第27話 洞窟の主
「これはヤベェーなぁ・・・」
【サイモン】がそう呟いた光景は、高さ50メートル、直径200メートルはあるドーム状の空間に、一面広がる透き通った地底湖。中心には白く巨大な鍾乳石が塔のように立っており、何処から入った外の光が水面を通過し、地底湖の底からドームの天井へ美しい光の水面を写し出す。
「この白い天井、壁が全部そうなんですか?」
「ああ、全部【石灰岩】で出来てやがる」
【サイモン】は感動に打ち震え、涙が頬を伝った。
「しかしどうやって採掘します?」
【新二】は足をバシャバシャと水に出し入れし、この環境でどうやって【ファイゼ】村まで大量の石灰岩を運ぶのか【サイモン】に問う。
「別に方法はいくらでもある。これだけの範囲に【石灰岩】があるとなれば、地上から【露天堀】でもええし、洞窟に流れる水を利用していかだを作ってもええ」
【サイモン】と【新二】は地底湖の畔を歩き、他の出口が無いか探査する。
【サイモン】は自分たちが来た道を忘れないように槌の角で壁に矢印をつけながら周る。ドームの壁には大小様々な穴が水中、上空問わず空いており、水中には時折【石灰魚】の泳ぐ姿が見えた。
「【サイモン】さん・・・【石灰魚】って石灰岩を食べる時はやっぱり正面からかぶり付くんですよね・・・」
「なに当たり前な事を言ってるんだ【マエダ】の旦那。そうしねぇと食べれねぇーじゃねぇか」
【新二】の歩みが止まり、【サイモン】は様子を見に振り返ると【新二】がドームの天井を指差しした。
「さっきまで自然に出来たドームだと思ってたけど、均等に抉られた天井の凹凸。もしかしたら・・・」
「イヤイヤイヤイヤ、それはねぇって!!【マエダ】の旦那の話しだと口の大きさだけで数メートルはある【石灰魚】が地底湖からジャンプして天井を喰ってるみたいじゃねぇか!!。そんな巨大魚聞いたこと・・・?!」
突然静かだった水面が爆発し、天井めがけて巨大な魚が宙を泳ぎ、天井を食いちぎる。
【【なっ?!】】
体長20メートルはある【石灰魚】はそのまま地底湖に飛び込み、【新二】達の身長を越える波お越す。
【上の穴に上がれ!!】
【サイモン】は叫び【新二】も急いで壁に空いた穴に入り込み、波から辛うじて逃れる。
「【サイモン】さん!!【石灰魚】は体長10センチを越える事は無いんじゃなかったんですか!!」
「ワイも本を読んで知識として言ったまでやい!!文句なら本の著者に言いやがれ!!」
【新二】達の声に気付いたのか巨大【石灰魚】は水面に背鰭を出しながら地底湖の壁際をゆっくり、堂々と泳ぐ。
「見逃してはくれねぇだろな」
【サイモン】が言うと巨大【石灰魚】は水中に潜り【サイモン】【新二】目掛けて白い泥を発射する。
「【千時】!!」
深緑の魔力を纏った斬擊が白い泥を左右に切り裂き、壁にかかった泥が白い湯気を上げて急激に硬化する。
「職人もビックリな速乾セメントやな」
「流暢に解析してる場合ですか!!逃げますよ!!」
【サイモン】と【新二】は水面を力強く踏み、水飛沫上げながら走る。背後から次々発射されるセメントのジェット放水は二人の脇や頭上、足元に外れ、走りながら【新二】は地底湖に斬擊を放ち、少しでセメントの標準がズレるように祈る。
「あともう少しや!!このまま駆け抜けるでぇ!!」
「はい!!」
出口まであと30メートル。中に入ってしまえば地底湖の中から発射するセメントは角度的に当たり得ない。
何とか逃げきれる。そんな安堵感が出てきた時だった。
【(何かがいる)】
それは【新二】から見て左前側50メートル先の水面より、更に下に30メートルほど潜った深さのエリア。常人にとって見えるはずも無い距離と深さだがその時【新二】は確かに感じた。
「【サイモン】行くな!!」
「へっ?」
【新二】の手が【サイモン】の肩を掴み、半ば引き倒すように【サイモン】を後へ転がす。次の瞬間、出口にセメントが直撃し、間一髪【サイモン】は巻き込まれずに済んだ。
【テメェ!!いきなりなにをって・・・出口が!!】
出口はセメントによって完全にふさがり、心なしか水面に半分浮き出た【石灰魚】の顔に悪意を【新二】は感じた。
「スーーフゥーー・・・【サイモン】さん、どのみちコイツらを倒さなければ安全にここを出られないし【石灰岩】も採掘出来ないんだ」
【新二】は呼吸を整え、覚悟を決める。
【ここで仕留める】
【新二】は深緑の魔力を纏わせた斬擊を水面下の影目掛けて放ち。轟音と共に水面が割れ、水飛沫が立ち上る。
「【サイモン】さんは上の穴に避難していてください、あと余裕があれば【石灰魚】の様子も教えてくれるとありがたいです」
「おう!!死んだら招致しねぇぞ旦那!!」
【サイモン】は壁の凹凸に足をかけて上の穴に登る。
「(来たな!!)」
水面が爆発し、セメントが【新二】に向かって迫る。【新二】は姿勢を低くしながら壁沿いを走り、【新二】の背後に次々セメントが着弾。壁に幾つもの穴と土煙が上り。液体のセメントに加えて固体のセメントまでも【石灰魚】は撃ち始めた。
「(一発でも被弾すれば身動き取れない隙に殺られる。湖に落ちても岸に、上がる前に撃ち抜かれて終わりだな)」
【新二】の深緑の斬擊、【石灰魚】のセメント攻撃は互いに被弾する事なく水面と壁を荒らし。冷たい水と泥に足を取られる【新二】は体力の消耗が激しく、嫌な冷や汗が流れ始めた。
「(水面下の見えない【石灰魚】に斬擊を当てる方法かぁ・・・)」
【魔力感知しかないですね】
【千時】の声が脳裏に聞こえる。
「(だよなあ!!)」
【新二】は足を止め、湖に向かって力強く立つ。
「これで死んだら笑い者だな」
【新二】は目を閉じ、心を落ち着かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます