93 美月が大ブレイク…⁉ (イラスト付)


  「本当ですね……でもこのお金、まず貰ってもらえますか?念のために」

  「本当に大丈夫ですよ!」



お金が足りるかな。


  高校時代に紗季の家族の工場で働いた経験から大学に入ると私はあまりバイトしたくなかった。仕事が終わるとよくだらだらして本を読む気にもなれなくて、今からバイトしたら少なくとも一ヶ月五万円くらいもらって生活の助けになりそうだが、なぜか私はまだ中学、高校の頃みたいに、本を読んで夜を過しているのかわからない。

  さっき淹れたコーヒーを少し飲むと、私は次のページを捲った。たまたま古本屋で買ったこの本は、知識をもらっても大体の本みたいに実用性はないと思って、ゲームのように読書したら暇をつぶせると思った……そろそろもっと株の本で勉強すべきか。

  藤間さんはコーヒーを飲むのかな?

  シェアハウスでおしゃれなコーヒーメーカーを見たけど、そう思うと恥ずかしくなった。

  彼女は多分気にしないが美月もそうだろうか、人が付き合うのはステータスは関係なくて性格だけだと信じるのにもっと気力を使うようになっていた。私に微笑んでくれても、間もなくそれぞれに釣り合う世界に戻るんじゃないか。


  藤間さんと蔦の食事した日、深夜に美月から連絡が来た。撮影のスタッフの人たちと外食した彼女はもう家に着いたそうで、ちょっとあとで電話するか私は聞いた。「美月、また飲んだ?」

  「飲んでないよ!ただちょっと眠いだけ……飲むってバレたら大変でしょ」

  美月はそう主張したが、いつもの話し方とちょっと違ったから私はまだ疑っていた。

  二十歳未満の未成年飲酒に日本は多くの国よりも厳しく、それは法律的というより社会的で、とくに芸能人は公に明かされたら仕事がなくなるほどだし、前にあった男子アイドルのニュースでは未成年の女子高生と飲んだのが大きなスキャンダルとなった。最近美月は自ら飲んでいるみたいだが。

  藤間さんと蔦のことから、明日一緒に直弥お兄さんに会いに行けるか話が変わり、私は聞くと美月は答えた。「同じ予定だよ、お兄ちゃんは本当に会いたいと言ってたんだ」

  「お母さんも一緒に行く?」

  「ううん。私たちだけね」

  「そっか。でももし私と撮られたらどうする?問題にならない?」

  「平気だよ、私はそんなに有名じゃないから。写真撮られたら、『はい、これは彼氏です』と言うつもり」

  「売れなくなるよ」

  「え、言ったでしょ、バレたらお祝いするコメントばかりもらうらしいよ、そんな芸能人のカップルもいるの。しかも週刊誌の遠くからのショットじゃなくて、私は君とのツーショットをインスタにアップしてあげるよ。そうしたら多分女性のファンもわいわいしてるよね」

  なんの話?「……ね、君は酔っぱらった?」

  「ううん」

  「明日撮影もあるよね。早くお風呂に入って寝て」

  「わかった……ね、彰くん」

  「はい」

  「好きだよ」


  え、


  

  女優の美月と私が見られるのを心配して一緒に外食することはあったが、できればそとで私たちは別々に歩くことにした。本当に週刊誌につけられたらこの工夫だけでは記者を騙せないはずだが、どうせ私は一般人だと考えるともし地味にしたら対象にならないじゃないかと思った。

  去年から美月にずっと仕事があったのは実力より大きな事務所に所属したおかげだと自分でも言っていたが、本当は美月が有名になったのだ。

  春の深夜ドラマ『小さな宴』から夏にはテレビ局ではなく、配信サイトのオリジナルドラマ『静かなプロローグに近い』にも出演した。事務所が運営する彼女のSNSにフォロワーが急増して、そのあとインスタみたいに一万件以上の『いいね』をもらった投稿まであった。

  最近美月と一緒にいて彼女の仕事の話になった。来年まで美月は仕事の予定があって、芸能界の道は安定してきたと見えるが、そこまでではないと美月は言った。「聖ちゃん……いえいえ、半田聖節せつってさ、道端の人に彼女の写真を見せたら名前までわかる人がほとんどでしょ、私はそこまで目指してるよ。今年はCM四件くらいかなー」

  「君もそろそろでしょ」

  「自信がないよ。大変だね、友だちとよく話したけど――投資して、なんかの店をしたいけど」

  私は笑った。「なんの店をしたいの?」

  「わからない、提案ある?」

  「ないけど」

  私のそばで寝ている彼女の唇から首にキスをして、素肌の背中を抱いて言った。

  「芸能界で頑張って。君の演技は上手くなってるし、すごい女優になれるよ」

  「いや、下手だよ。ねえ、彰くん」

  「うん?」

  私たちは少し見合うと、美月が言った。「一緒にいてくれてありがとうね。いろんなことがあっても、彰くんがいると落ち着けるみたい」

  「……そう?でも私は逆かな」

  「なんで?」

  私は答えた。「君といるとドキドキして、あまり落ち着かないよ」

  「バカなこと言わないで!」

  そして私たちは笑った。


  日本には芸能人が一万人以上いると言う。

  いつも新人が誕生するので、テレビをよく見る人でも本屋で見かけた雑誌の表紙に載る人たちがだれか気づかないのはよくあることだ。

  もし日常的に新しいイケメンと美人芸能人の情報チェックする人でなければ、一般の人なら名前まで覚える芸能人はおそらく二、三百人以下だ。多くの俳優、お笑い芸人、グラドルの存在は入れ替わりが激しくてこの二、三百人の数は変わりにくく、その中の一握りが国民の記憶に残り、『大ブレイク』したと言える。そうすると芸能界のキャリアが簡単に数十年先まで安泰だとする例えもあった。

  その『大ブレイク』のきっかけはそれぞれにあるが、俳優なら大ヒット作品に出演するのは王道で、美月なら冬ドラマ『ハイフン‐E』の役は大ブレイクのきっかけだと言える。

  『ハイフン‐E』はSFドラマで、本格的なSFをプライムタイムに放送するのは日本初かもしれない。天羽邦彦監督のプロジェクトで、彼は『ヤマモト』と『永久の羽』のような有名な戦争映画を撮った経歴があって、業界トップクラスの監督だ。長いこと天羽監督は同名の原作漫画から実写する発想があったがストーリーの長さから映画だと時間が足りないため保留にしていた。やっと三年前くらいにテレビ局と話し合って合意すると、去年十三話のドラマとして制作を開始した。十五年ぶりに彼はドラマの世界に戻ったと聞いた。

  SFの中でこのドラマは『サイバーパンク』というジャンルだった。

  (つづく)





――――――――――――――――――

後書き


『ハイフン - E』はどんなドラマなのか…⁉


イラストは『ハイフン - E』の宣伝ポスターです。

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330656346664170

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