなくなると私は聞いた。「……年齢も兄妹らしいですか」
「そうそうそう!本当に最初松島さんと双葉ちゃんを一緒に見とときそう思いました」
その藤間さんが言わなかった言葉を蔦は気づかないと思うが、蔦の方を見ると疑いの視線が向けられていた。藤間さんの前の彼女は私ほど騒いでいないが。
この夕食で親しくなった雰囲気から藤間さんは私のことを少し気に入るかと想像したが、ただ彼女の性格かもしれない。盛り上がった会話で、野菜が好きなので藤間さんは自分がウサギに似ていないかと聞くと、鋭そうな歯並びで蔦は彼女が狼にもっと似ていると答えた。「――そう?小学校に友だちは私をウサギと呼んだのにね。松島さんはどう思いますか?」
「え?」
「ウサギか狼ですか?ガルルルルルル!」
藤間さんは歯を見せて獰猛に唸るくと、私は言った「……こうしたら狼ですね」
「そう?蔦ちゃんはもう一回見て、ガルルルルルル!」
「狼です」蔦は答えた。
「へー、私をいじめるの双葉ちゃん!じゃ、狼ね!松島さんがもし今度来たときに双葉ちゃんがいなかったら、私は食い荒らすかもね」
「はい?」私は言った。
なんかドキドキしたくないけど……
そのあと蔦が桜田ST話を持ち出した。言い忘れたが、桜田STグループのキャプテンが次の週末、彼女や三期生たちと一緒にほかのアイドルグループのライブを見に行く予定で、見学の目的だそうだと藤間さんに説明した。
藤間さんはうなずいた。「へー、こんなアクティビティもあるのね……これは事務所の方針?個人的?」
私は答えた。「個人らしいです。ライブは夜だが、ほかの大人もいるから大丈夫ですね」
「そうですね。これはどのグループの、双葉ちゃん?」
藤間さんが聞くと、蔦は頭を傾けた。「わかりません。稲村さんは友だちのグループだと言ってましたが」
「あー、アイドルってほかのグループの知り合いがいるって聞いたことあるね。人気のグループかな」
稲村瞳さんは六年前桜田STに入団したキャプテンの一期生だ。
食事のあと蔦の両親の話で、連絡を取れた方がいいと話したから藤間さんと私は電話番号などを交換して、美月が知ったら怒るかと心配したが。そしてもうちょっと藤間さんに話があると蔦に言って、藤間さんと二人だけで出かけた。
この近くに桜坂という道があって、また昼に来たら藤間さんは散歩してみてとおすすめしていた。シェアハウスから離れてだれもいない住宅街でやっと私は財布から紙幣を取り出した。「えっと、これ貰ってください」
「え?」
一万円札を二枚、さっき下ろしてまだちゃんと封筒などには入れていなかった。どうやって彼女にあげるか長く考えたが。「食事とか、蔦のほかの費用でもし足りなかったらこれを使ってもらえれば」
私の話はこれだけだがちゃんと冬服を着ていた藤間さんは駅まで歩くつもりかもしれない。
薄暗いこの道ですれ違った大人のカップルをチラッと見ると、藤間さんは手を振った。「いえ、そんなこと……」
「いいですよ、少ないけど」
「でも」
両手でお金を持っていた私は、彼女が見上げると続けた。「蔦のこと、本当にすみません。彼女の両親とたくさん約束したのに結局藤間さんの負担になって……」
「全然私はそう思っていませんよ。家に人がいた方がいいと言いましたよね。あとはお金……松島さんはまだ大学生ですよね」
「はい」
藤間さんは少し考えると言った。「大丈夫です。双葉ちゃんはかわいいし、大人っぽくて、今のところ全然負担じゃないですよ……人ってそういうものではないですか、他人を頼るって。私もそうだし、みんなそれぞれ違うから頼むことがあります。みんな相手に負担をかけたくないってわかりますが、もしそうしたらほかの人と接点が無くなるんじゃないかな」
「あ、はい」
「人に頼むことは悪ではないです」
藤間さんは微笑んだ。
「頼んだ相手に、彼らの優しさに私は感謝します。人はこういう風に繋がると思いますが。だから松島さんと出会うのも――いえいえ!私が助ける側という意味じゃないですよ。ただ偶然ですよ」
「本当ですね……でもこのお金、まず貰ってもらえますか?念のために」
「本当に大丈夫ですよ!」
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後書き
藤間穂花はヘルシーなアピールをしているが、実は大食いが大好きな秘密が美月と彰にバレた…?!
彰と藤間、お似合いな二人の関係はどの方向に進むのか……
蔦は桜田STの先輩達と地下アイドルのライブを見に行く展開が少し後にあります。
イラストは夕食で、会話中の藤間です
https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330656203753231
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