一章【ラマス】訓練学校

第2話 乗り間違い

【ライモンド】につれられ補給部隊の元へ訪れた【新二】は、【ライモンド】が【新二】の事情を軽く補給部隊の隊長に伝えると、隊長は若干嫌な顔をする。しかし直ぐに兵士の顔に戻り戦線を離脱する兵士の乗る馬車へ【新二】を案内した。


「失礼します・・・!!」


馬車の中には身体の一部が欠損した兵士、顔をミイラのように包帯を巻いた兵士、窶れてガリガリになった兵士などが生気のない瞳で【新二】を出迎えた。


「余り見てやるな、失礼だぞ?」


「すみません・・・」


隊長に小声で指摘され【新二】は力無くうつ向く。


「誰もがで帰れる訳じゃない、戦争が終わる前に戦線離脱をする兵士の大半は心、身体に消えぬ傷を負った負傷兵だ。下手な言葉は不要な争いになるから町に着くまで喋らないことだ。はよ乗れ」


隊長にせかされ負傷兵の隣に座ると生臭く、気持ち悪い臭いが流れてくる。しかし隊長の言った不要の争いを避ける為に【新二】は膝を抱えて丸まり。町に着くまでこの耐え難い空気の中じっとしているのだった。


悪臭と馬車の振動によるケツバット、もといい床バットに耐える事3日、食事は朝夕の2回でベチャベチャな得体のしれないスープ。馬車の外へ出られるのは道中の町や村で馬を休ませるときのみで、【新二】にとってこの休み時間が馬車の悪臭から解放される唯一の貴重な時間だった。

 そしてそこからしばらくたち、夜明けとともに馬車は無事に目的地の町【サロイン】にたどり着き、【新二】は馬車の外で大きく呼吸をして外の新鮮な空気に感謝をした。


「坊主、孤児院はこの道を真っ直ぐ行って緑の屋根の建物を左に曲がり。やがて馬車の停留所が見える。そこで【戦争孤児なんですが】と言えば孤児院行きの馬車に案内してもらえるだろう」


「ここまで送っていただきありがとうございます」


「じゃあな坊主、今回の件に懲りたら二度と戦場に来るんじゃないぞ」


御者の老兵は手綱を鳴らし馬を進ませ、【新二】は苦笑いしながらも小さくなる馬車の背中に頭を下げた。


「どうしてこうなったのだろう・・・」


現在【新二】は【ラマス】兵士訓練学校で、分厚い生地に、灰色の長袖、長ズボンの訓練服に着替えさせられており。目の前には一人の老兵が【新二】を含む若者達に向かって立ち、歳に似合わぬ凄まじいプレッシャーを放っていた。


遡る事数時間前・・・【新二】は御者に言われた通り、馬車の停留所に行きついた。そして孤児院行きの馬車を探す為に、誰に話しかけようか迷っていると【ライモンド】さんや御者のお爺さんと同じ服装の兵士がおり、全員が見知らぬ人の中、少しでも安心出来る要素のある人に聞いたのが間違いだった。


「あの・・・戦争孤児なのですがーー」


「そうか、そうかそれは大変だったな。だが大丈夫、そんな君でも立派になれるから!!さぁ馬車にお乗りなさい」


「えっ?あっ、はい・・・」


兵士は【新二】の言葉を最後まで聞く事なく【新二】を馬車にのせ、【新二】自身、多少不安になりながらも御者のお爺さんの道案内を繰り返し胸の中で呟き、安心をさせていた。

 だが馬車がたどり付いたのは明らかに孤児院とは思えない立派な建物の施設。移動中薄々感ずいていたが一緒に馬車に乗っていた同年代の人は全員志願兵の人達だったのだ。


そして時間は現在に戻る。


【どいつもこいつも尻の青い鼻垂ればかりだな】


老兵の圧力ある重い言葉に、集まった若者達に緊張感が走り、若者達の顔が自然に引き締まる。


「だから言っただろう?【番人】さんだけは絶対駄目だって」


「そんな事俺も知ってたよ、だけど本人の強い希望じゃ【兵士長】でも断りきれないって」


「過去の試験では【訓練兵】500人を全員させた化物だぞ」


「今年の【訓練兵】達には同情するぜ」


老兵の後ろでベテランの兵士達が小声で喋っており、老兵は一つ咳払いすると素早い動きで拳を後ろの二人の頭に落とし。ベテラン兵士は釘のように地面に打ち付けられノックアウトした。

 

「ワシは【クルシス・ブラウン】今日からお前ら鼻垂れの教官になった者だ。ワシは相手が小娘だろうが小僧だろうが駄目なら平等に拳骨を落とす。さぁ鼻垂れども身体測定の時間だ、まずは裏山を100周してこい。出来ねぇ奴は拳骨だ!!」


【【【【ハイィィイイ!!】】】】


悲鳴を上げながら我先にと若者が走りだし、こうして地獄の訓練が始まったのだ。


「はぁ・・・はぁ・・・この裏山一体一周なんキロあるんだよ・・・」


数百人はいた【訓練兵】の中最下位付近で走る【新二】は薄暗い裏山の中を走っていた。

 山道は石がゴロゴロと転がっている上に濡れており、途中何度か転びながらも【新二】は走っている。


「全くとんでもない所に来たぜ・・・」


「だよな、何で俺がこんなに苦労してまで兵士にならなきゃならんのだよ」


走り初めて30分は立つ。徐々に訓練兵の中に歩みを止める者が現れ、そういった者は同じように歩みを止めた者同士で集まり、古株や石の上で雑談を始めた。

 【新二】も歩みを止めたい気持ちになるが、【番人】と呼ばれていた老兵の拳骨を食らいたくはないので。走っていたと言う言い訳が出来る程度の早歩きをしながら、諦めた者達を追い抜いていった。


「そこまで!!」


日が沈み始めた頃、老兵の声が裏山に響き渡り。【訓練兵】がグラウンドに集められる。


「裏山を100周できた者は無し!!よって全員拳骨に値する!!」


「理不尽だ!!、第一あんなに広い裏山を100周なんて出来るわけがない!!」


「黙れ小僧!!」


老兵の拳が【訓練兵】の頭に落ち、【訓練兵】は白目を向いて地面に倒れる。


「「「「うぁあああ!!」」」」


【訓練兵】達はパニックになり散り散りに逃げるが、老兵は人とは思えない異常な速さで【新二】含む全員に拳骨を食らわせ殲滅する。


「鼻垂れ小僧どもがワシから逃げるなど100年速いわ」

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