38 美月 vs. オタク (イ付)



四月にツバサプリンセスの春ステージがはじまって、応援しに行きたい気持ちはあったが、去年からもう六回東京に行ったので控えた方がよくないかと思った。だが母と話すと彼女は大丈夫だと言った。「幸せならね。普通に彰くんは金をいっぱい使うわけじゃないし」

  「……はい」

  その土曜日、ステージに多くの花が飾られて、ツバサプリンセスの衣装も、もともとの青色のパステルカラーからピンクのトーンになった。もう四、五ヶ月経ったか美月の演技がうまくなったと同時に、二、三十人だった観客が気づいたらもう二倍になったらしい。『ツバサプリンセス』と探索したらユーチューブに彼女の動画がいろいろあって、数十万回で一番再生されたのは一月に彼女が転んで下の短パンが見られたときだけど。主に動画を撮ったのは彼らじゃないか……

  隣に立っている男たちの鉢巻はなんと書いているかあまり見えなくて、ペンライトをまわしてツバサプリンセスと合わせた応援ダンスも上手くしていた。六人組の彼らは、その見た目から、もしスヴェンが一緒にいたら指差して『オタク!』と呼びそうだった。ダンスしないときに彼らは写真や動画を撮ることに夢中で、三時半に演技が終わって美月はいつものようにマスコットのすんすんくんとみらくちゃんが一緒にステージを降りて観客に挨拶しながらまわると、急に彼女は彼らに巻き込まれた。

  大丈夫かと思うのは多分見ていたほかの家族の客もそうだった。そして男たちはいろんな質問を聞いた。「浅井さんは十六歳ですね」

  「はい」

  「高校二年生ですか」

  「そうです」

  美月の笑顔には一切恐怖が見えないけど。練習のおかげか。

  ほかの人も彼女に質問をすると、さっきの男は続けた。「やっぱり新鮮さが溢れていますね。僕らは池袋に魅力的なアイドルがいることを発見して本当に運がよかったんです。浅井さんはこんなに才能があって、もっと大きなチャンスをつかまないですか」

  「それはなんですか?」

  「アイドルになることですよ!」

  彼は言うと、近くに立つもっと太い男は追加した。「そんな感じですね。『湾岸ST』や『桜田ST』『晴海ST』みたいにオーディションを受けたら絶対合格します!それで浅井さんの魅力が広がるなら、全国のみんなは今の僕らみたいに幸せになれます!」

  「おお!」

  そうみんなが合唱すると、美月はすんすんくんの方に振り向くと彼らに答えた。「事務所にも言われましたが、まだ私は決めていないです。でも難しいですね、アイドルって。歌ったり、踊ったり、今は少しだけど私もうちょっとぎりぎりです」

  最初の男が言った。「そうじゃないですよ!浅井さんは全力で頑張っていることがはっきり伝わったんです。しかも、浅井さんの笑顔は国宝だと言えます!ね、みんな!」

  「おお!」

  実はラグーンの関連する音楽の事務所が新しい十二人メンバーの『Chuo Presto』というアイドルグループを結成していて、オーディションを受けることをラグーンは美月に提案したことがあった。売れたら女優より仕事はもっと安定するので、前月美月は私と長く話し合ったが、結局断ったのは今、前の男たちに言ったこのことが理由かと思った。


  この間、美月のお兄さん直弥のことと言ったら、二年前に彼は友だちの期待通りに東京の有名な都士庶みやこししょ大学を受かり、先に東京に引っ越した。今はお母さんと美月もここにいるから三人は一ヶ月に一、二回くらい会って、新学年がはじまった後、休日に美月は直弥さんの大学を訪れてから外食する際、彼のアパートにも寄ったそうだ。普通の1Kの部屋でお母さんと美月のマンションと比べられないが、彼は文句がないのは偉いと思った。だけど、美月と話すと、彼女は『髪の毛』のことを持ち出した。「髪の毛?」

  電話で聞くと、美月は言った。「うん、女のだ」

  「……でもいいでしょ」

  今まで、知っている限り直弥さんの三、四人の彼女はギャルっぽくて、髪の毛は校則を無視して明く染めていた。でもその日部屋の床にあった黒い髪の毛を見つけて美月は安心したようだった。「多分その辺にいるかわいい大学の女子みたいね。結局お兄ちゃんがギャルを卒業してよかったんだ」

  その三、四人の元彼女はどこかの女子高生だったけど、でもその内の一人は高知県のスナックバーの女の人のようだった。

  直弥さんは友だちと高校の卒業旅行で島根の南にある四つの県からなる島、四国に行ったときだった。最初だれもその女のことに気づかないが、知ったのは井上さんからだった。直弥さんの親友の彼女は、チューハイのパーティーからまだ私のことを覚えていて町で鉢合わせしたときもあって、スーパーで彼女は美月のお母さんと長くしゃべってそれがバレた。まだその女の身分はわからなかったが、美月と電話で私は聞いた。「スナックの女って、客以外ママさんもそうね……ママさんなら四十、五十代くらい?」

  「七十代もいるよ、高知って。お兄ちゃんはなに考えてるの!」

  なぜか美月は怒っていた。

  もし日本地図を見たら、最北端の北海道という大きな島から、本州、東京のある島に進むと、東北の地域は宮城県の仙台が多分代表の市だ。また細長い本州を西南に沿ったら東京、そして愛知県に名古屋市があって、そこから関西の京都と大阪に着くと、最南端の諸島沖縄の方向に本州の末端まで行ったら、九州という地域にある福岡県は都会だそうだ。日本には全域にいろんな重要なところがあるが、そのなか、謎の県が多い。

  新潟県と言ったら、宮城県とそんなに離れてなくても、たまにスーパーで見かけた新潟県産と書いた米以外この県について私はなにも知らなかった。群馬県なら、東京に近いけど、この県のことはユーチューブに県の山道の設定として車のドリフティングゲームとアニメの動画しか見てなくて、レースコースの県かと思った。多分出雲大社のおかげで、島根は同じに聞こえる滋賀県と佐賀県、そして福岡県に間違われた福井県と福島県みたいな謎の存在じゃないけど、どれもド田舎そうだ。そこら辺の人は美月みたいに自分の県はそんなに田舎じゃないと信じていそうで、より田舎の高知ならおばあちゃんをスナックバーで働かせるのは当たり前と思うなんて、田舎の人の精神だろう。

  それに直弥さんはもう有名な東京の都士庶みやこししょ大学の法学部に入るから、彼のことより、美月は自分のことを考えるべきじゃないか。

  いろんなことのなかに、新しい高校に転校する美月には問題があるかと心配したが、初日から同級生とお弁当を食べたそうでよかった。だけど三日目に、板垣希という名前のその友だちは急に冷たくなって、東京の人は変だと美月は文句を言った。だがそんなことを話しながら、いつものように私と彼女は方言でしゃべって、東京のだめなところを言うのは、田舎の子ということじゃないかと思ったが、笑うのを控えた。

  え、私も島根の人だっけ。


  すると次の日の放課後に、ちょっと話があると美月のメッセージが来ると、テニスの部活をサボって人がいないところで私は電話した。「彰くん。私はめっちゃバカね」

  「うん、なんで」

  「あの希ちゃんってさ、双子だ」

  「え?」





―――――――――――――――――――――

板垣が双子で勘違いするのは大きな展開ではありませんが、話を切る良いところがわかりませんでした(笑)

(前に美月は学校で違い、知らない双子(渚)に挨拶して冷たくされたので、東京の人が変と彰に愚痴を言ったことです)


次の話は、美月が深夜ドラマに?!


備考 

群馬県=レースコースということは群馬県が『頭文字D』の設定なので、彰はそう印象を受けました。


ツバサプリンセスの美月とオタク達のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kamakurayuuki/news/16817330651004508404

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る